『テーマ館』 第32回テーマ「狂気」


狂ってる。 SOW・T・ROW 2000/04/12 13:11:46



      「今日は転校生を紹介します」
      翠先生は、僕たちに向かって明るい声を向ける。先生は明るい。皆先生が好きだ。
      先生の指し示す方向、教室のドアから1人の男の子が出て来た。
      「宝沢浩二君です。浩二君は、昔から重い病気でずっと病院にいました。
      だから、学校に来た事がありません。皆、色々教えてあげて、仲良く下さいね」
      宝沢浩二というその子は、まさに病院出と言った、ひょろっと背の高い男の子だった。
      「宝沢浩二です・・・・。宜しく」
      「暗いなあいつ」隣の席の山崎が言った。
      「仕方ないよ。ずっと病院にいて、友達もこっちに1人もいないんだろう?」
      「そうだけどさああ・・・」山崎の人間判別は、明るいか暗いかだけ。
      「じゃあ、洋次君の隣の席ね」と、翠先生は僕の隣を指差した。だまって、彼はこちらに来た。
      「僕は、支離真洋次。こっちは山崎鉋。ヨロシクな!」
      「うん」少し、明るい顔になった。不安だったのだろうか。友達がいないと言う経験が無いから、
僕には無いから良く分からないけど、きっと寂しいのだろう。そうだ。
      「じゃあ、友達になろうよ」
      「え?」彼は、意外そうな顔をした。でも、嬉しそうだった。友達がいれば寂しくない。
見たところ、別に悪い子には見えない。友達が増える事は、とても嬉しいし。
      「・・うん」
      「よし。じゃあ、交換しよう」
      「交換?」彼は、意外そうな顔をした。あれ?知らないのかな?
      「そうだよ。友達同士は、自分の物を交換し合うんだ。そうすれば、ずっと友達でいられるでしょう?」
      「ああ、そうなんだ。いいよ」と、彼は納得して、笑った。
      「それじゃあね、右手はないから、左手の小指ね」
      「え?」彼は、さらに意外そうな顔をした。本当に知らないらしい。よし、
まずは僕が見本を見せてあげよう。僕は、ポケットから薬を取り出してそれを飲んだ。
      「ちょっと待っててね。痛み止めだから」体の感覚が麻痺して来てから、
僕はナイフを取り出し、自分の小指を切った。少し血は出たけど、止血剤入りの痛み止めだから大丈夫だ。
      「うああああ!!」彼は驚いて椅子から落ちた。
      「何驚いているんだ?」山崎が不思議そうに浩二君を見る。僕も不思議だった。
何か変な物でも見せただろうか?まあいいや。それじゃあ、こんどは。
      「はい。僕の小指さ。今度は、浩二君。君の物をくれないかい?」
      「へ?僕の・・」泣きそうな顔で僕を見る。変な子だ。
      「そうだよ。体の一部を交換するんだ。そうすれば、しんゆうになれる」
      「いいいいいやだよ!!」涙を流して、鼻水を垂らして、喚いている。
周りの子も不思議そうに、浩二君を見る。本当に変な子だ。
      「いやだいやだ!!うあああああああああああああ!!」そう叫んで、彼は逃げてしまった。
      「何だあいつ?」
      「判らない」

      「狂ってんじゃねえの?」