第50回テーマ館「記念」



でたらめ七夕伝説の詩 ひふみしごろう [2003/07/10 01:18:11]


むかしむかしのあるところ
ひとつの国家がありました
ひとりの女神に守られた
完全無欠の国でした

うつくしく強きその女神
地獄の魔物もかなわない
いつもは夜空の彼方から
みんなの暮らしをみつめてる

ところがある時ひとりの王子が
突然みんなに言いました
女神の力にたよらない
ほんとの幸せ見つけたい

国のみんなは言いました
あいつは愚かだ大馬鹿だ
女神を信じぬその心
王子といえども許されぬ

ところがその時ひとりの侍女が
片手を挙げて言いました
そんな幸せあるのなら
わたしもこの目で見てみたい

ドジでのろまなその侍女は
みんなの中でもみそっかす
けなげなところは取り柄だが
けなげで仕事はこなせない

女神を信じぬ愚か者
二人はみんなの笑い者
なかには愚かな二人のことを
呪うものまであらわれた

それでも二人は気にしない
幸せ求めて旅に出る
笑わば笑え呪わば呪え
『立ちふさがるなら覚悟しろ』

幸せ求めて幾星霜
二人の歩みは止まらない
いかに石もて追われても
いかに叶わぬ夢であれ

そんな二人の道行きは
ある日女神の目にとまる
己を求めぬその姿
思い上がりに程がある

弱くて脆いニンゲンが
幸せなどとは笑わせる
あまりに不様なその姿
記念にこいつをくれてやる

女神はひらりと手をかざし
ひとつの炎をつくりだす
魔王も恐れるその力
王子にむけてふりおろす

空から降った火の玉は
王子のすべてを焼き尽くす
ひとり残った侍女はただ
その場に伏せて泣き尽くす

三日三晩を泣き尽くし
ようやく侍女はたちあがる
そして新たな一歩を踏み出す
『わたしの幸せとりもどす』

    #

一人ぼっちの侍女は行く
人に笑われ傷ついて
あまりに惨めなその姿
それでも彼女は止まらない

たとえどんなに遠くとも
いかに心が傷つくも
疲れて動かぬ腕を上げ
夜空の彼方に手を伸ばす

めぐりめぐって幾星霜
ようやく侍女はたどりつく
夜空の彼方のその果ての
女神の佇むその前に

夜空の彼方に至るなど
生身の人にはありえない
それでもお前はやってきた
なにがお前をそうさせた

女神の問いに侍女は言う
わたしの願いはただひとつ
も一度王子と二人して
叶わぬ夢を求めたい

侍女の揺るがぬその瞳
迷いも曇りもみあたらぬ
女神はあきれて首を振る
ただ深々と首を振る

そんなくだらぬ思いのために
こんな場所までこれたのか
あまりに不様なその思い
記念にこいつをくれてやる

女神はひらりと手をかざし
ひとつの炎をつくりだす
魔神も恐れるその力
侍女のすべてを焼き尽くす

    #

女神は何もなかったように
つまらなそうにため息ひとつ
使いの小男現れて
『いくらなんでもあんまりだ』

おまえもこいつが欲しいのか?
女神はひらりと手をかざす
小男あわててとびのいて
めっそうもないと首を振る

あたりは夜に覆われて
広い広間に小男ひとり
どこか哀しいため息ひとつ
そして小さな歌声ひとつ

闇の帳の広間の中に
まばゆく輝く小さな光
男の歌に誘われて
いくつものそれが生まれ出る

歌を囁く小男は
光の渦に目をこらし
光の中から光を二つ
無限の夜空に解き放つ

二つの光を見送りながら
男はゆっくり首を振る
これが俺には精一杯だ
『あとは自力でめぐりあえ』

    #

星の瞬く夜空の中を
二つの光が駆け上がる
その美しさに人々は
記念にその日を“タナバタ”と呼んだ

   <おしまい>
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