第50回テーマ館「記念」



風の姿 金環蝕 [2003/07/30 19:48:22]


昔々、語り部のお婆さんも忘れているくらいの昔、とある村の広場に大きな石がありました。
その石の高さは大人二人分ほどでしたが、石は倒れる事も無く、空に向かって聳えていました。
広場には泉や木立があり、子供たちの遊び場となっていました。石も例外ではなく、子供たち
は登ったり凭れたりして遊んでいました。
空に千切れ雲が三つ四つある平和なある日、一人の旅人が村へやってきました。旅人は石と、
石で遊んでいる子供たちを見ると「おや、もったいない」と言いました。村人が何故かと尋ねる
と、「こんなに大きな石が村の広場にあるのは不自然でしょう。それにこんなに綺麗な形になる
のは人の手が加わったに違いない、おそらく何かの記念碑だったのでしょう」と答え、旅人は去
っていきました。
村長が村の歴史を調べてみると、記念碑が建てられるような事件は一つだけ、村が昔に出した
若者が国の戦いで敵を八百八も殺し、一万十の敵を震えさせた功績で勲章を頂いた事が分かりま
した。
石はその記念碑に違いないと言う事になり、子供たちはその岩で遊ぶ事を慎むように言われ、
若者の命日と言われる日には祭りが開かれるようになりました。
祭りが終わって数日、雲一つなく太陽が手持ち無沙汰に照っているある日、前の旅人とは違う
旅人が村を訪れました。旅人は石と、周りの木立や泉で遊んでいる子供たちを見て、「おや、も
ったいない」と言いました。村人が何故かと尋ねると、「何故、子供たちはあの石で遊ばないので
すか?」と尋ね返しました。村人が今までの経緯を語ると、その旅人はカラカラと笑って言いまし
た。
「私の前に来たその旅人は嘘吐きで有名な奴です。おそらく口からでまかせを言ったのでしょ
う。村の中央に大きな石があるのは、この石を目印に村を造ったからです。石がこんなに綺麗な
形なのは何百年も風雨に曝されていた所為でしょう」
そう言うと旅人は去っていきました。

最初の旅人の話が正しいのか、次の旅人が正しいのか、それは村人には分かりませんでした
が、彼等はその石で子供等が遊ぶのを許し、若者の命日の祭りは徐々に廃れていったそうです。

了

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