毎日が記念日 しのす [2003/09/11 06:09:22] 彼女は古ぼけた手帳をうれしそうに見せた。 パラパラとめくってみせたその手帳は日付がついたものだったが、それぞれの 日付の所に几帳面そうな細かい字で広哉のことがびっしりと書かれてた。 高校サッカーの決勝でハットトリックをした、初めて少年サッカーに参加した、 大学に受かった、海外のチームからオファーが来た、等々その日にあった 広哉に関することが書かれていた。 毎日が記念日なんですよ、と彼女はうれしそうに笑った。 でも明日が広哉にとっても私にとっても一番大切な記念日になりそうです。 彼女は女手一つで広哉を育て、サッカー選手として世界に出ていくまでに 育てたのだった。 明日広哉は世界に向かって飛び立っていきます。感無量ですよ。 広哉の友人である私は、彼女に別れを告げて、家を出た。 彼女に明日が来ることは、ない。 七年前、広哉を乗せた飛行機は墜落し、彼は死んでしまった。 それ以来彼女の時間は、出発の前日で止まってしまったのだ。 戻る