『テーマ館』 第20回テーマ「勘違い」



 「学校」   by はなぶさ


      昇は同級生の裕一にCDを貸した。裕一は次の日、CDを学校に持参して返そ
      うと思ったが、昇はその日は弓道の県大会のため欠席だった。裕一は明日から
      旅行で家族とアメリカに行くので、同級生の純江に昇に渡してくれるようにお
      願いした。純江はカバンに入れて持ち帰った。

      次の日は、朝から持ち物検査があったので、純江はCDを先生に見つかった。
      CDくらいは問題ないのだが、先生がそのミュージシャンを溺愛しており、C
      D談義になってしまった。その後CDをカバンに戻し、純江は先生に好意を抱
      いていたため、先生の方を見つめた。昇はその日出席していたが、純江と話す
      機会はなかった。昇は昨日の惜敗で落ち込んでいたからだ。

      それから一月後に裕一は純江にCDのことを確認してみた。純江は預かってい
      ないと言う。昇に確認しても貸していないと言う。二人ともすっかり忘れてし
      まったようだ。裕一はもしかして、自分の記憶が捻じ曲がったものかと疑りは
      じめた。そして、二つの記憶、つまり昇に貸したことと純江に返すよう頼んだ
      ことは裕一自身の願望によるものだという結論に達した。その間に心療内科や
      心理分析の本を読んだのは言うまでもない。そして、裕一の考えではCDは自
      分の化身であり、昇に対して借りを感じていると思った。そして、純江に対し
      ては好意を受け取って欲しいと思っていると感じた。

      ある日、昇に裕一は頭を下げた。
      「俺って正直じゃなくて、ごめん。スポーツが得意なおまえにはいつも世話に
       なっているよな。おまえのおかげてクラスから浮いた存在にならないで済ん
       だと思ってるんだ。」
      昇は唖然としていたが、気にするな友達だろ、と肩を叩いた。二人の仲は固い
      ものになったようだ。

      次の日、純江に告白をした。
      「俺って、得意なことはあまりなくって、自慢できることはないけれど、おま
       えを好きだって気づいたんだ。純の気持ちを聞きたい。」
      純江は突然の告白に、言葉はつまったが純江は握手を求めて微笑んだ。その後
      二人は仲良く帰ることになった。とりあえず、付き合ってくれるそうだ。

      CDの行方は誰も捜そうとはしなくなった。


(投稿日:06月28日(日)00時43分39秒)