『テーマ館』 第20回テーマ「勘違い」



 「自転車と電力会社」   by NORA


       夜に自転車をこぐと、ペダルがすごく重くなる。
       幽霊が気付かないうちについてきたからとか、子泣きじじいが背中に張り付いたからじゃない
      なんてことはわかっている。当然。
       じゃあなんでペダルが重いのかって言えば、ヘッドライトをつけるからなのだ。多分。
       ヘッドライトをつけるとなぜペダルが重くなるのか?
      「それはあれだ、ペダルをこいで電気を起こすからな。そのせいで重くなるんだ」
      「そうかあ」
       父さんの言葉に僕は頷いた。
       ペダルをこぐことと電気が起こることのつながりが今ひとつ飲み込めないが、
      ついつい知ったかぶりで納得してしまう。
       とどのつまり、自転車のペダルをこげば電気が起こる。
       電気を起こすには自転車のペダルをこげばいいわけだ。
      「停電になったときペダルをこぐとな、ちゃんと灯りがつくんだぞ」
       父さんは「ひとつ賢くなったな」と、僕の頭を大きな手でポンポンと叩く。
       僕は「じゃあ電力会社の人は大変だね」と父さんに言った。
      「だってみんなで、いっぱい自転車こがないとダメだもんね。
       毎日一生懸命こいでくれないと、家に電気がこなくなっちゃうもんね」
       ちょうどお茶を持ってきた母さんと、座ったままの父さんが目を見交わし、
      こらえきれずに笑い出した。
       きょとんとしたままの僕は、ふたりの笑い転げる意味が、さっぱり理解できなかったんである。


                                        −END−       

(投稿日:07月29日(水)21時05分14秒)