第36回テーマ館「モンスター」



探し者 三城 智人 [2000/11/27 12:21:43]

 あの時から、俺達は探しつづけてきた。俺達を恐れなかった君を。
 俺達の秘密を知っても、君は恐れなかった。それどころか、君は笑顔で自分を差し出してくれ
た。
 犯罪が多発している現在、俺達は食事にはこと困らなかった。けど、極上のものは次第に少な
くなっていった。今はもう、ただ生きるために食事をするだけ。味覚など、当の昔に失われてし
まった。そう、思っていた。君に出会うまでは。
 初めはただの餌だった。ただ生きるための餌。そう思っていた。だが、いつの頃からか、君が
俺達にとって大切な存在になっていた。
 カインも、そう思っている。今まで出会った、唯一の同種。カインといると、何故か心が落ち
着いた。あいつといるだけで、自分が自分であれる。
 最初に君を見つけたのも、カインだった。血だらけの君を、カインが何処からか拾ってきた。
 カインも俺も、本当は全て食べ尽くすつもりだった。だが、一口口にした瞬間、君の心が流れ
込んできた。
 とても悲しく、絶望的な感情。誰も信じず、何にも頼れなかった。
 そんな感情がすごく、似ていた。俺達に。
 だからだろう。君といたいと思ったのは。君と話し、笑いあいたいと思ったのは。
 そして、君を口にした瞬間から、俺達に味覚が戻った。いや、ただ忘れていただけなのだ。こ
んなにも極上の餌があることを。
 今はもう、人間達が忘れてしまった純粋さを、君がもっていた。君のもつ純粋さが、俺達の食
事の、最高のスパイスになっている。
 俺達の食事は、人間は血だと思っている。血を食らうバンパイアだと恐れ、追放する。だが、
本当は俺達は血など食らわない。ただほんの少し人間から何かをいただくだけ。殺しはしない。
 その何かは、俺達にもわからない。ただそれをどう食すのかは、何故か知っている。身体が、
知っている。
 放心状態だった君は、自分以外何も覚えていなかった。だが俺達の秘密を話しても、君は恐れ
ず笑って自分を差し出してくれた。今までそんな奴なんかいなかったから、俺達は本当に嬉しか
った。そして、楽しかった。君と一緒に過ごした数日間は。
 たった数日間だけで、俺達は君に愛おしさを感じていた。黙っていなくなってしまったいまで
も、その気持ちは変わらない。
 そして、今ようやく見つけた。君を。
「緋龍、来たよ」
「わかった。今行く」
 今日、これから君に声をかけに行く。
 君はもう、忘れてしまっただろうか。それでも、俺は、君に話しかける。
「さあ、行こう」
「ああ。やっと話せるな」
 俺達の目の前を、君がとおり過ぎる。その後を、俺達は行く。
 数年間探しつづけてきた君。今ようやく、めぐりあえる。



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