第36回テーマ館「モンスター」



世紀末ネタ cuuu [2000/12/15 20:32:44]

「地球が滅びる」
それを聞いたとき人々は使用期限の過ぎた悪い冗談だと思った。ノストラダムスの予言が外
れて、8ヶ月程過ぎていた。世紀末には終末論が流行る。そういうことを実証した形であろう。
「地球が滅びる。だが一番きれいなところが最期に残り、そして地球は生まれ変わるだろうって
予言。なんでもノストラダムスが予言を外すことを予言した人の予言らしいよ」
「そんなの誰だって予想してたって、馬鹿馬鹿しい」
「予想じゃなくて予言。しかもまだ地動説がなかったぐらい昔の予言だよ」
「そんな亀が大陸背負っていると思ってた人間のいうことなんて信じられないでしょ」
「まぁ、たしかにね」
「最近地震多いし、日本海溝も深くなってるらしいし、それにもう春だしね」
「変なこと言い出す人、実際に増えるけどさぁ、それでも地震を大ナマズのせいにするよりまし
じゃない」
「なにそれ。それより今日のテスト・・・」
学校の友達にも相手にされないようなその予言が表に出ることとなったのはどこかの地学者
の地球滅亡説のせいだったらしい。その馬鹿馬鹿しい学説に当てはまる時期にちょうど予言が存
在したのだ。嘘臭い学説より嘘臭い予言の方がまだ真実味がある。かくして学説は捨て置かれ、
予言の方が広まることとなった。
だが、広まりはしたものの、誰もがまたかと思い、その大半が興味を示さなかったのは当然
のことであろう。信じたふりをして遊ぶことすら人々は飽きていた。
しかし、そんな状況も政府の正式発表があるまでの話である。
昼時の危機感をもって伝えられるのんきな芸能ネタのTVの中にそのニュースは割り込んで
きた。
「えー、ただいまワイド3の時間ですが大変もうしわけありません。たった今、政府のマスコミ
へ対しての発表がありました。正式発表です」
原稿の端を掴んだままのアナウンサーの手が震えがブラウン管にうつしだされた。
「なんと、皆さん落ち着いて聞いてください。少なくともここ1,2年の間に確実に地球が壊滅
するということです。そのことによって人類が滅亡する危険性が非常に高いとのいうことです。
なお、アメリカの記者によりますとかなり近い将来地球全域で大規模な地殻変動が起こることが
予測されているということです」
その時冷静だった者は全く話を理解してなかったか全く話を信じていなかったに違いない。
ほとんどの視聴者は悪い夢を見てる気分になったことだろう。そして一瞬後、TV局に苦情の電
話が鳴り響くことになった。
「いいえ、出遅れたエイプリルフールではありません。はい、これは間違いなく政府の発表によ
るものです」
 世界で一番きれいなところはどこであろう。
 これが人々の最期の希望の卵だ。あまりの気温の低さのため空気の澄みきった北極、それとも
南極か。または自然の美しい南国の島々。自分が生まれ育った故郷か。どうせ死ぬかもしれない
のなら自分が一番きれいだと思うところでという思いもあったのかもしれない。予言を信じた者
は世界の思い思いの場所に散っていった。
 そして、世界の崩壊はあっけなく簡単に訪れた。
 まず海溝の断層が大きくずれた。それがきっかけだった。津波が起こり海水は地上をさらって
いく。さらに世界各地で地震が断続的に起こり、人々の英知の象徴にも見える建築物を崩し去り
、火山の溶岩がそれを覆っていき、そしてまた崩れ去った。まるで卵に罅がはいるように地球は
急速に壊れていった。
「地球は中から壊れていく」
 これは先ほどの某地学者の説であった。今の状況下なら人々は信じたかもしれない。
「地球の中にはなにか巨大な意志が動いている。それが内側から地殻をゆがめている」
 しかし、その学説が真実だと知ったものはいなかったに違いない。世界中が被災しているその
時、地球の中から何かが産まれようとしていた。それは地殻を破ろうともがき、地震やそれに伴
う津波を引き起こし、やがて。
 砕けた地球から生まれたナマズに似た巨大な生命は、卵の殻の欠片ような地表の一部を背にの
せて宇宙に泳ぎ出した。発達した胸ビレをちょうどウミガメのように動かしながら。
 世界で一番きれいな場所。
その海の中から隆起した清らかな生まれたての大地はモンスターの背中に乗ってどこにいく
のだろう。



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