『テーマ館』 第30回テーマ「無題」
語られなかったテーマ館「森/海」 投稿者:遊牧家族 投稿日:11月03日(水)07時43分35秒
募集期間が過ぎてからネタが浮かぶと悔しいものです。
第30回テーマは「無題」ということですので、これを機に過去のテーマに
ついて書かせていただきます。
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テーマ「森/海」
誰かが土手に座っているのが見えた。はじめは気に留めなかったが、よくよく
見るとそいつは漢字だった。少々面食らったが気を取り直して近づいてみた。
改めて眺めると、そいつは「田」と「土」が組み合わさってできていた。
「里」だ。「土」の底辺を土手からぶら下げて、ぼんやり対岸の河原を眺めて
いる。あまりに物憂げだったので、私は思わず声をかけてしまった。
「どうしたの?」
するとそいつは「田」の部分をこちらに向けて(左右対称だからどちらが表か
はよくわからないが)
「森も海も小説書いてもらってるのに、なんで僕は書いてもらえないんだぁ!」
といきなり怒鳴られ、私は再び面食らった。どうも事情が飲みこめない。その
旨を伝えると、「里」は幾らか平静をとりもどし、ぽつりぽつりと話し出した。
* * *
「僕だって、『森里羽美』の名前を構成する一員なんです。それなのに・・・」
大分事情がはっきりした。とあるテーマ小説のテーマに「森」と「海」だけが
選ばれたのだ。こいつは取り残されてしまったらしい。
「きっと、そのしのすとかいう男が入れ忘れたんだな。しかし困ったなあ。今
となってはテーマを変えられるはずも無いし・・・」
と言うと、「里」はまたうなだれてしまった。あまりにも可哀想である。仕方
なくなり、
「わかった。私が書いてやろう」
と言ってみたところ、「里」はにわかに明るくなった。
「本当に?」
「ああ。大船に乗ったつもりでまかせなさい」
私は「里」と手(「土」の上辺である)をつないだ。実を言うと、私は小説なぞ
書いたことがない。だがあれだけ見栄を切った後だと、不思議に自信が満ちてく
るのである。私は「里」とともに家路に向かった。