『テーマ館』 第30回テーマ「無題」


時間のポケット 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:11月03日(水)11時50分05秒

      それは僕のポケットの中に焼き焦げを作っていた。神経まで燃えるようだ。

      他の人がどこへ行くにしろ、今の僕は地獄へ行かなければならない。生まれた
      家の側を流れていた小さな川になる。
      行き着く先は?
      国際文化交流センター
      受験票は僕にとって意外なごちそうだった。レンタオールさんのお宅ですか?
      おめでとうございます!あなたに大学受験への挑戦権が与えられました!ガチ
      ャン!!
      コックは国家、スパイスはちと辛い。
      このテストに限っていえば、インフルエンザと同じようなものだった。
      その進化に人間がついていけない。
      だから僕が行くのは地獄だった。
      天国への扉は、天国側から開ければそこは地獄だ。

      下りた静寂も、舞台の上で手持ち無沙汰の様子。やっぱり、教室を取り囲む軍服
      姿の大人は誰だって気になる。テストがこんなところ−さっきまで陽気なジャマ
      イカ人が折り紙を折っていた−で実施されるのは、カモフラージュのため。
      何に対する?
      そんなこと、誰が教えてくれる?
      とにかく、受験者にテスト用紙が配られた後も、ねずみ色の大人は僕らに自殺を
      迫るような表情を顔に貼り付けたままだった。もしかすると本当に、国家ごとグ
      ルで僕らに自殺を迫って
      いたのかもしれない。
      自殺専用テスト用紙−問題をよく読んで...

      地獄行きを確信する気分ってどうだい?隣の奴にも、前の奴にも聞きたい気分だ。
      結論に達するには早かったかもしれないが、覚悟には早すぎるということはない。
      それも行くのが地獄ともなれば。
      前の席の奴の背中が物語るのは...
      現実の羅列だった。並んでいたのが時間にか、それとも他の何かにかは神のみぞ
      知る。ともかく僕は、僕から一枚の紙片を受け取っていた。その紙片と同じくら
      い、いやそれ以上に、背番号9から浮かび上がった僕も現実だった。
      なんてテストだ!

      レンタオールさんのお宅ですか?おめでとうございます!あなたに...
      合格発表まで4年かかった。オリンピックも繰り返す。前回フィギアスケートで
      金メダルをとったのは大柄で不器量な女の子だったが、今年もやはり大柄で不器
      量な女の子だ。同じ娘かもしれない。
      歓喜はインチキ売薬−使用を中止しないかぎり、絶対無害。
      そして僕は、ポケットの中に4年前のテストの答案を忍ばせている。何をすれば
      いいのかわからない。そうそう。
      この世は、何が起こるか神のみぞ知る。緊張もインチキ売薬。
      だから僕は、あの時のテスト用紙と同じもの、同じ真っ白な配水管洗浄液を飲み
      込んだ。自殺にはこと足りる。
      さいわい、なんの害もなかった。

      手を伸ばせばそこに僕がいた。天国と地獄は隣合わせ。