『テーマ館』 第30回テーマ「無題」


カダカ 投稿者:森里羽実  投稿日:11月10日(水)02時48分14秒

      それは楽しい世界だった
      想像しえない世界の先の
      奇妙にサディスティックな世界だった
      そこではDNAがすべてで
      「不適正」と「適正」に分けられ
      居住区すら分けられてしまうのだ

      不適正なDNAの主人公が適正DNA保持者の血液や尿を使って出世していく物語
      面白いのだが 背中で寒気を感じた
      のめりこんで楽しめる雰囲気がどこかで欠けていた
      ヒトの細胞を使ったクローン実験
      放射能事故によって壊される遺伝子
      環境ホルモン 遺伝子組替え作物
      SFが現実になる世界で私達は生きており 
      もはや夢は永遠に追うことのできない
      倫理と法を超えた境地にまで達している
      それは爽やかな希望でなく うすら寒い硬質の
      かなしみに似た奇妙な感情を私達に植え付けるのだ
      文明が後退するのならば 私達は自らを無機質の次元へと変え
      さながら感情を持ったアンドロイドのように 
      枝先の見えないこころを持て余し 虚無の果てに理想を追い求めるだろう
      そのときそれは現実になる
      私のからだを構成する細胞のひとつひとつに値段がつけられ
      生まれてすぐ運命が定められるときが
      そこに足音も無く ──来ている