『テーマ館』 第30回テーマ「無題」


現実逃避デカ4 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:11月11日(木)21時38分02秒

        奥さんの誕生日のプレゼントを選ぶのに付き合わされている私は、彼の意外な
      一面を見てほくそ笑んでいた。そう、警部はひどく「人間的」なのだ。
        トイレから出てきた警部は、妙にそわそわしていた。
      「ここにもないぞ...どこだ!?」
        銅鑼声がデパートのフロアに響く。
      「え、何がですか?」
      「くそ! 時間がない! 早く探し出すんだ!」
        汗を狭い額に滲ませた警部の勢いに押され、私は後ずさる。背中にぶつかった
      客のおばさんが、怪訝そうな表情を私に、そして警部に向け、足早に立ち去る。
      「どうしたんですか?」私は警部の腕をとり、階段の踊り場まで連れて行った。
      「非道な奴め。一般市民を巻き添えにする気か!」
      「何かあったんですか?」
      「爆弾は時限式だったな?」
      「え...爆弾?」
        声を上げてから、私は慌てて口を押さえた。幸い、誰にも聞かれた様子はな
      い。
      「爆弾が仕掛けられてるんですか? ここに?」
      「下がれ!!」
        突然、警部のぶ厚い手のひらに胸を押されバランスを失った私は、壁に背中
      をしたたか打ちつけた。何をするんですか、と言いかけた私の目に、警部の狂
      気じみた表情が映る。
      「あったぞ...」床の上にそっとかがみ込んだ警部は、
      「爆弾処理班はまだか!」と私に小さく叫んだ。
      「あの...それは...」
      「近づくな...時間がない...」
        しゃがんだ警部の手の中には、小さな、ちょうど指輪のケースくらいの箱が
      あり、きれいなリボンが巻いてある。
      「警部? それは...」
      「お前は避難しろ...処理はオレがやる」
        警部の視線に決意がみなぎっている。  
      「いや、あの、そういうわけにもいきませんし」
      「そうか...」瞳を不意に滲ませ、「いい部下を持ったな、オレは」と警部
      はうつむいた。そして懐からペンチを取り出すと、赤いその箱の赤いリボンに
      刃をかけた。
      「白か...青か...」
        確か赤一色だったはずのリボンが、涙にボヤけてよく見えない。
      「いくぞ!」
        パチン!という音がしたかと思うと、私の視界は完全に白くなり、意識が遠
      のいていった。

      私は今日も、いつも遅れてくる警部を待って、現場に待機している。彼は敏腕
      で知られるデカだ。