『テーマ館』 第30回テーマ「無題」


日常の打破を兼ねて 投稿者:通琉  投稿日:12月29日(水)05時37分57秒

      
       とにもかくにも面倒な事態になった。今日を境に俺は俺でなくなる。
       地下に下りるとそこはもう別世界だった。何がどう別世界かというと、
      「普段めったに足を踏み入れることのない空間」といった感じに過ぎない
      のだが、俺にとってここは別世界に違いないのだ。
       奥に通される。中年を通り越した感じのおっさんがヒマそうにタバコを
      吹かしていた。
       自分も吸っておくべきだった、と後悔する。
       許可を得てイスに座ると俺の緊張は情けないがピークに達した。こんな
      感覚はすごいひさしぶりだ、ともう一人の俺がどこかで思う。
      「・・・・・・その髪は?」
       いきなり来た。やはりヤバかったのか? 俺は頭を掻きながら、
      「金がなかったもので」
      と無理を承知で言葉を濁す。
       カッコつけても始まらないな、と思った。
      「とりあえず、切ってもらわないと困るョ」

       面接を終えた俺は即刻美容院に行った。肩下ンセンチまで伸ばした
      髪があれよあれよという間に床に散っていく―

       バイトなんてできればしないものだナ・・・
       砕かれた心はでもなんとなく晴れやかだった。