第77回テーマ館「音楽」



君の声と僕の鼓動も音楽と呼ぶことが出来るのだろうか 是雪 [2010/06/11 00:44:22]


携帯の着信履歴を見て舌打ちしてしまう。
携帯には「21:27新田智子」とあった。
遠距離恋愛中の彼女からだ。
お互い社会人になって慣れない仕事に追われ、ここ最近中々連絡を取りあえていないか
らせめて週末は電話で話そうと約束をしたのは僕なのに、今日は午後から急に仕事の電
話が入ってやっと落ち着いたのが今0:13だ。
もう、彼女は寝ている頃だろうか。
「寝てるかな?電話に出れなくてごめん。」
色々と言い訳を考えたものの、結局一行だけメールを打って車に乗り込む。
付けっぱなしのラジオからはやたらテンションの高い男性DJの声と最近の邦楽かかかっ
ている。
『5月に入って皆、新しい学校や職場には慣れたかな?今年から遠距離恋愛になっちゃっ
たカップルもそろそろ別れ話が出てる頃だったりして(笑)』
ラジオの声にどきっとする。
『なんてねー(笑)遠距離になっちゃったカップルの皆も、俺みたいに相変わらず独り身
の皆も5月病なんか吹き飛ばして頑張ろうぜ!じゃぁ、今日の2曲目『レミオロメンで電
話』』
急に、着信音が鳴り響いた。
車を路肩に止めて電話に出る。
『もしもし?』
不機嫌そうな彼女の声。
「っあ、もしもし。ごめん電話。今日仕事入っちゃって。さっき終わってから気づいて
さ。」
『・・・・・・・・・』
「本当に、ごめん」
『・・・・・・・・・・・・・・』
重苦しい沈黙。
やっぱり、怒っているのだろうか。
何か、彼女に伝えたいのに。それを言葉に出来なくて、今すぐには会えない距離にいる
のがもどかしい。
「あの、本当にごめん」
結局、出てきた言葉はそれだった。
『っもー、さっきから何回謝るの?』
クスクスと笑いを含んだ彼女の声に少しほっとした。
「いや、本当に悪かったと思ってさ。」
『怒ってたけど、今は怒ってないよ。仕事ならしゃーないもん』
「ごめん。ありがとう」
『ほら、また』
第一声から打って変って楽しそうな声がする。
僕の声もどんどんと弾んでくる。
一週間ぶりの彼女の声。声を聞いただけで仕事で溜まっただるさや、疲れがスーッと落
ち着いていく感じがする。
『もしかして、まだ家に着いてないの?』
「うん、帰る途中だったから」
『そっか、じゃぁ家に着いてからゆっくり喋ろうね』
「時間、遅くなっちゃうけど大丈夫?」
『今さらでしょ?大丈夫待ってるから』
さっきのラジオのセリフの時とは違った意味で、彼女の声にどきっとする。
あぁ、やっぱり好きだ。
君の声を聞くたびに僕の鼓動が高鳴っていく。
『それじゃぁ、待ってるね』
「うん、急いで帰るから」
『気をつけてね?じゃぁ後で』
君の声と、僕の鼓動が重なって心地よくなっていく。

君の声と、僕の鼓動も音楽と呼ぶことが出来るのだろうか。



戻る