第47回テーマ館「鬼」



おにごっこ 飛月 [2002/11/25 13:23:08]



とある夏の日の物語…

「じゃあ、こんどはようくんがおにだね」
「ちぇ、わかったよ、ゆう」

木がたくさん生い茂る森の中、『よう』と呼ばれた4、5歳の少年が不貞腐れながら『ゆう』と呼
んでいる同じくらいの少女に答える。

「じゃ、すぐつかまえてやるからな」
「ぜったいつかまんないもんね〜」
「い〜ち、に〜、さ〜ん、………」

『よう』が腕で目を隠して数を数える。そのあいだに『ゆう』は遠くに逃げていく。

「……きゅ〜う、じゅう!」

数え終わった『よう』は30mほど先に『ゆう』の姿を見つけた。

「ぜったいつかまえてやるからな〜!」

力いっぱい叫ぶと『よう』は『ゆう』を追って森の中を走り出した。
森の中を縦横無尽に逃げ回る『ゆう』。そしてそれを必死になって追う『よう』。

そんな追いかけっこが3分くらい続いただろうか。
『ゆう』と『よう』の距離は1mほどにまで縮まっていた。

「はあ、はあ、はあ………」
「つ〜かまえた!」

そう叫んで『よう』が手を伸ばす―――――

「ん………?」

ふと気が付くと俺――――『仲本 要一』は列車の中だった。

「またあの夢か……」

6歳までいたあの村…周りを山に囲まれた本当に何も無い村…
だが今考えてみるとあの頃が一番楽しかったかもしれない。

ただ1つの出来事を除いては。

その日はさっきの夢の中と同じように2人でおにごっこを楽しんでいた

夢と違うのはただ1つ

『ゆう』はいつまでたっても見つからなかった

日が暮れるまで探したけど見つからなかった

先に帰っちゃったのかなと思い『ゆう』の家に言ってみるけどまだ帰ってないという

家族は110番通報し、山の中の一斉捜索が始まった

しかし、『ゆう』の姿はどこにも無かった……

見つかったのは、川に続く急な斜面の途中に引っかかっていた『ゆう』のものと思われる小さな
白いサンダルだった

その村を流れている川は流れが異常なほど速く、捜索するのは困難だった。

数日後、捜索隊は『ゆう』が足を踏み外して川へ転落したものと結論づけ、捜索は打ち切られ
た

俺の家族はその後すぐに転勤で都会の方に引っ越してしまったので、その後のことは詳しくは知
らない。
そして20年後の現在、俺はフリーライターの駆け出しとして生計を立てている。
だが、今回『あの村』に向かっているのは仕事ではない。
正直、俺自身も何故この村に行こうと思ったのかわからない。
あえていうなら『呼ばれている』……そんな気がしたから。
……ここ最近、さっきと同じ夢を何回も見るようになった。
ただの偶然かもしれないし、何かの『意思』かも知れない。
それを確かめるためにここに来た。
あの村で、何があるのだろう…
そんなことを考えながら俺の意識は再び眠りの世界へと落ちていった……
意識が沈む直前、俺はあの少女の声を聞いた気がした……

「わたしを つかまえてみて」

END


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