第47回テーマ館「鬼」



異国 金環蝕 [2002/12/05 00:42:12]



朝起きたら、何故か木の上だった。
温室に有りそうな大きな葉が目の前でブラブラと揺れている。この辺りではあまり見かけない
木が周りに茂っている。おかしいな、昨日は仕事が終わったら真っすぐ家に帰ってきて寝たか
ら、酔ってはいないはずなんだけど。そういえばスーツを着たままだ。昨日は着替えなかったっ
け……。
なにはともあれ、この変な林から抜け出さなくては。道路に出れば誰かに会えるだろうし、誰
かに会えればなんとかなるだろう。そう思って、厚ぼったい葉やクネクネと絡みついてくるツタ
を払いのけながら歩いてみた。
予想は見事にはずれた。道路はあった。人もいた。ただ、問題なのはどう見ても彼等がニンゲ
ンではなさそうな事だ。角があったり、馬の頭だったり、顔が無かったり。さすがにこれには楽
観主義の私も困った。
仕方が無いので、賑やかな方向へ歩いてみた。どうやらこの国の人々には私の姿は見えないら
しいし、声も聞こえないらしい。見つかって面倒な事になるよりはずっといい。それにお腹も減
らない、夢なのかもしれないと漫画みたいに頬をつねってみたが、当然のように痛かった。
とうとう、街らしき所についた。見た事もない食物、聞いた事もない衣服類等が大量に売り買
いされ、中央には城らしきものがあった。大体皇居を四倍もしたらこの城と同じ大きさになるだ
ろう。入っても誰も咎めない、見られないと言うのはなかなか便利だ。
城内はなかなか豪華にできていて、見ているだけでも面白い。枕だとか食器だとか妙な所だけ
ニンゲン界と同じにできている。
城をさまよっていたら妙に湿っぽい雰囲気の場所に出た。様子から考えると、王の妃か王女辺
りが病気で寝込んでいるらしい。病人の顔を覗き込んでみるとかなり苦しいようだ。傍らで心配
している王らしき人物の顔や従者の様子を見ていたら、急に正面の扉が開いて一層怪しげな奴が
入ってきた。彼は王らしき人物となにやら色々と喋った後、棍棒やらカップやらコインやらを持
ち出して何故か日本語で唸りはじめた。
「疫病をもたらす悪鬼よ退散せよ、業火にて焼かん、疾風にて刻まん、洪水にて流さん、石塊に
て埋めん……うんぬん」
なんだか聞いていると胃がムカムカする。目眩がする。鼓動が速くなる。たまらなくなって城
を出て気がついた。
ああ、私が鬼だったのか。
了


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