第63回テーマ館「理由」



自殺の理由 しのす [2006/10/25 01:36:53]


【このショートショートは、読み終わった後不快な気持ちになると思われますので、不
快な話の嫌いな人は読まないことをお勧めします。もしも読んだ後気分を害されても責
任は持ちません。
なおこのショートショートに登場する人物も出来事も、すべてフィクションです。現実
に相似する人物や出来事がいたりあったりしたとしても、それは単なる偶然です】

 校長と学年主任、そして担任が畳にすりつけるほど深々と頭を下げた。
 「たいへん、申し訳ありませんでした」
 「あんたら、な」父親は声を震わせた。
「いくら謝っても、権野介は戻ってこん」
 その横で母親がうつむいて、泣きじゃくっていた。
 「本当にすみませんでした」教師たちは、ただ土下座するだけだった。
 「あんたら最初いじめはなかった、言っとったな」父親は吐き捨てるように言った。
「でも権野介はいじめられとったって、生徒さんらみんな言っとったぞ。ちゃーんと聞
き出したんや」
 「はっ。本当に申し訳ありま…」
 「もうあんたらの顔も見たくない」父親は校長の言葉を遮った。
「さっさと出てってくれ」
 「しかし」
 「出てけ。この人殺しがっ」父親は今にも殴りかかりそうな勢いで叫んだ。
 「あの」
 「先生、今日のところはこれで」担任がさらに何か言おうとするのを校長が止めた。
「また来させていただきます」
 「もう来んなっ」父親は絶叫した。
「出るところに出て、決着つけたる」

 校長たちが帰った後、電話のベルが鳴った。
 「はい。はい」
 母親が父親に受話器を差し出した。
「○×放送だって。学校の謝罪について、独占インタビューしたいって」
 「いくら出す、言うとんのや」
 母親が金額を父親に告げると、父親の顔に笑みが浮かんだ。
「よっしゃ、ええぞ。ただし今の学校の謝罪についてだけやからな」
 母親はそう告げて、受話器を置いた。
 父親は、息子の笑っている写真を見ると言った。
「こいつは生きとるうちは、存在する価値のない、最低の奴やった。そばにおるだけで
むかついて、何度殴ったり蹴ったりしたことか。生まれてきたことが間違いやったん
や。でも」
 父親は母親に笑いかけた。
「自殺して金の鵞鳥に変わりおった。マスコミの取材でギャラはとれるし、学校からは
裁判でたんまりせしめられるやろうし。親孝行なやっちゃ」
 夫婦は顔を見合わせて、笑った。

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