『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


小さいころは信じてた。(ファンタジーです) 投稿者:ゆうき  投稿日:08月02日(月)10時26分23秒


       人魚は、人間に変身する事も出来たという。

      「ねぇカイン、海って、見た事ある?」
       僕の連れのライナが、そんな事を訊いてくる。
      「海? ないけど。それがどうかしたのか?」
      「いえ。なんとなく」
      「あっそ。僕は歩きっぱなしで疲れてんだ。そーゆーことは後にしてくれ」
       本当に、海なんてくだらない。僕等がいるのは砂漠の真ん中じゃないか。

      2ヶ月後。
      「ねぇカイン、海って、見た事ある?」
       またそれか。
      「今、見てるじゃないか」
      「じゃあ、人魚って、知ってる?」
       人魚? 御伽噺に出てくる。空想の生き物じゃないか。絵本に出てくる。
      「海の底に住んでる、半魚人の一種。魚と人間の合成獣という説もある。女だけの
      種族で、『深海の女神』と呼ばれるほどに美しい」
       昔読んだ本に書いてあった事をそのまま述べると、最後の部分でライナは満足そ
      うに微笑んだ。
       僕がその動作を疑問に思うより早く、ライナは目の前の海に飛び込んでいた。
      「ねぇ、カイン、私も、その位に綺麗?」
       どこか、1つの答えだけを信じているように問い掛けてくるライナは、確かに、『深海の女神』というに相応しいくらいに綺麗に見えた。

      ――人魚は、御伽噺などではなかった。