『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


落語6 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:08月02日(月)23時14分04秒


       ♪テケテンテンテン テテン♪

      ええ、世の中にはフシギな縁というようなものがあるようでして、かくいう私もカミサンとの出会いは...
      まあ私のことはさておきまして、名前に縁がつきまとうってこともあるようですな。

      「源さん、聞いたかい?」
      「おや辰さん、工事の方はもういいのかい? ブロック、まだ随分たまってる様子じゃないか」
      「おう、新しく入った若い衆がそりゃ怠けもんで...ってそんなこと話しに来たんじゃないんだ。例のおた
      くの長屋の海ちゃん、結婚が決まったっていうじゃないか」
      「ほお、そりゃめでたい話じゃないか。で、日取りは決まってるのかい?」
      「あんたも気が早いねえ。まだ先方の親御さんには会ってないらしいよ。で、その相手ってのが、森っていう
      らしいんだ」
      「森? そりゃ、名字だろうね?」
      「いや、それが名前らしいんだ。海に森、いいカップルになりそうじゃないか」
      「ホントだね。で、辰っつあん、あんたそんなこと報せにわざわざ来たのかい?」
      「いけねえか?」
      「いや、いけなくはないけどね。あんたが持ってくる話っていやあ、おめでたいだけの話とは思えないんだ
      けどね」
      「ふははは、こりゃ一本取られたな。その通りなんだ、源さん。その森ってヤロウ、実は海ちゃんだけじゃ
      なく、他にも結婚を約束した女が1人と言わずいるって話でよ」
      「ほお、そりゃ不届きモンだね」
      「おうよ、何とか懲らしめてやらなきゃと思ってるんだが」
      「でもまあ、それも仕方ないといえば仕方ないんだろうね」
      「なんだい源さん、あんなヤロウの肩持つってえのかい?三人も四人もの女を騙してるようなヤロウの」
      「だって森ってんだろ? 気(木)が一つや二つじゃ足りないんだろうよ」

      「源さん源さん、やっとあのヤロウも改心したらしいよ」
      「なんだい辰っつあん、そんな息切らして。ブロック、減ってないみたいだけど?」
      「ああ、あの若い衆はクビにした...ってそんなことより、あの森ってヤロウ、他の女とは切れたとさ」
      「じゃあ、あんたもそのヤロウって呼び方やめなさいよ」
      「そうだな。森のあんちゃんか。それにしても、これで海ちゃんも幸せになれるってもんだ」
      「まあ、ついてたんだ、仏様に感謝しないとね」
      「ほお源さん、あんたらしくもないこと言うね。海ちゃんが自分で幸せを勝ち取ったとは思わないのかい?」
      「だって海ちゃんって言うくらいだよ。ツキ(月)に左右されるってもんだよ」

      「源さん源さん、聞いたかい?」
      「えらい形相だね、辰っつあん。あんたんとこのブロック、やっとなくなったね」
      「ああ、うち潰れたんだ...って泣かせるんじゃないよ。それより、海ちゃんたち別れたってよ」
      「え? この間、式挙げたばっかりじゃないか。旅行にも行ってないんだろ?」
      「だからオレは言ってたんだ。あの森ってヤロウ、きっと海ちゃんをヒドイ目に合わせるに違ぇねえってな」
      「あんた、式で泣いてたじゃないか。顔くしゃくしゃにしてさ」
      「んなことはどうだっていいんだよ。けっ、あの森ってヤロウ、海ちゃんのいっぱいの愛情を捨てるような
      真似しやがって」
      「それはどうかね、源さん」
      「お、あんた、あのヤロウの肩持つってのかい?」
      「森と海だろ? あんまり深いと抜け出せないからね」

      ♪テケテンテンテテン テン♪