『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


オイトマー著作集(評伝編U) 投稿者:ゆびきゅ  投稿日:08月05日(木)23時22分28秒


        印象王侯派前期、2956年の春、トーマス・レンタオールの思念の攻撃性は激烈を極めた。後に研究者たちが
      ”ライオン”と名づけることになるその平面拡大性思念は、主に印象王侯派のテロ組織”ブラック・リバー”
      メンバーのイマジ・スペースに向けられた。ライオンに飲み込まれたスペースは心象最構築・最々構築能力
      を越えるイメージをキャンバスに貼り付けられ、その理解のために強制的にスペースは広げられ、無意識を
      も”動員”というカタチをとり、むしばんでいくことになるのだ。
        後にベクタαにおけるKK6の反乱でもその脅威を見せ付けることになるライオンは、それでもしかし、
      致命的な弱点を持っていた。トーマスは常に、ひとりを望んでいた。6つの思念階層に同居人を置かなかっ
      たことは、彼が系外人ではないかという噂を生むことになった。そしてその孤独癖は、ライオンの思念パタ
      ーンの単純化と、極端な詩的方向性の先鋭化を誘うことになったのだ。彼の詩人としての魅力が、彼の首
      を締めることになったわけである。
        抑圧された人間ほど、無情に敏感になる。トーマスはいつもそう口にし、反乱すなわち理性の時代を反徒
      の味方として生きた。現在、彼がレク人間による同位パラドックスによってどの世界へ送られたのかは判明
      していない。しかし、これだけは確かなこととして言えるだろう。トーマスは今も生きている。そして、
      これから始まろうとしていることに、皮肉の視線を投げていると。