『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


RECKLESS JUNGLE 投稿者:通琉  投稿日:08月08日(日)15時03分40秒


       ジャングルの中はまさに魑魅魍魎という言葉が似合う。様々な動植物・・・・・・ヘ
      ビ、トカゲ、クモ、生い茂った木々。そして、ヒト。
        俺はとうの昔にあきらめていた。ここからたとえ出る事ができたとしても、そ
      の先になにがある?その先で考えるにしても、俺にはそんな力が残っているのか
      さえわからない。
        ただはっきりとしているのは、もう一度アイツに会えたらな、という思いだけ
      だ。あの晩、些細な、ほんの些細な誤解からケンカ別れしてしまったアイツに、
      俺はもう一度だけ会って、話をする必要がある。お前しかいないんだ、というこ
      とを告げる為に。しかし、今となってはもう手後れなような気も、確かにある。
        近くでガサッ・・・と不審な音がした。歩き慣れることのないこの密林で、おそら
      く誰かがヘタを打ったのだろう。俺は銃を構えた。残りの玉は・・・数えたくない。
      しかし、俺は目を細めて確実に数を確認する。
        すばらしいことに、あとたったの二十数発しか残っていなかった。
        こうなりゃハデにドンパチかまして散るまでだ。笑いながら、敵がさめるぐら
      い発狂しながら、銃を振り回して・・・
         ふと、アイツの言葉が脳裏をよぎった。
      「向こう見ずは構わないケド、たまには私のこともちゃんと・・・」
         その時は「俺が向こう見ず(reckless)だ?」と思ったが、今の俺には何故か
      ズシリとくる言葉だった。とりあえず今は、そんな思いに耽っている暇はないの
      で・・・・・・考えることにした。
        敵は慎重にこっちに向かって近づいてくる。俺は、銃に木のツルを巻き付け、
      それを高い枝に吊るした。たった一つの武器である。それを投げ出して戦う馬鹿
      など、どこにもいない。ただ、胸に3個、手榴弾という心強い果実が俺に勇気を
      与えてくれた。まさに一か罰かの、やけっぱちに近い賭けである。俺は、あるよ
      うでない物陰に潜み、じっと息を潜めて待った。
        敵がテリトリーに入った瞬間、俺はわざと遠くに石を放り投げて注意をそらし、
      一気に手元のツルを引っ張った。銃が、うなずくように首を振りながら口から弾
      を吐き出す・・・。俺は、自分に当たらないかなんて、「どうでもいいこと」は考え
      ず、ただ、つるに絡めた手だけはしっかりと握ったまま離さなかった。
        上からあられのように降ってくる銃弾に、ヤツラは不意をつかれたのか、錯乱
      し、奇声を上げながら四方八方に散って逃げていく。中には必死に抵抗しようと
      する者もいたが、仲間が一目散に去っていくのを見て舌打ちしながら、ソイツも
      いったんくやしそうに撤退していった。
        しばらくして、味方のヘリが俺を見つけてくれた。俺は、それに乗り込む事が
      でき、今、放心状態で地上を眺めている。
        死の一歩手前で向こう見ずを捨てた俺が、渇いた目で、もう一人の自分を見る
      ように向こう見ずに生い茂るジャングルをずっと追っていた。
        ヘリが、夕日の赤に吸い込まれるように、力強く飛んで行く・・・