『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


シュノーケル、その飽くなき野望 投稿者:通琉  投稿日:08月15日(日)09時03分10秒


      「しゃーねぇなぁ・・・」
      「だから、別にいいんですョ、無理して語らなくても」
      「けどさぁ、なんかそう言われるとこっちが「語りたくなってくるってもんだろ
       う?」
      「またまた、意味深に、文学者きどりで捨てゼリフなんか吐いちゃって」
      「・・・怒った・・・。俺は怒った!  そう来られたら、全国の民、総勢・・・・」
      「何人か確認しないで下さい・・・」
      「総勢、たぶん一億何人のご期待に応えてお話しよう」
      「(ご、とか お がいちいち余計だぁ―)」
      「カッコでしゃべってもわかるぞ!  この」
      「まぁ、いいです。聞きましょう。アナタの海で起きたその、『恐怖の昆布、及び
       シュノーケル』っていう話を・・・」
      「覚悟はいいか?」
      「はいはい。出来てますょぉ」
      「ふむ。よろしい。そういうことにして話を始める。なにしろ、思い出すだけで
       も」
      「前置きはいいから、チャッチャと進めてください」
      「・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は、溺れたんだ」
      「そりゃ進めすぎ!」
      「まぁ、とにかく溺れたんだ。情けないことに、体力にはちょこっとだけ自信が
       あったんだがな、・・・・溺れちゃったのョ〜♪」
      「その意味不明なメロディーはとりあえず却下!  これ読んでる人にはわかりませ
       んから」
      「するどいご指摘、どうもサンクス!  ウィーアーボゥイッ!」
      「・・・・・・帰ります、やっぱり」
      「ちょちょっ!  ちょいタンマ!」
      「うるさいっ!  誰も知らん様なくだらんギャグ聞く為に飲んでるんじゃないっ」
      「まぁ、そう言わずに、言わずに・・・心の中に溜め込んで!」
      「体に悪いワ・・・」
      「ま、そうなんだけど」
      「で、溺れて。それでどうなったんです?」
      「でな、まぁ、前置きとして、俺はシュノーケルをつけてたって、言っときたかっ
       た」
      「はい、言いました」
      「で、シュノーケルってのは、文字どおり息をしながら、けっこう遠くまで泳いで
       いける代物だ」
      「はぁ。文字どおり・・・」
      「で、俺は、その行為に甘んじて、友の待つ沖の浮島まで、虎視耽々と泳いでいっ
       たワケだ」
      「虎視耽々と、か。なんか企んでたんですね」
      「そうだ、バ―!  っと飛び出て、「ジャージャンっ♪ジャーッジャンっ♪」
      「ジョーズのテーマ曲かいっ!  しかもなんかずれてるし・・・出た後じゃ」
      「で、まぁ無事浮島までたどり着いたのは良かった。けどなぁ、そっから帰るとき
       がまた、事件じゃった」
      「なに年寄り口調を醸し出してタバコ吹かしてるんすかっ、アンタ!」
      「ふぅ・・・・思えば遠くに来た揉んだ」
      「揉んだじゃないでしょう・・・」
      「俺は、帰りの距離を『え?  こんなにあるのか?』と少しいぶかりながら、とに
       かく誰もいなくなったんでまた海に潜る事にした」
      「へぇ。みんな、話に付き合ってくれなかったんですね」
      「いや、単に飯の時間だったんだ」
      「・・・・・・・」
      「で、俺はドボン と飛び込んで、また来たときを同じ様に、飄々と泳いで帰ること
       にした」
      「悠々・・・」
      「けどな、体がぁ、その。冷え切ってたんだ」
      「ああ、シュノーケルって、そんなに動かさなくて済みますからね、体」
      「鋭いな。そう、行きはまだ良かったが、帰りはごっつ体にきてな・・・」
      「つまり、疲れがどっときた、と」
      「そう、どうもこりゃおかしい・・・。なんか体がえらくダルイ。ああ、なるほど、来
       るときにそんなに泳いでなかったから、体が暖まってなかったんだな」
      「でも、気づいた時はすでに遅し」
      「そうだ。俺は、疲れてにっちもさっちも行かなくなった重い体を“背負って”、
       ただ前に進みたい一心で泳ぐ事にした・・・」
      「しかし・・・!」
      「息が苦しい。なにしろ、肺がやたら窮屈に感じて、それで俺はなるべく少しでも
       軽くなろうと、付けていたシュノーケルを外して、それをそのまま海に沈めた」
      「もったいない」
      「しかしな、そんときはマジで一所懸命だったんだ!  なんとしてでも、岸にたど
       り着いて、いや、岸に近づいて、助けを呼ばなければ」
      「本当に、ヤバかったんですね」
      「そうこうしているウチに、俺はだんだん意識が遠のいていった」
      「・・・・・・・」
      「近くに、そこまでもない、いや、ずっと前から友達だったんだが、普段は単なる
       顔見知りでしかない友人がいた」
      「・・・」
      「ソイツが、俺に肩を貸してくれたんだ」
      「イイ人じゃないっスか!」
      「ああ、今となっては本当、命の恩人だよ。ソイツはあろうことか、底に沈んだシュ
      ノーケルまで拾ってきてくれた・・・。俺の、見ている前で」
      「アンタ、体力無さ過ぎ」
      「シュノーケルがいけなかったんだ。あれが、すべてマイナスに働いたとしか思え
       ない。ま、こう言うと、製造している業者に悪いが」
      「いや、アンタが阿呆なだけ」
      「俺はそんとき、マジで思った! ・・・海は恐い。海は、油断してかかるとホントに
       恐い」
      「そうですね」
      「だから、あれ以来シュノーケルで遠出するのをヤメた」
      「ずいぶんなこった」
      「俺は、海を愛している。だが、それ以上に、海の怖さを・・・」
      「いや、わかりましたョ」
      「海ってのは、飲み込んだり、吐き出したり―――言わば、でっかい地球の心な
       のかもな!」
      「(・・・・・・・・・さ、帰ろう)」
      「でっかい、生命体なんだろう、な!」
      「ええ。そうなんでしょうねぇ・・・、きっと」