『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


ある世界のお話 投稿者:DAI@  投稿日:08月15日(日)21時31分51秒


       深度2000……2200……2300……。
      「……現状報告」
      「現在、深度2430m。各対潜鑑装備問題無し。センサー、反応ありません」
       妙だな……そろそろ敵と鉢合わせしてもおかしくない頃だ……。
       作戦開始からすでに1週間。つい最近補給したのが2日前のミリセントパーク。
      前線基地の定時連絡が途絶えてから10時間。この付近に敵がひそんでいるのは間
      違いないはずなのだが……。
      「閣下」
       副官のサイモンが、怪訝そうな顔つきで聞いてきた。
      「……妙です。前線基地を攻撃したのなら、ほぼ間違いなくこのルートを通って帰
      還するはずです」
      「ああ、俺もそう思うな。このルート以外は暗礁ばかりの最悪なルートだ。空を飛
      ばない限り、我々の網をすり抜けて逃げられるわけがない」
      「――罠、ですか?」
      「……かもしれん」
       その時、突然警報が鳴り響いた!
       側のレーダー士に向かって怒鳴る。
      「何だ、報告せよ!」
      「左舷11時より対潜鑑魚雷接近! 数、3つ! 後15秒で到達します!」
      「敵艦は発見できなかったのか!?」
      「無理です! レーダー圏外からの攻撃です!」
      「……ちっ、性能の悪さが出たか。2番、4番管、デコイ射出! 鑑首を11時に
      向けろ! 急げ!」
      「閣下、我々のレーダー圏外から攻撃できるのは『剛雷』『烈砂』『狼牙』級潜鑑
      だけです」
      「どいつも最新式というわけだな! 来るぞ! 対衝撃防御!」
       ソナー士の耳には魚雷特有のスクリュー音が2つ、横切るのが聞こえた。と同時
      に、もの凄い爆音が響く!
       ドゴォォォォォォォォォン!
      「現状報告!」
      「敵魚雷2つクリアー、1つはデコイに命中! 本鑑にダメージありません!」
      「よし! エンジン停止、注水ボンベに注水開始! 3番5番管魚雷、深度3000、
      方位2時に設定! レーダーは!?」
      「敵影、確認できません!」
      「くそっ、ついてねぇ。ソナー準備! 合図と同時に1回だけ作動させろ」
      「了解、閣下」
       8……7……6……
      「――右舷1時より、対潜鑑魚雷2つ接近! 1つはパス、もう1つは後20秒後
      に到達します!」
      「騒ぐな! ……静かに待てよ、じっくりとな」
       3……2……1……
      「ソナー作動だ」
      「了解、ソナー作動」
       ――ッッコオォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ……
      「注水終了、3番5番管発射準備」
       側を通り過ぎる魚雷のスクリュー音が、緊張した艦内にやけに大きく聞こえる。
      その時艦内に、魚雷が鑑首をかする音が響いた。
       ッゴリッ……
      「……っくはぁー、ソナーはどうだ?」
      「敵影、1時に発見」
      「……距離は?」
      「およそ、4000m」
      「3番5番管魚雷、距離3400mで起爆するように設定しろ」
      「現在、水深4500m突破」
      「まだ、もつな?」
      「設計上では6000mまで潜行可能です、閣下」
      「よし、上々だ。魚雷設定、急げ!」
      「設定完了!」
      「7番から10番管を、方位3時、深度4000に設定しろ。よし! 3番5番管魚雷
      発射!」
      「コースクリアー。設定地点到達まで、後25秒」
       うまく行けばこれで沈められる。敵が自分の性能に過信していれば、の話しだが
      ……。
      「閣下」
      「なんだ」
      「敵対潜鑑魚雷スクリュー音の種類から、敵艦は『剛雷』級潜鑑と判明しました」
      「『剛雷』か……という事は、敵の魚雷は少なくともあと3つあるわけか……」
      「はい、そうゆう事になります」
      「レーザー兵器もある……接近戦は不利だな」
      「7番から10番管魚雷、設定完了!」
      「よし、カウントをとるぞ!」
       6……5……4……3……2……1……
      「7番8番9番10番管魚雷、発射!」
      「発射!」
       バシュバシュバシュバシュッ……
      「閣下、3番5番管魚雷、目標地点に到達!」
      「反応は!?」
      「ありません!」
      「1番管デコイ射出! エンジン始動! 方位3時、速度50ノット! 急げ!」
      「閣下! レーダーに敵影確認! 深度4000、右舷3時方向です!」
      「…………ビンゴだ……7番から10番管魚雷は!?」
      「目標到達まであと5秒……4秒……3秒……2秒……1秒……到達!」
      「サウンド、拾え! 反応は!?」
      「……金属破壊音を確認! 敵艦撃沈しました!」
      「やったー!」
       私の部下達は安心したのか、騒ぎに騒ぎまくった。まぁ、死ぬかもしれないとい
      うのに黙っていろ、というのはストレスが溜まるだろう。
      「……閣下」
       副官のサイモンが気が抜けたような顔つきで呼びかけた。
      「おめでとうございます、閣下。任務完了であります」
      「ああ、ご苦労だった。お疲れさま」
      「はっ!」
       ビシッと敬礼を決めたサイモンは、再び厳しい顔つきになり、部下達に命令を下
      し始めた。
      「エンジン停止! 排水を開始しろ! 浮上するぞ!」