『テーマ館』 第28回テーマ「森/海」


銃声 投稿者:猿風機  投稿日:08月31日(火)00時48分48秒


   森の中に銃声が響いた。
      あいつらが追ってきたのだ。
      この森に逃げ込めば少しぐらいは時間がかせげるかと思ったのだが、
      やはりそんなに甘い奴等ではないようだ。
      同朋とは森に入る前にはぐれてしまっている。
      無事に逃げ切ってくれることを願うが、いかんせん相手が悪い。
      おそらくもう我々の中で生き残っているのは俺だけだろう。
      いや、俺もすぐに奴等に見つかってしまうに違いない。
      しかしすこしでもそれを遅らせてやりたい。
      それが殺されてしまった仲間達へのせめてもの弔いであり、
      俺の中にある戦士としての誇りであるように思われた。
      俺は森の中をめったやたらに走った。
      木々の枝が顔を傷つけ、服を切り裂く。
      息が切れる。苦しい。
      足の動きは次第に遅くなり、ついには止まってしまった。
      俺は辺りを見まわし一番大きな木の下に腰を下ろした。
      やはりタバコはやめろというドクターの忠告を聞いておくべきだったか。
      そういえばあの娘もタバコは嫌がってたな。
      俺はポケットからタバコを取りだし火を点けた。
      途端に頭の中がクリアになる。
      やはり俺にはやめられそうもない。そう思ったときだった。
      目の前にあいつらが音もなく現れたのだ。
      敵の数は五人。
      小型拳銃を構えながら、俺を取り囲むように近づいてくる。
      ここまでか・・・。
      五つの銃が頭に突きつけられた。
      追手のリーダーとおぼしきヤツが口を開いた。
      「なにか言い残すことはあるか?」
      「別に・・・。」
      森の中に銃声が響いた。