『テーマ館』 第24回テーマ「雪」


ラブレター 投稿者:とむ   投稿日:01月06日(水)15時25分33秒

      私は初めてラブレターというものを書いた。
      最初はどう書き始めたら良いのか悩みに悩み、結局1週間ばかり
      無為に過ごしてしまった。
      けれど一旦書き始めると不思議なもので、もう我を忘れてしまう
      ほど書きたいことが次から次へと溢れ出てきて、どうしようもな
      いくらいに長い手紙になってしまった。バカだな。
      それに、この告白が何の意味もないことは出す前から判っている
      のに。何てバカなんだろう、私は。
      だって彼には彼女がいる、と聞いている。素敵な彼女だという噂
      だ。でも私は自分の気持ちを彼に知らせたい。ぶつけてみたい。
      これは単なるわがままなのだろうか。
      だから果たしてこんなものをあの人が読んでくれるのかどうか、
      心配でたまらない。
      でも、思い切って出してみよう。


      僕は初めてラブレターというものを受け取った。
      国語の授業中に教科書を開いたら、その1番前のページに挟まっ
      ていた。
      僕は慌てて手紙を机の中に突っ込んだ。そして周りを見まわして
      誰も手紙のことに気づいてないことを確認した。
      ウチに帰り着くまで、僕は心臓が破裂しそうなほどドクドクしっ
      ぱなしだった。
      僕は女の子とつき合ったことはない。だから今モーレツに緊張し
      ていた。
      急いで自分の二階の部屋まで駆け昇り、後ろ手にばたんと入口の
      戸を閉めた。
      そしてカバンの中から先程の手紙を取り出す。ピンク色のハート
      マークで封が閉じられているのだから内容は明らかだ。これがい
      たずらだったら・・・そんなこと読んでみればわかる。
      そして僕は、ひとつ深呼吸をしてから手紙の封を切った。


      返事が来た。
      すぐには開けることが出来なかった。ひどく怖い。
      結果が分かっているにせよ、その現実を目の前にするのがたまら
      なく怖かった。
      でも・・・私は勇気を奮い起こして手紙を開いた。そこには・・・
      どうやら全て私の取り越し苦労だったらしい。彼女なんていない、
      とはっきり書いてある。それが本当ならばうれしい。私とつき合
      ってもいい、とも書いてある。
      ああ、手紙を出して良かった。
      ついに私に春が訪れた。疑心暗鬼だった私は暖かい陽射しによっ
      て溶かされた雪のように跡形もなく消えてなくなった。
      これから私は幸せになる。


      また手紙が来た。今度はハートマークなど付いていない。
      中を見ると「オレとつき合え」と一言書いてあるだけだった。
      差出人から男だとわかる。僕は溜め息を付いた。
      せっかく女の子とつき合うチャンスだったのに間が悪い。
      ちょうど彼と別れたばかりだったから軌道修正しようと思ったの
      に。まあ、仕方ない、また男とつき合うか。こっちの方が経験あ
      る分、気が楽だ。あの子には断りの手紙を出そう。まだ間に合うかな。

                                 (了)