『テーマ館』 第24回テーマ「雪」


茶色のコート 投稿者:はなぶさ   投稿日:01月09日(土)00時32分53秒

      去年はあれほど賑わった冬の町が今年は寂しく静かに目の前に横たわって
      いる。私は今年買ったばかりのコートを来て冬の町を歩いた。三色の国旗
      も浮れた外国人もいない。ウィンタースポーツに行く男女が私の前を通り
      過ぎて行った。私は誰とも目を合わせないように下を向いて白い息を吐い
      た。

      風も無いのに指先が凍り手が悴む。私はエムウェーブの前を通り過ぎた。
      遠くから歓声が聞こえたような気がするが、どうでもいいという思いの中
      で掻き消されて行った。私は一人で冷え切った公園のベンチに座り込む。

      気がつくと私の足跡は降り積もる雪で消されていた。私の髪の毛に雪が積
      もってしまった。私は手を使わずに頭を下げ、少し振った。私の目の前だ
      けにドカ雪が降っている。あの日と同じだ。違うのは長かった私の髪がシ
      ョートカットに変ったことだけ。

      公園のブランコの方に目を向けたら私の胸は切なく傷んだ。去年の私と同
      じ格好をした女の子と長身の男の人が戯れている。まるであの日の私たち
      みたいに笑いあって、はしゃぎあっている。私はいつの間にか去年の私に
      なって泣きながらあの人と遊んでいる。去年の優しかったあの人との未来
      と夢見ながら遊んでいる。

      雪が降る中を歩きながら我にかえり、ハンカチで去年から待ちかえった涙
      を拭った。涙まで凍ってりまったような固い涙だった。ハンカチをポケッ
      トにしまうときに私のコートが茶色なんだと実感した。あの人は知らない
      茶色のコートを着た私があの人の知らない今を歩いている。なんだか泣い
      ている場合では無い気がした。

      雪は止んだのかな。