第82回テーマ館「雪」



12月上旬  はなぶさ [2011/11/19 00:32:10]


急に雨が降って来たので、傘を持たなかった私はコンビニに入り
雨宿りをする。傘はいくつも家にある。だから買いたくない。

でも、いつまでもコンピニにいるのは、いくらなんでもちょっと
と思ってしまい、どの傘にしようかと、ビニル傘に目を向けて
いると、同じ感じの仕方ない目線を感じてた。彼だ。

紫のカバンを大事そうに持って、恨めしそうに雨を見ている。
もう傘に目を向けることはなさそうだが、私は彼を知っている。
もう一度こちらを見てほしい。

雨の音が、コンビニに伝わってきて、何だか気持ちはずぶ濡れな
気分になってきた。そろそろ走って帰ろうか。

私の会社のお隣のビルで、仕事をしている彼だと思うけれど。
彼も私を知っているのだろうと思うけれど、話をしたことも
声を聞いたことも無い彼。

私は覚悟を決めて外に出ようとしていたら、雨は少し小降りになって
きていた。覚悟を決めるほどのことは何も無い、こんな雨。
それなら彼の前に進んで、ちょっと、と話をしてみることも
なんて事無いような気がしてくるから不思議。
でも、そんな気になった途端に、また雨が強くなる。
私の気持ちをなえさせる。

なんだよ、この雨。どうにかしてよ。

いつまでも、いつまでも雨は私を打ちのめして彼も
何だか同じ境遇になっているような気がしてきた。
そうだ、疲れた心は彼も同じだ。
また、彼の前に進んでみようかと思ったりして
気持ちがドキンと震えてしまった。

その鼓動が彼に聞こえてしまったのか、
ふと彼は私の方を振り返ってみていた。
何にも身構えることなく、私の瞳は彼に吸い込まれて
しまった。

不意に彼の視線が私の方では無く、窓の外の白い何かに
投げられたことに気がついて、少し赤面。初心な私だ。

私も振り返り白い綿が、空から降って来たのを確認し
赤面した顔を冷やそうと、少し必死。

そうこうしているうちに、今度はほんとに私の方を
見ている彼がいた。なんだか、少しだけ楽しみな冬だ。

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