『テーマ館』 第14回テーマ「星に願いを/新年」



 星に願いを 6    by kon


      「ねえ、初日の出、見に行きましょうよ」 
       和彦が、ぼーっと行く年来る年を見ながらミカン
      を食べていると、里美が唐突に言った。
      「初日の出?」
      「そう、海に行きましょうよ」
      「海!」
      「新潟の海なんかどうかしら」
      「遠いよ」
      「あら、いいじゃない、ちょっとぐらい遠くたって、
      高速を飛ばせばすぐよ」
       里美は、そう言うと、さっさと身支度を始めた。
      「ほら、いつまで、ミカンなんか食べてるのよ、
      和彦も、早く支度してよ」
       里美はそう言うと、容赦なくテレビのスイッチを切った。
       ・・・やれやれ、いつもこれだ。
       和彦は、いつも里美の気まぐれに付き合わされ、唯、唯
      それに従っているだけの自分が急に疎ましく思えた。
       ・・・まったく、いつもこれだものなあ。
      「何、ぶつぶつ言っているのよ、もう用意はできたの」
      「わかった。わかった」

      「雪、だいじょうぶかな?」
       和彦は、車にエンジンをかけると、フロントガラス越しに、空を
      見上げた。
      「だいじょうぶよ、チェーン積んであるんでしょう」
      「そういう問題じゃないだろう」
      「そんなことより、高速に乗る前に、コンビニに寄ってよ。
      おにぎりに、おでん、牛筋も忘れないでね」
      「ああ、わかった、わかった」

       高速道路は、途中ちょっとした渋滞はあったものの、案外透い
      ていた。今年は暖冬のせいで、チェーン規制もなく、思ったより
      も早く新潟に辿り着いた。二人は、新潟の市街を抜けると、海岸
      線を北上し、堤防脇のちょっとしたスペースに車を止めた。
       波はテトラポットを乗り越えて、堤防に砕け散っていた。空は
      うっすらと、白みはじめていたが、それでも満天の星が瞬いていた。

      「やっぱり、冬の新潟の海って、波が荒いんだな」
       和彦が、白い息を両手に吐きかけながら言った。
      「そうね」
       里美は先ほどまでとは、うって変わって、物憂げにそうに答える
      と、海の彼方に目を向けた。
      「随分、明るくなったのに、なかなか太陽、拝めないな」
      「・・・」
       里美は、海の彼方を見つめたまま、答えようとはしなかった。
      和彦は里美の態度に少し腹が立ち、ぷいと、横を向くと、誰に言うで
      もなく呟いた。
      「日の出、何時だったかなあ?」
      「・・・」
      「おい、どうしたんだよ、さっきから黙こんで、里美が来たいって
      言うから、来たんじゃないか」
       和彦は、とうとう痺れを切らして、語気を強めた。
      「ねえ、まだ気づかない?」
      「何を?」
      「ここは、日本海なのよ、太平洋じゃないのよ」
      「そんなの知ってる・・・」
      「あっ、そうか・・・何で早く言わないんだよ」
       和彦は、怒っていいのか、笑っていいのか決めかねて、結局笑う
      事に決めた。しかし、予想に反して、里美の表情は、依然硬いまま
      だった。
      「和彦が、いつ気が付いてくれるかって、ずうっと考えていたのよ」
      「どういうことだよ」
       和彦は、困惑しきって、里美の顔を覗き込んだ。
      「和彦ったら、いつもそうじゃない。わたしの言うことに頷くだけで、
      一度だって、わたしの話を真剣に聞いてくれたことってある?」
       里美の瞳は、薄明の星々と共に、ゆらゆらと瞬いていた。
      「・・・悪かったよ」
      「気安く謝らないでよ」
      「それじゃ、何て言えば・・・」
       ・・・そう、俺はいつもそうだった。すべてを里美のせいにして、
      ずるずると、すべてを引き延ばしてきたんだ。
      「なあ、里美、俺、俺さ・・・」
      「いいのよ、無理しなくても・・・」
      「・・・ねえ、あそこに、輝いている星、何ていう星かしら?」
       里美は、明けかけた空に、最後まで輝いている星を仰ぎ見た。
      「さあな、俺、星に詳しくないから」
      「きっと、南十字星よ」
      「本当かよ」
      「馬鹿ね、すぐ騙されるんだから」
       里美に、笑みが戻った。
      「さっき、ずうっと星を見つめてたろう、本当は、何考えてたんだよ」
      「内緒・・・」
       里美はそう言うと後ろを振り返った。
      「ほら見て」
       和彦も里美に言われて振り返った。
       
       山の頂きから、わずかに顔を出した太陽が、空を真っ赤に染めていた。

(01月03日(土)14時56分28秒)