『テーマ館』 第14回テーマ「星に願いを/新年」



 「新年」   by とっしー


      「2017年、あけましておめでとうございます。」
      芳賀家の新年は家族そろってのあいさつからはじまった。
      その中でも目をひくのは今年90歳になった助蔵である。
      年があけてそれほどたっていないのに、もう酒のまわった
      赤い顔をしている。

      「まぁー、なんだなぁ。俺もいつお迎えがきてもおかしくないなぁ。
       早くばあさんのところへ行きたいなぁ。」
      独り言にしては大きすぎるその声を聞きながら美香は下をむいていた。
      「ああ、ばあさんも星になってしまった。ばあさんの星はどれだろう・・。」
      こんな朝っぱらからっから星が出てるわけないのに。
      この文学青年もどこの遺跡に埋まるやら。

      「・・そしてー、この後続くのは・・。」
      下をむいたまま美香は、ぶつぶつ言っていた。

      「俺も、苦労したなあ。戦中、戦後、終戦後のもののないとき、オイルショック、
      バブル。2000年に美香が生まれたときはなぁ・・・・。」
      このままほかっておけば、3が日はおじいちゃんの歴史を聞いてることになる!
      美香は手っ取り早く、お雑煮を食べて
      「おじいちゃん。」
      と、手を差し出した。

      もらうものをもらうと、台所のお母さんのところへ顔を出す。
      「ちょっと、行ってくるね。」
      洗い物をしながら圭子は娘の顔をみた。
      「あんたもえらいわねぇ。夕べは帰ってきたの2時だったのに。」

      「お母さんこそたいへんよ。あのおじいちゃんの世話をして、これで
       何年になるの?」
      「そうね、わたしがお嫁にきたときはもうあんな感じだったから、20年
       近いわね。」

      「それにしても、あの早くお迎えが、っていうのはやめてくんないかなぁ。
       あれ聞くたびに、うっとおしくって。」
      「ふふふ、あれねー。おまじないみたいよね。」
      「ほんとに、早くお迎えに来て欲しいって思ってるのかなぁ。」
      「美香はそんなふうに考えているんだー。」
      笑いながら話している母親を見て、美香はまた考えてしまう。
      あんなわけのわからんじぃさま相手によく世話をしているよ。
      みょうに元気だから、介護保険の給付もありゃしない。
      おまけに口癖が「早くお迎え・・」ときたものだ。

      今時は、子供も年をとりすぎてしまって、年寄りの世話は孫というのが
      普通になってきている。芳賀家も例にもれず、助蔵の孫にあたる圭子が
      もっぱらの世話係だ。孫といっても圭子も40歳を過ぎている。

      美香から見ればいったい何が楽しくってお母さんは毎日をすごしている
      んだろう。

      「じゃあ、出かけてくるね。」
      出かけようと、居間のそばを通ると
      「ムング!ングッエッ」
      異様な音がする。不審に思ってふすまを開けるとそこには助蔵が
      真っ赤な顔をして苦しそうにしている。
      「キャー!」
      美香の悲鳴を聞いて圭子も台所から走ってきた。

      助蔵の顔は、青くなったり赤くなったりしている。
      「お餅をつまらせたのね。」
      圭子はいきなり助蔵をつかんだ。
      重い。重すぎてあがらない。

      「美香、あんた足持ちなさい。」
      怒鳴られて美香は足をつかんで持ち上げる。
      助蔵の顔は、真っ白になっている。

      助蔵を逆さにすると圭子は思いっきり背中をたたいた。
      何度も何度もたたいていると、ポロっと餅の固まりが
      助蔵の口から出てきた。

      助蔵は、思いっきり息を吸い込むと
      「助けてくれー、まだ死にたくないよぉ」
      と、大声で叫んだ。

      美香はお母さんと顔を見合わた。ふっと笑って、
      「そうそう、時間におくれちゃう。」
      と、出かけていった。

      圭子は、台所にもどって仕事を続けた。

      助蔵は、落ち着くとまた、
      「早くお迎えがこないかなぁ」
      と、言った。

(01月08日(木)22時36分34秒)