郷愁の街 はなぶさ [2001/05/19 00:13:51] 私たちの街は私だけの街ではなく、私たちのことを包む存在だった。私の記憶は その舞台の中で展開され、焼きついていった。そして、その街が消滅した今でも まるで刺青のように私の中に存在しつづけている。 好きだったあの人や愛する家族が笑っていた街。何の心配もない私が抱かれてい た街。その郷愁は段々と増していき、最近では夢の中で泣きながら走り回ったり した。私はいつもそこにいたのに、今の私はいったいどこで何をしているのかと いう問いを、その街を走り回る私は、今の私へまっすぐに発信している。 遠くにいても感じる、かすかな懐かしさの中で私は決して帰ることのない街とと もに生きていくことだろう。そうして老いていった私は、きっと消滅したはずの 断片を探し回ることだろう。その街の破片だけでも見つけられたら、私はそこに 宝物を見出すことができるだろう。 無限に広がる幸せの宝物を、その一瞬だけ感じられると思う。そして、気持ちよ く今の住みかに帰ることだろう。暖かな涙を流しながら。 戻る