第39回テーマ館「(僕の)街」



SHADE of The−MOON Zector [2001/05/23 01:04:14]


僕の街は、夜になると霧に閉ざされる。だから月は滅多に出ない。
最後に見たのは、やっと文字が読めるようになった頃だ。
月明かりが作り出す光輪の中で、数人の人々が踊っていた。
軽やかに、愉しげに。
彼等は誘う、僕達を。だけど、みんな見ているだけだ。
僕はと言えば、周りの目が気になって、輪の中に加われずにいた。
心はもう、踊っているのに・・・
そのうち、何人かの人達が言い訳を始めた。その数はどんどんと増え、
しまいには、踊らぬ事こそ正しいのであって、踊っているお前等は
間違っている。と、罵声を浴びせるまでになった。
僕はとても悲しくなった。
そして、何もしない自分が、どうしようもなく情けなかった。
やがて、踊り手達は一人、また一人と、月に召されていった。
後には、僕達だけが取り残された。
僕は今、屋根裏で、月が出るのを待っている。蒼ざめた闇の中で。
今度こそ・・・
時が過ぎてゆく、燃えかすみたいに。月よ、早く出てくれ。
老いぼれちまう前に早く!
僕はまだ憶えている。踊り手達のまなざし、そして微笑みを。
今度こそ、僕はなれるだろうか。月がみせる夢に・・・

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