第38回テーマ館「(僕の)街」



桜吹雪2 ひろし [2001/06/03 04:24:08]


あなたは指輪を受け取りませんでしたね。なぜ?
ぼくから受け取れなかった理由は、何ですか?

Uさんが離婚した人だから?子供が二人いるから?
香織ちゃんも隆くんも城のあるぼくの街が好きだと言っているのに、
はっきりしないのは、Uさんのほうじゃないですか?

あのときUさんの胸の鼓動は断末魔のようで、
ぼくの街の風景を閉ざす桜吹雪だけがすさまじかった。
ここまできたのだから、ね、Uさん、
この指輪を受け取ってください。
そして子供を連れてぼくの街にきてください。お願い!

それでもUさんは顔をそむけて、
桜吹雪がやんだあとも、
満開の頭上の桜と静まり返った天守の上の月を眺めていましたね。

もう2年以上もこうしてぼくの街で逢っているというのに、
露天風呂にふたりして浸かっているというのに、
夜空の星が湯に映って身体の周りで揺らいでも、
桜の花びらが雪のように舞って湯の面に落ちてきても、
2年間の倦怠と感情に言葉だけが虚しく、
しかも空虚に響くばかりで。・・・

ぼくは想像する。
子供たちと食事をしているときのUさんはよき母親なのだろう。
いや、それ以上に結婚に幻滅しているのかも知れない。
違いますか、Uさん。

だからたった一つのぼくの街での贅沢。
Uさんの清楚な身体の奥に潜む淫蕩に火をつけ、
痴態と愉悦に身を焦がして、
そのあとのUさんの美しさと憂いと妖しさは、
まるで地獄の業火に焼かれたあとのようでした。

そのたびにぼくの街で逢うUさんは、
ときにシクラメン、アネモネ、チューリップ、エリカ。
香りもそのときどきで変わる戯れに結ばれた痴態の中で、
ぼくも底なし沼に足をとられて足掻く獣のように、
Uさんの情熱に溺れ、
今はもうUさんに出逢えたことが、よかったのかどうか。
やはり世の中から孤立しているような罪悪感と孤独感から
もうぼくは逃れることができません。

もういいでしょう、Uさん。
ぼくはあなたが好きだし、香織ちゃんも隆くんも好きだ!
きっと、いいパパになってみせるから、
だから、だから、お願いです!
この指輪を受け取ってください。
そしてぼくの街へ子供を連れてきてください。

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