『テーマ館』 第22回テーマ「振り向けば」
「振り向けば」 by DAI@
振り向けば、そこは穴だった。
どんどん落ちる、どんどん落ちる…。
見渡しても、真っ暗で底が見えない。
私は一体、いつから落ちているのだろう。
もうずいぶんと長い時間、落ちているような気がする。
もし今、底に着いたなら。
1/2×60kg(体重)×(9.8)×(9.8)×∞(高さ?)
の式が成り立つはずだ。(物理は苦手なので、間違っているかもしれないが)
その衝撃は、相当なものだろう。
落ち始めた時は、恐怖に頭がおかしくなりそうだった。
いや、すでにおかしくなっているのかもしれない。
今は、不思議と恐怖感はない。
人間、慣れればどうにでもなるものだ。
100円ライターで煙草に火を付けながら(相当に四苦八苦したが)、今までの人生の事を
ゆっくりと考えた。
死ぬ間際に、これだけの考える時間を与えられた人間は、おそらく私が初めてだろう。
私は生まれてから、一度も挫折感を味わった事などなかった。
何をやっても、うまくいった。
まあ、それなりの努力をしたからではあったが。
若い時に知り合った友人達といっしょに会社を作り、その会社が軌道にのってきた。
私はそれまでに一財産あったので、また新たに会社を作ろうと思っていた。
そこで辞表を出すべく、重役会議室のドアを開けた。
そうしたら、目の前に大きな壁があったのだ。そして、振り向いて今に至る…。
ここがどこなのか。なんのために私は落ちているのか。
そんな疑問など、もうとっくに考えるのを止めた。
どんどん落ちる、どんどん落ちる…。
底はまだ、見えない。
(投稿日:09月12日(土)05時10分05秒)