第48回テーマ館「腕時計」



両腕の腕時計
投稿日 2003年1月30日(木)11時19分 投稿者 飛月



「なあ、何で両方の腕に時計つけてるんだ?」 

大学の帰り、喫茶店で友人は私に尋ねてきた。 

友人の言う通り私は右腕と左腕、両方に1つずつ時計をつけているのだ。
しかも右腕につけている方はガラスの板にヒビが入っており、すでに時を刻むのを止めている。 

「ああ、これか?」 

私はちょっとためらったが、 

「……ちょっと長くなるぞ」 
「…構わないぜ、俺はこの後用事入ってないし」 
「そうか、じゃあ……」 

こうして私は友人に過去の事を話し始めた…… 



私は高校に入学してから 一人の少女と出会った 

クラスではとても目立たない存在で いつも1人で本を読んでいた 

このとき私はその子を別段気にとめることも無かった 

そんな彼女と関わることになったのは1学期も終わりに近づいてきた頃だった 

私は読書感想文の本を探そうと普段はあまり来ない図書室にやってきた 

そこで本を探しているうちにうっかり彼女とぶつかってしまった 

それと同時に彼女の持っていた10冊ほどの本が床に散乱してしまった 

「あ、ごめん。大丈夫かい?」 

彼女はこくりと頷き床の本を拾い始めた 

「手伝うよ。もともとぼーっとしてた僕が悪いんだし」 

そういって私は本を数冊拾って彼女の持っていた本も持ち 

「持ってあげるよ」 

彼女は頬を赤らめながら小さな声で 

「……ありがとう」 

と言った 

これが私と彼女の最初の出会いだった 







この出来事がきっかけで私と彼女はよく会うようになった 

夏休みに入ってからもよく町の図書館などでいっしょに宿題をこなした 

私は毎年夏休みの終わり頃にドタバタするタイプだったのだが この年はなんと最初の1週間で終わってしまった 

宿題を終えた最後の日 彼女の口から 

「あの……えっと…明日…いっしょに……プール…行かない?」 

と言われた 

私は快く了解した 

そのときの彼女の表情はとても晴れやかな表情だった 







楽しい日々があっという間に過ぎ ついに夏休みの最終日になってしまった 

この日も私は彼女と一緒に遊んだ 

別れ際に私は小遣いをはたいて買ったペアウォッチの片方を差し出した 

そして私は彼女に付き合ってほしいと言った 

彼女は涙を浮かべて頷いた 

こうして私と彼女は付き合うようになった 







私と彼女の交際は順調そのものだった 

しかし交際が2年を過ぎようとしていたとき 事件が起きた 

とある雨の日 私は彼女と会うために待ち合わせ場所である公園に来ていた 

不覚にもちょっと遅れてしまったのだが 彼女の姿はまだ無かった 

彼女が先に来てる事はあっても 私が先につくことはなかったのでちょっと不思議に思ったが 黙って待つことにした 

しかし1時間 2時間経っても彼女は現れなかった 

不安にかられた私は彼女の携帯電話に電話をかけてみたが繋がらなかった 

そこで私は彼女の家にもかけてみたが同じく何の反応もなかった 

さらに私は家にかけて何か連絡が来てないか聞いてみた 

そこで知ったのは驚くべき事実だった 

来る途中に彼女が交通事故に遭って市内の病院に運ばれたということだった 

私は出来る限りのスピードで病院に向かって走った 

途中で傘が駄目になりびしょぬれになりながらも走った 

やっとの思いで病院に着いた私が見たものは―――― 


















すでに冷たくなっていた彼女の変わり果てた姿だった 




















「…………と言うわけで形見に彼女の親から譲ってもらったのがこれってわけだ」 

私は友人に右腕の壊れた腕時計を見せながら言った。 

「……すまんな、いやなこと思い出させちまって」 
「…そう思うなら今日お前のおごりで飲みにつれてってくれ」 
「勘弁してくれよ…今月は金欠なんだって」 
「冗談だよ。それに全然気にしてないから…」 
「そうか…」 
「じゃ、ここの会計よろしくな」 
「………わかったよ、これくらいは払ってやる」 

と言い、友人は伝票をわしづかみにしてレジの方へ向かった。 




彼女が死んでから、もう3年が経つ。 

彼女のことを全く引きずってないと言えば嘘になるが、もう吹っ切れている。 

それが彼女に対する礼儀だと思ったからだ。 

…………私は寂しくない 

ずっとこれから『2人で』歩んでいける 

…彼女の時計がいつも一緒だから… 

あのときのことは…永遠に忘れないから… 


END 




お久しぶりです〜
前回に続いて出させていただきます〜♪

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