「彼と男」 by ゆびきゅ 脱ぎ捨てられたユニホームが小さな溜息をついた。 スタンドで振られていたフラッグと同じ青だ。 内容では勝ってたよ、という彼の言葉に男は首をふる。 日本に帰ってから、その言葉はいくらでも聞くことが できる。男の不要論とともに。皮肉なことに、マスコ ミだけが勝負の厳しさを適格に言葉にすることができ る。ゴールに見放された男は、厳密な意味で不要なの だ。ユニホームは男のこういう様子を、一種微妙な快 楽を味わいながら見守っている。合宿所で会ったあの 気迫に満ちた青年とはなんという違いようだろう。男 は常に現実を追いかけてきた。しかしここに来て、男 は彼に奇蹟を願ったのだった。彼には、茶番でしかな かった。ユニホームは彼に言った。 君は今夜、どうかしてたよ。 (投稿日:06月02日(火)17時36分21秒)