『テーマ館』 第19回テーマ「ワールドカップ」



 「彼と男」   by ゆびきゅ


脱ぎ捨てられたユニホームが小さな溜息をついた。
スタンドで振られていたフラッグと同じ青だ。
内容では勝ってたよ、という彼の言葉に男は首をふる。
日本に帰ってから、その言葉はいくらでも聞くことが
できる。男の不要論とともに。皮肉なことに、マスコ
ミだけが勝負の厳しさを適格に言葉にすることができ
る。ゴールに見放された男は、厳密な意味で不要なの
だ。ユニホームは男のこういう様子を、一種微妙な快
楽を味わいながら見守っている。合宿所で会ったあの
気迫に満ちた青年とはなんという違いようだろう。男
は常に現実を追いかけてきた。しかしここに来て、男
は彼に奇蹟を願ったのだった。彼には、茶番でしかな
かった。ユニホームは彼に言った。
君は今夜、どうかしてたよ。

(投稿日:06月02日(火)17時36分21秒)