『テーマ館』 第19回テーマ「ワールドカップ」



 「前夜祭にかける情熱」   by NORA


      「こ、これは! 友愛の象徴であるはずの巨人が、攻撃をはじめましたッ」
       スピーカを通し、アナウンサーの声が会場に響く。しかし会場は、スピーカー
からの声もかき消すほどの騒動である。
       ワールドカップ開幕を控えての前夜祭は、宴もたけなわといった盛り上がりを
みせていた。
       世界各国から自国の選手団を応援しようとサポーターたちが詰めかけ、あるい
は旅行会社のツアーでやってきた観光客たちが、それぞれにそれぞれの形で浮き足立っ
ていたのだから、騒ぎは止まるところを知らない。
       さらに追い打ちをかけるような騒動が持ち上がった。
       あろうことか『友愛』を謳い大陸を旅してきたはずの巨大な人形の1体が、観
客席に向かい攻撃を始めたのである。
       会場はパニックに陥った。
       右往左往し逃げまどう人々。巨人の目からビームが放たれ、パクリと折れ曲が
った肘からは火花と同時に凄まじい爆発音が・・・


      「おお、すっげー」
      「本当だあ」
       大きな爆発音に驚いて耳をふさぎながら、僕たちは感嘆の声をあげた。
      「でもさ、今のはやばいよ。火花散ってんじゃん」
      「平気だろ。ちゃんと上空を狙ってたし」
       けどわらわらと逃げまどう人の群に、火の粉が降り注いでたぞ。危ないなあ。
       巨人に攻撃されているのとは、まるっきり反対側の客席にいる僕たちは、とこと
ん暢気だった。
      「上空狙ってどうすんの? 攻撃は?」
      「だってあれ花火だろ。ビームなんてサーチライトだったしな」
       そうなのだ。
       攻撃もなにも、花火やサーチライトでは単なるこけおどしだ。
       巨人の攻撃は過激派の仕業だと、近くの席に座る男が言っていた。
      「巨人を手なずけるくらいしないと、過激派もやってらんないんだよな、きっと」
      「で、どうして花火なのさ?」
      「過激派と言えど、ウケも狙ってみないとな」
       そこまで言って、彼はチッと舌打ちした。
      「巨人が日本に来てたら、ゴジラで応戦してたのにな」
      「誰がゴジラを出すっての? だいたい応戦してどうすんのさ?」
      「どうするもこうするも、巨人に勝ったら日本チームが優勝しそうな気するだろ?」
       そういうもんかなと、巨人が放つ花火を見ながら考える。

       巨人が攻撃しようとゴジラが応戦しようと、ともかくワールドカップは開幕するのだ!


                −END−

(投稿日:06月14日(日)23時00分21秒)