第5章 応 用 編

応用編では、原則として助詞・助動詞を省略した表現で手話を表します。一部繰り返しになりますが、第5章で使われる凡例を掲げます。

(凡例)・最初に手話で表そうとする日本語を「……」で示します。次に手話の表し方について、日本語の単語と対応する手話を並べて示します。その際、手話では省略するものは( )に入れて示します。

・『新・手話辞典』の手話については、【 】に入れ、指文字で表すときは、《 》に該当の指文字を入れます。

・【 】に示す手話は同形語を使うときには、イラストが掲載されている見出し語で示しました。

  ・「*……」で手話の使い方についての注釈を入れました。

 例: 謝

   【謝る 15】

「謝」の手話は「謝る」という見出し語で15ページに載っているという意味です。

に は

  :《に》《は》

例えば、助詞の「には」は指文字で示すという意味です。

 

第1節 社会科教材

社会科の教材として高等学校の地理と日本史の教科書から日本語対応手話で表現する例をとりあげてみます。

地理の例文

「気候は、気温、風、降水、気圧、日照などの気候要素の組み合わせで表現される。」(『改訂地理』東京書籍)

気候(は)、気温、    風、   降水、  気      圧、   

【気候 113】【温度計 73】【風 88】【雨 15】【気(き) 110】【圧力 11】

日    照(などの) 気候    要    素(の)

【日 398】【照 322】 【気候 113】【要 487】【素 260】

組み    合わせ  で  表現さ     れる。

【組む 138】【合わせる 2】《で》【現れる 16】【〜れる 521】

*「気候」の手話は指文字と組み合わせて作ってあるので分かりやすい。

*「表現される」の【〜れる 521】はここでは「可能」の意味を表すが省略してもよい。

日本史の例文

「平安時代以来、地方の農村に成長してきた武士たちは、鎌倉幕府に結集することで、新しい歴史をきりひらいた。このときから、信長・秀吉が登場してくる16世紀の末までの約400年間が中世とよばれる時代である。」(『高等学校日本史』学校図書)

平安時代    以来、    地方(の) 農    村(に)

【平安時代 545】【〜から 99】【地方 296】【農 367】【村(そん) 270】

成長(して)きた     武士    たち(は)、鎌    倉   

【成長 250】【来る 141】【武士 421】【皆 469】 【鎌 97】【倉 139】

幕    府(に) 結     集する    こと    で、

【幕 454】【府 414】【結ぶ 475】【集まる 11】【こと 168】《で》

新しい   歴史(を) きり    ひらい(た)。

【新しい 9】【歴史 520】【切る 129】【開く 409】

こ  の  とき    から、   信長           ・

《こ》《の》【時 333】【〜から 99】《の》《ぶ》《な》《が》(休止)

秀吉(が)       登    場    して    くる 

《ひ》《で》《よ》《し》【登 369】【場 380】【やる 498】【来る 141】

16       世紀(の) 末    まで(の) 約   

【16(数詞) 24】【世紀 249】【末 234】【至る 27】【約 494】

400    年    間(が) 中    世(と) よばれる 

【400(数詞) 24】【年 336】【間 2】【中 347】【世 504】【言う 21】

  時代(で)  ある。

【時代 203】 【有る 16】

*指文字結合手話の【平安時代】は【歴史】の手話をもとにしており、右手で

「へ」を表示します。

*「成長してきた」では、【成長】の手話に動きがあるので「〜して」は省略し

た。「登場してきた」では【場】の手話に動きがないので【〜する】【来た】の手話を入れた。

*「呼ぶ」は「招く 460」の同形語となっているが、この場合は意味を考えて

【言う 21】を使う。

*【有る】は助動詞なので省略可能だが、文末ではここで文が終わるという意味

で【有る】を入れた方がよい。

 

第2節 理科教材

理科の術語は漢字熟語が多いので、漢字手話の組み合わせで表すことができます。例では、「液体」は1語の手話で、「気体」は漢字手話の組み合わせで表していますが、最初は

「液体=【液 49】+【体カラダ 100】」「気体=【気 110】【体カラダ 100】」

で表して、慣れてくれば口話と併用して

「液体=【液 49】」「気体=【気 110】」

としてもよいでしょう。

「液体を熱して沸騰させ、出てくる気体を冷やして再び液体に戻して取り出すことを蒸留という。」

液体(を) 熱し(て) 沸騰    させ、 出て    くる

【液 49】【熱い 10】【沸く 527】【〜せる 255】【出る 322】【来る 141】

気    体 (を)    冷やし (て)  再び    液体 (に)

【気 110】【体カラダ 100】【冷たい 312】【また 457】【液 49】

戻し (て) 取り 出す    こと(を) 蒸     留 (と)

【戻る 489】【取る 343】【出る 322】【事 168】【蒸す 475】【止まる 340】

いう。

【言う 21】

 

第3節 算数・数学科教材

「算数」といわれる段階であれば、『新・手話辞典』の範囲で十分表現できます。しかし、「数学」といわれる段階になると専門的用語がたくさん出できて、別に数学用手話の研究が必要です。

ここでは、水道方式の本から例を取り上げてみました。(『なぜ?どうして?を大切に』上村浩郎・数学教育研究会)

「a『キャンディーが12個あります。4人でわけると1人分は何個になりますか。』

b『キャンディーが12個あります。1人に4個ずつわけると何人にあげられますか。』

aもbも12÷4=3という式が得られる文章題ですが、意味が違います。

aは1人あたり何個になるかを求める問題で、bは1人あたりの量が決まっていて何人分になるかを求めよという問題です。

aは等分除、bは包含除といわれています。」

ちょっと長い文ですが、1文ずつやってみましょう。同じような単語が繰り返し出てくるので練習になります。

a『キャンディーが12個あります。4人でわけると1人分は何個になりますか。』

     a『   キャンディー(が)  12         個

【国際指文字a 22】《キャンディー》【12(数詞) 24】【〜個 156】

あり     ます。       4       人(で)

【有る 16】【〜ます 456】(休止)【4(数詞) 24】【人(ひと) 405】

わける(と)  1       人        分(は)

【分かれる 527】【1(数詞) 24】【人(ひと) 405】【〜分 430】

何        個(に) なり     ます     か。』

【何(なに) 351】【〜個 156】【成る 354】【〜ます 456】【〜か 75】

「b「キャンディーが12個あります。1人に4個ずつわけると何人にあげられますか。」」

      b   『キャンディー(が)  12         個

【国際指文字b 22】《キャンディー》【12(数詞) 24】【〜個 156】

あり     ます。       1       人(に)

【有る 16】【〜ます 456】(休止)【1(数詞) 24】【人(ひと) 405】

4        個     ずつ    わける(と)

【4(数詞) 24】【〜個 156】【〜ずつ 239】【分かれる 527】

何       人(に)    あげら    れ

【何(なに) 351】【人(ひと) 405】【上がる 4】【〜れる 521】

ます      か。』

【〜ます 456】【〜か 75】

*『 』は必要に応じて空書します。空書は自分が普通に黒板に書くように相手

に向かって書きます。相手の立場を考えて逆に書く必要はありません。

aもbも12÷4=3という式が得られる文章題ですが、意味が違います。

     a(も)      b(も) 12          ÷

【国際指文字a 22】【国際指文字b 22】【12(数詞) 24】【空書 ÷】

4          =  3       という   式が

【4(数詞) 24】【空書 =】【3(数詞) 24】【言う 21】【式 198】

得ら     れる    文章   題    です

【取る 343】【〜れる 521】【文 430】【題 273】【〜だ(断定) 271】

が、         意味(が) 違い    ます。

【しかし 197】(休止)【意味 31】【違う 293】【〜ます 456】

*「÷」とか「=」とかの記号はそのまま空書します。

*助詞は表現しないのが原則ですが、逆接の接続助詞「〜が」は、重要なので手

話で示した方がよい。指文字「が」で示すか、【しかし 197】を使う。

*文の切れ目には適当に休止を入れた方が分かりやすい。

aは1人あたり何個になるかを求める問題で、bは1人あたりの量が決まっていて何人分になるかを求めよという問題です。

     a(は) 1       人       あたり

【国際指文字a 22】【1(数詞) 24】【人(ひと) 405】【当たる 10】

何        個(に) なる     か(を) 求める

【何(なに) 351】【〜個 156】【成る 354】【〜か 75】【求める 489】

問題(で)、     b(は) 1       人

【問う 328】【国際指文字b 22】【1(数詞) 24】【人(ひと) 405】

あたり(の) 量(が) 決まっ(ていて)何      人

【当たる 10】【量 515】【決める 119】【何(なに) 351】【人(ひと) 405】

分(に)  なる     か(を)求め(よ)  という

【〜分 430】【成る 354】【〜か 75】【求める 489】【言う 21】

問題     です。

【問う 328】【〜だ(断定) 271】

aは等分除、bは包含除といわれています。

     a(は) 等      分    除、

【国際指文字a 22】【等しい 405】【分 430】【除く 368】《とうぶんじょ》

     b(は) 包     含     除(と)  

【国際指文字b 22】【包む 308】【含む 419】【除く 368】《ほうがんじょ》

いわ(れ)(て)  (い)ます。

【言う 21】      【〜ます 456】

*「等」は接尾辞の【〜等 328】使わないこと。

「分」も同じく接尾辞の【〜分(ふん) 430】を使わないこと。

*「等分除」「包含除」については、専門的な用語なので漢字手話で表した後、読みを指文字で示す。