『ろう教育論争殺人事件』

脇中 起余子 著 『ろう教育論争殺人事件』 北大路書房 2018/9/13

2019/10/11〜  

フィクションです。フィクションであることを強調するために「殺人事件」とタイトルに入れたと前書きにありました。しかし、読んでみると、現実にあったことを小説という形で告発しているのかな?

「はじめに」と「後書き」:「日本語対応手話で聴覚障害者に確かな日本語力を」という思いで書いた本です。 日本手話(声なし手話)と日本語対応手話(声つき手話)との論争がシビアに描かれています。 日本手話派の人が日本語対応手話派の人を追い落とそうとするろう学校内の人間関係もシビアに描かれています。

【注を読んだら:1】

一茶の句「しぐるるや親椀たたく唖乞食」の「親椀」は「子どもを連れた親が椀をたたく」の意味だと思っていたら[注]に「親椀」は「お茶碗」の意味と書いてあってびっくり。ネットで調べても、
 精選版 日本国語大辞典の解説
 おや‐わん【親椀】 大形の椀
と、ありました。確かに和漢三才図会の絵も乞食は一人でした。

【注を読んだら:2】

京都盲唖院のことが「日本最初盲唖院」と書いてある。びっくりしてネットで調べると

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世界大百科事典 第2版の解説

京都盲唖院(読み)きょうともうあいん  古河太四郎が創始した日本最初の盲聾学校の通称。1874年(明治7)ころから市中の待賢小学校で古河が試みた盲聾教育が発展,78年5月24日中京区御池東洞院に誕生した。市中の開設運動が知事槙村正直を動かし,創設時から府立であった。48人が入学した雨中の開業式には3000の市民が集まった。翌年現府庁前に移転,80年職業教育を開始。通学人力車,寄宿舎も用意されて,85年生徒147名と発展した。しかし松方デフレで財政困難となる。

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「古河太四郎が創始した日本最初の盲聾学校の通称」とあるだけで、本当の名前が書いてない!「世界大百科事典」なのに!

【本文感想】

読んでいる内に恐ろしくなって本を読むという快感を感じられない本です。他人事として読めばいいのでしょうけど。

第1章 ろう文化宣言

「声なし手話(日本手話)」派と「声つき手話(日本語対応手話)」の争いの話です。これが地方のろう学校の本当の姿だとしたら恐ろしい!

第2章 デフブラボー

Dプロのことかな?

第3章 ろう児の人権救済申し立て

実態がそのまま描かれているとしたら恐ろしい。

第4章 ろう学校盗難事件

聾の女の先生が聾の男性にお金を貢いであげく小学部の教員室でお金を盗む話です。

第5章 ろう学校体罰事件

「声なし手話」派の先生が「声つき手話」派の先生を「体罰」(重複障害の子が暴れるのを押さえつけるために頭をなぐった)事件を利用して追い出す話です。第4章の聾の女の先生を脅して証拠のビデオを撮らせます。それを議員を通して教育委員会に告発します。こんなろう学校だったらとてもいられないと思って1日1章しか読めません。暗い気持ちになってしまいます。確かにろう学校の初任者が読めばろう学校の様子が分かってよいと思いますがその前にろう学校を逃げ出すことを考えるでしょう。

6章 母子カプセル

人工内耳を入れ、難聴学級で手話を否定し口話だけで育った女性がろう学校の先生になって適応障害を起こす話です。手話否定、口話至上は母親の影響。

7章 モンスターペアレント

娘が休職したのは、小学部の他の教員が悪い、休職したことを言いふらした先生は告訴すると母親がモンスターペアレント。給料が減らないように3ヶ月で復職。仕事は少し。代わりに雇われて臨時の教員がそのまま続けて負担。高等部に異動して...

8章 『ろう教育史ぶらり』

ここは聴覚障害の先生とろう教育史を書こうというジャーナリストの対話で著者の「手話を使って確かな日本語力を育てる」という思いが伝わって来ます。「日本手話を獲得すれば(音声言語を教えなくても)書記日本語を獲得できる」という主張に対する明確な反論です。勇気あるなと思います。

第U部 カタストロフィ

 殺人事件が起こります。 普通のミステリよりバンバン人が死にます。 この作者、よく殺すよね!という感じです。

エピローグ メビウスの帯

 この小説の結論です。

注 「注」の参考・引用文献

学術論文と同じです。思い切った引用の仕方もしています。

注27「日本語の力の伸び悩みは、手話がまだ不十分だから」 武居先生がこんなことを言うとは!

注42体罰事件を報じる新聞記事 札幌ろう学校は大変だったんですね。脇中先生は京都聾学校で同じ危険を感じていたようです。

あとがき

確かな日本語力のために手話も口話もという主張の総まとめです。


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