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CD-ROM手話ソフト 『手にことばを・入門編』

『聴覚障害』誌 1996年6月号掲載

吉野公喜(筑波大学附属聾学校長)

聾学校に就任したものの,手話がまだよく分からない,生徒たちや卒業生と話すのに,きちんとした手話を覚えたい… そう思っている先生に,または,ふだんから生徒たちと話すのに何気なく使っているこの手話表現は本当に正しいものなのか… ふとそういった疑問を持つ先生や親ごさんにお勧めしたい一品に出会いましたので,ご紹介します。

それは,パソコンで手話を学習したり調べたりできるCD−ROMソフト『手にことばを・入門編』です。(株)富士通と(財)東京都聴覚障害者連盟との共同開発で,3月3日の「耳の日」に発売されました。

昨年は,聴覚障害者を主人公としたトレンディドラマが人気を呼び,手話がちょっとしたブームになりました。また,ウインドウズ95が出て,動画を楽に扱えるパソコンが普及し,パソコンの初心者にとってパソコンはぐんと身近なものになりました。そんな中で『手にことばを・入門編』が出たのは,まさにグッド・タイミングと言えるでしょう。1枚のCD−ROMでウインドウズでも,マッキントッシュでも使えるのがありがたいところです。何しろ,筑波大学付属聾学校の校長室に置いてあるのは,マッキントッシュなのですから。

『手にことばを』の明るい黄色のパッケージを開くと,カラフルで分かりやすいマニュアルと,これも明るい黄色のCD−ROMが1枚入っています。これを早速マッキントッシュに入れて使ってみました。

『手にことばを』のアイコンは,明るいグリーンで手が2つ並んでいます。起動すると,図のように大きな手が3つ並んだメイン・メニュー画面になります。それぞれの手そのものが,次の3つのボタンになっています。

画面の真ん中の手は,『はじめて手話を学ぶ方へ』,左側の手は,『表現の学習』,右側の手は『辞書と索引』です。

1) 真ん中の手

まずは,真ん中の手をクリック。これは『はじめて手話を学ぶ方へ』です。中には,[はじめに][手話へのステップ][指文字]の3つのボタンがあります。

[はじめに]は,全体のオリエンテーションのようなもの。動画の画面の下にはビデオデッキを思わせるボタンがあり,「再生」「ゆっくり再生」「繰り返し再生」「ポーズ」などの機能がちゃんと揃っています。もちろんテープをいちいち巻き戻す必要はありません。

[手話へのステップ]の「ものの形から手話へ 2」の画面を開いてみると,次のように,「花」や「犬」などの可愛いイラストが出てきました。

まず「犬」のイラストをクリックすると,耳がぴくぴくっと動いて,それから「犬」の手話が…なるほど,この耳の動きから「犬」の手話ができたんですね。「花」をクリックすると,花が咲くアニメ。手話表現は? なかなか面白くて,次々とクリックしたくなります。

[指文字]の画面では,文字の入ったボタンがずらり。どれでも好きなボタンをクリックすると,動画が出てきます。指文字「か」などは,正面からだと指が重なって見えてしまいます。そんな時は,動画の下に並ぶボタンのいちばん右を押してみましょう。斜めから撮影した映像が出てきました。正面から分かりにくい指文字や手話については,斜めからの画像が用意されている。なかなかの心配りです。

2)左側の手

『表現の学習』です。この『手にことばを』のメインです。日常生活の会話の場面が12通り。それぞれ例文に沿って手話を学習します。

図をごらんになれば分かるように,画面の右側に2つの窓があります。上の窓は会話文例。下の窓は単語が並んでいます。会話文のどれかをマウスでクリックしますと,左側の窓にビデオ動画が表れて,その手話表現が見られます。ビデオ動画の下には,手話表現の説明文。

下の窓の単語は,例文で使われている単語や,応用で使う単語です。これもマウスでクリックすると,すぐに動画が見られます。辞書のページをいちいちめくったり,索引を見て探したりする必要がありません。

[読み取り練習]は,手話を見てその意味を理解する練習。[表現練習]は,表示された例文を見てその手話表現を思い出す練習。もちろん正解を見るのは簡単ですが,ここはじっくり粘ってみたいところ。

3)右側の手

さて3つ目の手は『辞書と索引』。五十音順の単語リストから手話を見る[五十音辞書],14の分野(挨拶・疑問,趣味・スポーツ…等々)から手話を見る[分野別辞書]。そして画期的といいますか,思わず目を見張ってしまうのが[手話−日本語辞書]。手話を見て,その意味が分からないときに,意味を調べるために使うんだそうな。まず,調べたい手話が「片手でする手話」か「両手でする手話で,両手が同じ形の手話」か「両手でする手話で,両手が違う形の手話」を選択します。

すると,図のように手の形の一覧がぱっと表示されます。全部で28個。調べたい手話で使っている手の形はどの手の形に近いのかな?

一つの手形を選びますと,画面が切り替わって,小さな動画が画面の右側に並びます。

この動画のひとつひとつが小さいながら動いていて,ちゃんと手話を表示しているのです。これが目的の手話かな,と,ひとつをマウスでクリックすると左側に動画と解説が出ます。似たような手話が1つの画面で見比べられるのは,なかなかのものです。

『辞書と索引』を見るには,画面下のアイコン「辞書と索引」をクリックするだけでもOK。

ここまで夢中で見ていくうちに,いつのまにか時間を忘れてしまいました。ひと通り使ってみて,とても使いやすいソフトだという感想を持ちました。50歳を過ぎた私にも,すぐに操作を覚えることができて,十分に楽しめましたし,曖昧なまま使っていた手話をいくつか確認できました。もっと早くこのようなソフトがあれば,私の手話ももう少し上手になっていたかも…? また時間のあるときにこの続きをしたいと思いましたら,「終了ボタン」の横に「しおり」のボタンが目につきました。これをクリック。すると画面にクリップが挟まれて,なるほど,次からはこのしおりの挟んであるページを開けばいいんですね。これからも,時間を見て少しずつ取り組んでいくつもりです。

この手話ソフトは,基本的に日本語に沿った表現をしていますので,聾学校でも安心して使うことができます。現場の教員の研修や,養護・訓練での生徒指導に十分役に立つと思われますので,お勧めします。

!!この製品は富士通での販売が終了しました!!

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