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【書評】『手話・日本語大辞典』に関する田上先生との往復書簡



『手話・日本語大辞典』

【著者】竹村 茂 

【体裁】A5判 816ページ

【本体】3,800円+税

【発行】廣済堂出版

ISBN4-331-50680-0 C0580 \3800E

聴覚障害 1999年 6月号 掲載




【田上隆司先生より著者へ】

『手話・日本語大辞典』のご刊行,おめでとうございます。以前の新書版の『手話・日本語辞典』から4年,『手話・日本語大辞典』に発展させるため,語義の説明を充実すると共に,掲載語を約1,000語から3,000語にするなど,こつこつと努力されてきたんだなと感じました。

前の『辞典』の書評(『聴覚障害』誌1995年2月号掲載)を書かせていただいたとき,『辞典』で示された方法は著者の業績だと書きましたが,『大辞典』にされることで「業績」が画然としましたね。

それから,やはり,前の書評で書いたことですが,「次への希望」として,「手話の分類面への寄与」を願いましたが,これも実現しましたね。もちろん,この本では,分類やその計量値は示されていませんが,これだけの資料がパソコンに入力されていれば,いろいろな切口からの計量ができ,そこから新しい所見が生まれてくると思います。いずれ,どこかで何かの形でご研究が発表されるものと思ってます。

以前,私たち(田上・森・立野)が『手話の世界』(日本放送出版協会)を書いたとき,手話の辞典も「日本語・手話」辞典だけではだめで「手話・日本語」辞典も必要だとして,ちょっとした編集上の方法論を書きました。あれから二十年で「手話のシステムに基づく辞書」という,より望ましい形で「手話・日本語」辞典が出た訳です。しみじみ「手話は育ちつつある言語だ」ということを改めて感じました。

先生も,手話とパソコンの結びつきに着目されていますが,この分野は今後発展する可能性の大きい分野ではないかと思います。特にイラストがパソコンで作成できるとなると,いろいろ利用方法が考えられますね。手話の分類の標準化と,イラストのカテゴリー化ができてくると,イラストは手話表記の文字のような役割がでてきませんか。そうなると,イラストを用いた手話による文章表現などもずっとかんたんにできるようになり,手話の言語文化が発展する契機にもなるような気がいたします。パソコンについては全くの素人ですが,そんなことを感じました。

取り急ぎ拝見して,感想を書かせていただきました。これからのますますのご発展を切に願っています。

【著者より田上隆司先生へ】

過分なお言葉ありがとうございます。

手話の形からその意味を調べるという発想は先生たちの『手話の世界』に刺激されました。アイデアは,大学時代に苦労した江戸時代の草書文字の解読でした。この分野では『くずし字解読辞典』というのが何種類か出ていていますが,そのシステムを「手話・日本語辞典」に応用しました。

「手話の分類面への寄与」ですが,この『手話・日本語大辞典』によってその基礎的な資料が整ったと考えています。すべてのデータがパソコン上にあるので,これから少しずつ分析を進めていきます。

後書きにも書きましたが,本書の「手話単語を手の形から探して、その意味を知る」方法が手話を形から検索するシステムのデファクト・スタンダード(事実上の標準)になり、手話が“手話のシステムに基づく辞書”を持つことにより、言語としての市民権を確立することを願っています。

それが,新書版の『手話・日本語辞典』を購入することによって,本を売るのが困難なこの時代に『手話・日本語大辞典』という地味な本の出版を出版社に決意させた読者の方々に,同時に出版社にも報いることになると考えています。



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