イトカワの質量推定 − 異様に重いイトカワ?

 日本の小惑星探査機、はやぶさは9月以降、姿勢制御装置のトラブルなどにも関わらず小惑星イトカワの近傍観測を続けているが、いくつかの公開されたデータを元にイトカワの質量を推定してみた。
(その結果の異様さに全然自信はないが、所詮素人である、恥をかいても失うものは何もないので、勇気を出して公開する)


1.事前観測によるイトカワの質量推定値
 自分の知る限り、イトカワの質量の事前推定値は重力定数にしてμ=2〜4、質量にしておよそ3000万〜6000万トンといったところのようである。
(言うまでもないが、μ=GM、Gはニュートンの重力定数=6.67x10^-11(m^3/(kg・sec^2))

 Scheeresの論文
この文献の推定(現時点でも有効かどうか知らないが)では、
サイズは、0.5481x 0.3122x 0.2751(km)、体積は、2.41 × 10^-2 km^3、平均密度2.5g/cm^3で、
μ=4.01(m^3/sec^2)と推定している(M≒6000万トン)

 また、レーダ観測データ(JPL)に基づいた小惑星イトカワの立体モデルでは、
隕石試料(スペクトルの近い LL普通コンドライト)からの類推で、平均バルク密度=2.7g/cm^3
サイズ:(490±100)x(250±55)x(180±50) m
重量(推定): 3 ×10^10 kg(M≒3000万トン)
と推定しており、μ=2 ほどに当たる。



2.イトカワの質量推定の考え方
 観測データの公開についてはいろいろ言われているが、ハヤブサのイトカワ到達後、いくつかの軌道制御履歴のデータ(特にイトカワからの高度データ)が公開されている。
いずれも解像度があまり高くないグラフで、そこから読み取ったデータの精度は不明であるが、これからハヤブサの受ける加速度、即ち力を一応推定できる。

 ハヤブサの受ける力の主なものは、
「はやぶさ」の位置制御に与える太陽輻射圧の影響
にもあるように高度10数km程度のゲートポジションでは太陽輻射圧がメインであるが、もちろんイトカワからの重力も受けているはずである。
 太陽放射圧はイトカワからの高度には依存しない定数と考えられるが、イトカワからの重力は、その高度(ここでは簡便のため、イトカワの質量中心からの距離と見なす)の二乗に逆比例して増大し、
高度数kmのホームポジションのあたりでは、太陽放射圧と同等、ないしはそれ以上になると考えられる。

 数式で書くと、イトカワの重力定数をμ、ゲートポジションGP、ホームポジションHPで観測されるハヤブサの加速度をそれぞれ、αGP、αHP、
そのときのイトカワまでの平均距離をRGP、RHP、太陽放射圧によるハヤブサの受ける加速度をβ、とおけば、

   αGP=μ/RGP^2+β
   αHP=μ/RHP^2+β

両式を辺々引けば、βが消去できて、

   μ=(αGP−αHP)/(1/RGP^2−1/RHP^2) ・・・(式1)

即ち、高度の異なる二組の高度方向のはやぶさ加速度データがあれば、イトカワの重力定数を推定できる事になる。



3.公開データからの推定
 いくつかの実際に公開された高度制御履歴データを元に加速度を求め、上記(式1)によりイトカワの質量定数を何通りか推定してみた。
やりかたは高度制御履歴のグラフから値を読み取り、エクセルで二次曲線をあてはめ、その二次の係数を2倍するというものである。

はやぶさ高度制御履歴データのソース
データ1&2.(9/12−19) 「はやぶさ」の相対位置の制御履歴





データ3.  (9/19−26) 「はやぶさ」の位置制御に与える太陽輻射圧の影響



データ4.  (10/1− 4) 「はやぶさ」航法カメラ画像を使った相対距離の推定について





4.推定結果
 結果は以下のような驚くべきものであった!

データ 期間 データ
点数
Hmax
(km)
Hmin
(km)
Havg
(km)
log(Havg) 加速度α
(m/s^2)x10^6
推定μ 推定質量
(万トン)
使用
データ
1 9/12-15 4 21 17 19 1.2787 0.1055 18.339 27487 データ1,3
2 9/15-19 5 18 15 16.5 1.2174 0.1302 27.384 41044 データ1,2
3 9/19-24 16 19 12 15.5 1.1903 0.1310 18.700 28028 データ3,4
4 10/1- 4 18 8 5.5 6.75 0.8293 0.4636 18.243 27344 データ2,4



 高度差が少なくデータ点数の少ない2行目の結果、(データ1−2:41044万トン)を除いても、
ハヤブサの受ける加速度から推定されたイトカワの質量は、事前の予測の4倍以上あり、なんと2億7000万〜8000万トンにもなる。!
1.で述べたイトカワの体積が今でも当てはまるのであれば、イトカワの平均密度は10g/cm^3以上ある事になり、鉄ーニッケルの隕鉄をも上回る事になる!!

 イトカワの体積が予想より大きいのであれば平均密度は下がるが、それでも体積は予想の4倍もないだろう?
イトカワの構成物質は、相当高密度である事が予想される??
(金かプラチナ含むかも?ホントか??)



5.考察
 少し落ち着いて、上記の結果の妥当性を考えてみる。
いろいろ可能性はあると思うが、グラフの読み取り誤差(特にデータ4の残差が大きいのが気になるが)を別にしても、まずデータの妥当性というか、データの前提に関連する要因が2つばかり思いつく。

 一つは、解析したデータ期間中に有意の高度方向軌道操作、マニューバが行われている可能性である。
解析したデータ期間は、明らかな高度方向軌道操作が行われていると考えられる、放物線のバウンド点を区切りに高度データの区間を切り出し、ハヤブサがいわゆる自由落下状態にあるものとして解析したが、
グラフの荒さ、線の太さからしても、細かい軌道操作が行われている可能性は排除できないだろう。

 もう一つは、解析したデータは高度に関するもののみであるが、はやぶさが同時に高度方向(Z軸)に直交する周回軌道方向(下記X−Y面内)の速度成分を有する可能性がある。
イトカワの質量が正確にどの程度であるにせよ、ホームポジションのあたりでの周回軌道速度は数cm/秒のオーダであり、
それだけでイトカワによる重力加速度はキャンセルされてしまい、高度方向の自由落下は無くなってしまう。
「はやぶさ」の相対位置の制御履歴
の記事によれば、「X-Y面内では、1cm/秒の誤差があると、1日に約1kmの速さで誤差が出てしまうため、もっとも神経を使って制御しています」
とあるから、かなりこまめに制御されていると思われるが、制御の合間のX−Y面内軌道速度はゼロにはできないだろうから、かなり影響があろう。

 更に、データの解析方法に関しても、問題となる点がある。
4.の解析では放物線状の自由落下状態の間は加速度は一定として、単純に二次曲線を当てはめているが、落下により高度が変われば当然にイトカワからの重力加速度は変化するはずである。
これを解析的に考慮するのは(本当はしなければならないのだろうが)面倒なので、安直に二次曲線で近似したが、そうすると今度は得られた加速度をどの高度に於けるものとするかという問題が出てくる。
これも安直に解析したデータ区間の最大高度(上の表のHmax)と、最低高度(上の表のHmin)の単純平均(Havg)としているが、いずれも結果にかなりの系統誤差を導入しそうである。



5.結論
 上記のようなわけで、推定された上記イトカワの質量、2億7000万〜8000万トンという数字に全然確信はもてないが、
万が一真実の一片に触れる事も含まれてるかもしれないと期待してここに公開するものである。
正式な発表が待たれるところである。