永らくSFの題材か、せいぜい未来プロジェクトの検討材料であったソーラーセイル(SolarSail、太陽光推進、光放射圧推進?)であるが、近年実証に向けた幾つかのプロジェクトが動き出しているようである。
(下記関連リンク参照)
このソーラーセイルは、実現すればロケットのような反動推進が本質的に持つ質量比と到達速度の制約(ツィオルコフスキーのロケット方程式)をうち破る画期的なものであり、
太陽系内はおろか、レーザービーム推進のようなものも視野に入れれば恒星間探査も可能とする潜在能力を有する。
その詳細な検討は下記、九州大学のリンクに詳しいが、ここではこのソーラーセイルの持つ基本的特性をいくつか考えてみる。
1.光の放射圧の大きさ
光の放射圧の大きさ F (N/m^2)は、光子(Photon)の衝突による運動量移送とモデル化すれば簡単な次元解析により、光のエネルギーフラックスとしてのパワー密度 P (W/m^2=N・m/秒/m^2) を光速 c(m/秒) で割れば求まり、
F = P/c
例えば地球近傍での太陽放射エネルギー密度はおよそ、1.37KW/m^2であるから、
F = 1370/3x10^8 = 4.57xx10^-6 = 4.57μニュートン/m^2
ソーラーセイルの光反射率kが1であれば、光子の運動量変化にして2倍であるから、セイルの受ける推進力は上記の2倍となり、
およそ、10μニュートン/m^2、あるいは景気良く1平方kmのセイルなら、10N≒1kgfの推進力が得られることになる。
(結構大きいような気もするが、後述のように1平方kmのセイルは少なくとも数トンの重さになる。蛇足1)
上記の計算は光の入射角、反射角が0度の場合の値であるが、例えば地球軌道上で、軌道速度に平行に加速ないし減速する場合には、
セイルを45度程度傾ける必要があり(蛇足2)、この場合太陽光のあたる有効面積が1/√2に減り、光の反射による運動量変化も√2/2であるので、
セイルの単位面積当たりの推進力は上記の値の半分(4.57μニュートン/m^2)になると思われる。
ペイロードを含めたセイルの有効面密度が10グラム/m^2の程度とすれば、加速度はおよそ、0.5mm/秒^2 になる。
1日当たりにして、43.2m/秒の速度変化、100日間継続すると4.3km/秒のデルタVを得ることが出来ることになる。
これはイオンエンジンのような電気推進と比較しても同等な性能ではないかと思われる。
2.セイルの材料など
上記の考察では、セイルの有効面密度が10グラム/m^2とおいたが、これを実現するセイルはどんなものになるのだろうか?
ペイロードを除くセイル自体の質量が仮に100kgとして、セイル自身の面密度を10グラム/m^2すれば、その面積は、100x1000/10=10000m^2
およそ100m四方のセイルとなる。
単純にセイル材料の密度を 1グラム/cm^3とすると、セイルの厚さ t は、
t = 10/10000=1/1000cm=10μ
家庭用のアルミホイルの厚みが12〜15μ、サランラップで 8〜11μ、事務用紙で50〜80μ であるから、充分実現可能な値のようにも思われるが、
上記の値はペイロードの質量も込めた値であり、セイルに配分できるのは数グラム/m^2程度であり、しかもこれをいくら何もない宇宙空間とはいえ、実用的ミッションとなれば数万m^2広げることが必要になる。
気前よく1km平方のセイルを張ったとすると、10グラム/m^2の材料で、10グラムの100万倍=10トン/平方km、仮に1グラム/m^2のセイルが実現出来たとしても、1トン/平方kmになる。
セイルにかかる張力は構造上の工夫が可能であろうが、宇宙放射線や太陽風、太陽光自身によるセイル材料の劣化、更には微少隕石の衝突も考慮すると、長期間のミッションに耐えるセイル材料の実現はかなり難しそうである。
(そこら辺のあたりがある程度目処がついてきたと言うことが、近年の実証プロジェクトとの背景にあるようである。)
ちなみに、下記Cosmos1に使用される予定のセイル材料は、厚さ5μのアルミニウムコート強化マイラ、一辺が15m程の三角形のセイルを8枚で600m^2、中心の電子機器を含め100kgほど、
ISASの展開実験に使用されたセイル膜面材料は、厚さ7.5ミクロン(μm)のポリイミドフィルムで、直径10mのクローバ型のものであったようである。
Cosmos 1(The Planetary Society)
蛇足1
脱線であるが、地球自身が太陽から受ける光による放射圧のオーダを見積もってみると、
地球は球体であり、完全反射でもない(反射能、アルベド=約0.3)が、大ざっぱに放射圧を上記の値1kgf/km^2にとり、
太陽光束に対する地球の正味断面積を約1億平方km(≒3.14x6370^2=1.27x10^8)とすれば、
1x10^8kgf=10^5トン=10万トン にもなる。
もちろん地球の質量は厖大である(約60劾トン=6x10^21トン)であるから10万トンの力とは言え生じる加速度は天文学的に微々たるもの(10^5/6x10^21=1.7x10^-17g)であるが、これが地球開闢以来46億年間(≒46x10^8x3.15x10^7=1.45x10^17秒)、ずっと作用してきたのであるから(最初の頃の太陽放射は今よりかなり弱かったという話しもあるけど)、結果として生ずる速度変化にして、1.7x10^-17gx1.45x10^17秒≒24m/秒、となる(ホントかな?)
この速度変化が地球軌道に及ぼす影響はどんな程度か正確には不明だが、(もちろん他の惑星や月からの摂動、惑星関空間に残るガスや太陽風の効果など、他の影響のほうが支配的であろうが)、軌道速度方向に直角に軌道を押し広げる方向であるから、結果的には地球軌道半径を増大させるはずである(?)
仮にこの速度変化が、約30km/秒の地球の軌道速度方向に加算されたとすると、速度増分の割合にしておよそ1/1000、結果的に地球軌道半径もその程度(正確にはその2倍)の割合で増大するはずである(自信ないけど)
地球半径1億5000万kmの1/1000x2=30万km、まあ地球は今の月の辺りか???
蛇足2
正確な表現ではない、
セイルが光から受ける放射圧の方向は、k=0(完全吸収)の場合で、光の方向と同じ、k=1の完全反射の場合で、セイル平面の法線方向となる。
従って完全反射のセイルの場合であっても、軌道方向にセイルを45度傾けても太陽放射圧による推進力の方向は地球軌道方向に45度傾いた方向となる。
(完全吸収のセイルでは、どんな向きにしても常に軌道方向に直角にしか力は生じない)
正確な公式は、上記九州大学のリンク(ソーラーセイルの基本)にあるが、再掲すると、
平面かつ鏡面(光反射率k)のセイルに入射角θでパワー密度Pの電磁波が入射するとき、セイルに働く放射圧Fは、三角関数の余弦定理より
F^2 = (Pcosθ/c)^2 + (kPcosθ/c)^2 − 2・Pcosθ/c・kPcosθ/c・cos(πー2θ)
従って、
F = (Pcosθ/c)・√{1+k^2+2k・cos(2θ)}