カタパルトについての試算

ロケットなどの宇宙打ち上げシステムの補助、あるいはロケットに代わるものとして、地上に設置され、リニアモータなどにより、ロケット乃至宇宙機を加速し軌道に到達させる、カタパルト方式について、その基本物理と得失を考えてみる。


1.直接軌道投入

 他の推進方式を併用せずに、カタパルトのみで直接軌道投入する場合を考える。

1.1 大きさ(長さ)
 一定の加速度による水平加速であれば、カタパルトの大きさ(長さ)が、その加速度とカタパルトからの射出速度で決まることは、中学生レベルの理科の問題である。
その加速度をα(m/秒^2)、射出速度をV(m/秒)とすれば、カタパルトの長さL(m)は、加速時間をt(秒)として、

V=αt
L=(1/2)αt^2

より、tを消去して、

L=V^2/(2α) ・・・(式1.1)

一般人に耐えられる程度の加速度として3G≒30m/秒^2、射出速度として第一宇宙速度Vs1をめざすとしてとりあえず8km/秒を代入すれば、
 L=(8000)^2/60=1066.7km
を得る。
倍の6Gまで許容しても長さLは加速度αに反比例するだけなので、半分にしかならず、500km以上の長さ(東京・大阪間くらい)は必要である。
無人ペイロード専用(いわゆるマスドライバー)として、例えば30Gという加速度を許容するとしても(そんな加速度をどうやって実現するかはともかく)、100km以上の長さは必要となる。
しかも、大気圏脱出のためにはカタパルトの射出点の高度は100km以上にする必要があり、100kmの高さを支える支柱が数百Kmにわたり並ぶというSF的な構造物となり、天文学的な建設費用がかかることになろう。
(直接地上から支えなくても、空気より軽い構造材料ないし気球で、浮力を使って支持するというアイデアもあるが(「ふわふわの泉」、野尻抱介)、空気の密度はほぼ高度の指数関数で減少するので、意味のある程度の有効荷重を支持するには大掛かりなものにならざるを得ない)


1.2 所要エネルギー
 カタパルトによる加速に必要なエネルギー(リニアモータなどの電気駆動であれば、所要電力の時間変化)は、加速度をどのように変化させるかという加速プロファイルおよび、カタパルトの形状などによって決まると思われるが、ここでは簡単のため一定の加速度による水平加速を仮定する。

投射体(ペイロード)の質量をm、推進力をFとすれば、加速度αが一定で質量mも不変であるから推進力F=mαも一定で、
加速開始からt秒後の速度は、V=αtであるから、運動量変化が仕事率に等しいことより、

W=FV=mα・αt ・・・(式1.2a)

カタパルトの仕事率(所要電力)は、加速度αの二乗と加速時間に比例して増大することがわかる。
カタパルトの射出速度として第一宇宙速度Vs1をめざすとして、加速に必要な時間は、t=Vs1/αであるから、加速の最後の瞬間に必要となる最大電力は、

W=mαVs1 ・・・(式1.2b)

現在の大型打ち上げロケットのLEO投入能力は10トンほどであるから、同等の打上能力をもつカタパルトを実現すると仮定して、
m=10t=10000kg、α=3G≒30m/秒^2、Vs1≒8km/秒
を上式に代入すれば、
W=10000x30x8000=2400MW(メガワット)、240万キロワットの最大電力が必要となる。
仮に加速プロファイルを調整して必要電力を平均化したとしても、加速時間を同じとするなら、平均電力は上記最大値の半分となり、α=3Gの場合の軌道速度に到達するまでの加速時間は、Vs1/α=8000/30=266.6秒であるから、120万キロワットの電力を4分以上にわたり供給する必要がある。
現在の大型の発電所は100万〜200万KWの発電能力を持つから、これ自体は十分実現可能な値である。
もちろん、何らかの電力貯蔵手段が利用可能であれば、カタパルト作動の間に充電しておけばよいから、発電能力はこれより小さくて済む。

 なお、軌道速度まで加速するに必要な総エネルギーは上記(式1.2a)をt=0〜Vs1/αで積分すれば、W0=(1/2)mVs1^2となり、これは軌道速度の運動エネルギーに等しいが、m=10tの場合なら、

W0=(1/2)x10000x8000^2=320GJ(ギガジュール)≒9万Kwh

軌道上では、1kg程度のデブリでも32MJもの運動エネルギーを持っていることがわかる。



2.他の推進方式との併用
 カタパルトのみで第一宇宙速度をめざすのは困難とすると、ロケットなど他の推進方式との併用が考えられる。
この場合ペイロード以外に加速すべき質量が付け加わるので、カタパルトにかかる荷重は大きくなるが、2乗で効いてくる射出速度Vは小さくできるのでカタパルトの長さはぐっと短くできる。
(但し、あまり射出速度Vが小さくては、地上から直接打ち上げるのと変わりなくなってしまい、わざわざカタパルトを作る意味が無くなってしまう)

以下では、とりあえずカタパルト射出後は、ロケットにより加速して軌道まで到達するものとして、カタパルトを使用することによって、地上から直接打ち上げる場合に比べて、ロケットをどれくらい軽量化できるか計算する。

まず、基準となるカタパルトを使用しない場合を考える。
ロケットは簡単のため、単段式で燃料の噴射速度をVpとすれば、単位質量を第一宇宙速度Vs1まで加速するのに必要な打ち上げ質量m1は、ツィオルコフスキーの式より、

m1=exp(Vs1/Vp) ・・・(式2.1)

一方、カタパルトを使用する場合、その射出速度をVc とおけば、ロケット部分に要求される増速量は、Vs1−Vc であるから、
カタパルトを使用する場合のロケット部分の初期質量m1c は、

m1c=exp((Vs1−Vc)/Vp) ・・・(式2.2)

射出速度Vc のカタパルトを使用する場合に、ロケットがどれだけ軽量化されるかは、m1c/m1として、(式2.1)、(式2.2)より、

m1c/m1=exp(−Vc/Vp) ・・・(式2.3)

現在のリニアモータカーの実験などでは、時速500km(139m/秒)以上が達成されているが、気前良く倍の時速1000km以上のカタパルト射出速度Vcが達成されたと仮定する(例えば、秒速300m、マッハ1弱)
(式2.3)から、ロケットの噴射速度は低いほうが、カタパルトの効きは大きいことが判るので、Vp=3000m/秒と控えめに仮定する。
するとVc/Vp=300/3000=0.1 より、m1c/m1=exp(−0.1)=0.905
およそ1割、打ち上げ質量を減らせることがわかる。

この為に必要なカタパルトの長さは、加速度を3G=30m/秒^2として、(式1)より、L=300^2/60=1500m
より控えめに加速度を1G=10m/秒^2としても、L=300^2/20=4500m
さきほどの直接軌道に投入する場合に比べると、ずいぶん短くて済むことが判るが、打ち上げシステムとしてみた場合のメリットはどんなものだろうか?

現在の大型打ち上げロケットとして例えばHII-Aをみると、10tのLEO投入能力で打上時質量はおよそ300tほどである。
(うち、2本のSRB(固体補助ロケット)が150tほどあり、約半分を占める)
この1割というと30tであるが、これではせいぜいSRBを若干軽量化出来るに過ぎない。
ロケット自体の費用はいくらかは安くなるだろうが、例え2〜3kmの長さとはいえ、300t近いロケットを時速1000kmまで加速するカタパルトを建設する費用がペイするとはとても思われない。

それでは、どれくらいの射出速度Vcをもつカタパルトなら、ロケット側システムを充分に軽量化できるだろうか?
例えば、HII-AのSRBを省くためには、(式2.3)の値が、1/2でなければならない。
従って、Vc/Vp=log2≒0.7より、ロケットの排気速度Vpの7割が必要であることが判る。
上の例と同じく、Vp=3000m/秒とおけば、Vc=3000x0.7=2100m/秒
この場合のカタパルトの長さは、加速度3Gの場合で、(式1.1)より、L=2100^2/60=73.5km
を得る。
実際のHII-Aロケットでは第1段から液酸・液水であるから、排気速度は4000m/秒以上あり、SRBの排気速度は小さいことを勘案して、4000m/秒の7割としても2.8km/秒まで加速する必要があり、必要なカタパルトの長さは130km以上になると見込まれる。

長さ50m以上あり、重さが150tのSRB無しのHII-Aを秒速3km近くにまで加速するリニアモータシステムというだけで、充分に技術的にも困難であるが、それを100km以上に渡り敷設するとなると、かかる費用はSRBの節約だけではこれもペイしなさそうである。



3.ミッション要求からみた得失

カタパルト方式によるミッションへの明らかな制約のひとつは、打ち上げ地点、方向がカタパルトによって決まってしまうことである。
これは通常のロケット方式による打上の場合にも言えることであるが、ロケットのペイロード投入能力は、その軌道(特に最大軌道傾斜角)と打上地点の緯度の関係によって大きく影響される。
打上地点の緯度から大きく外れた軌道傾斜角の軌道へのペイロード投入には、いわばハンデが伴い、余分なデルタVが必要なため、同じ能力のロケットではペイロード質量は減少し、同じペイロード質量を確保するにはブースタの増強など、打上能力の増大が必要となる。
(例えばHII-A標準型の場合、通常の低軌道(打ち上げ基地である種子島宇宙センターと同じ緯度の軌道傾斜角30度前後)であれば、10t程の打上能力があるが、軌道傾斜角が90度に近い太陽同期軌道(地球観測衛星がよく使用する)では、4t程と打上能力は半減してしまう。(ちなみに静止軌道や地球の重力圏脱出の場合には2.5t)
地球静止軌道(軌道傾斜角0度)への打上では、赤道上の地点がもっとも有利であり、ESAのアリアンロケットは南米ギアナから打ち上げられる。
また、国際宇宙ステーション(ISS)の軌道はロシアの参加を促すため、軌道傾斜角51度に変更されたが、これがために建設資材を運ぶシャトルミッション(打上地点のケネディ宇宙センターの緯度は北緯28度)の実効ペイロード質量が減少し、打上回数が増えたのは有名な話である。)

直接軌道投入するカタパルトの場合には、その射出点の緯度と方向によって、投入される軌道の軌道面(従って軌道傾斜角)は決定される。
(射出速度の変更が可能であれば、近地点、離芯率などの軌道要素は調整可能と考えられる。)
もちろん低軌道投入後の軌道面変更は可能であるが、その為に必要となる推進剤が実効的なペイロード容量を圧迫する。
ロケットの補助としての併用型カタパルトの場合には、より投入軌道の自由度は高くなるが、射出点の緯度、方向と投入軌道の関係によっては、通常のロケットの場合と同じようなペイロードのハンデが発生する。



4.二段式システムとの比較

 カタパルトは地上くくり付けの第1段ロケット(ブースタ)みたいなものであるから、今までのカタパルトの議論は少なくとも二段目以降への影響に関してはそのまま二段式打上システム(通常の二段式ロケット(TSTO)やエアブリージングエンジン、スクラムジェットを第1段にもつ有翼帰還型二段式システム)に適用できる。

 これらのシステムの第1段とカタパルトを比較した場合の相違点は、カタパルトは地上設置であるが故にエネルギー供給や推進方式に制約が少ないものの、上記1,2の検討でも判るようにシステムが駆動区間の全長にわたる大規模なものになるデメリットがある。(従って初期建設コストはかさむが、ランニングコストは相対的に少ない)
一方、TSTOなどの二段式システムでは、飛翔体としての性格上エネルギー供給や推進方式に制約があり、ビーム送電などの可能性はあるものの、基本的には第1段はロケットやジェットなどのように飛翔体として自立した反動推進方式を取らざるを得ない。
そのため、システムの重量がツィオルコフスキーのロケット方程式の制約を受けることとなり、(エアブリージング方式では多少緩和されるが)初期質量の大半を燃料が占めるという非効率的なことになる。
その代わり、(打上場、滑走路などは必要だが)飛翔体自身のシステムそのものは、カタパルトよりも遙かにコンパクトになる。