さまざまな質量欠損の割合
最近よく見る掲示板で、エネルギーと質量の等価性(E=mC^2)に関連して、
色々な物理的変化の際に生じる、質量欠損に関して問題が出ていた。
練習問題の回答がいつまでもないのは気になるので、ちょっと計算してみました。
(といっても(1)の問題を除いて、ほとんど考察はなく、理科年表のデータを足したりひいたり、単位を換算しただけですが)
問題は、
(1)地球-月系の質量欠損(重力反応)
(2)水素原子の陽子-電子系の質量欠損(化学反応の世界)
(3)重水素原子核の質量欠損(核反応の世界)
をそれぞれ見積もって,系全体の質量に対する質量欠損の程度
を見積もって見よう。
というものでした。
回答
(1)地球-月系の質量欠損(重力反応)
地球の質量:Me = 5.974x10^24 kg
月の質量 :Ml = 0.0123Me=7.34802x10^22 kg
この質量の値がどういう状態に於けるものであるのかについては疑問があるが、
質量欠損の割合の分母に対する値としては大差ないと予想されるので、一応いわゆる静止質量にあたるものであるとする。
更に質量欠損に関与する、系の構成要素のエネルギー配分をみてみると、
地球-月系の重心(地球の中になるが)に対する地球(中心)と月の相対運動速度の比は上記の0.0123ほどであり、
地球と月の軌道運動に於ける運動エネルギーの比はその逆数になるので、
地球-月系の運動エネルギーの大半(99%弱)は、月の運動速度によるものであると結論できる。
従って、月の運動速度だけに着目して地球−月系の重力結合エネルギーを計算しても、大きな誤差はないのではないかと期待される。
簡単のため、月軌道からの地球重力圏脱出速度 Vlesc に相当する月の運動エネルギーから、速度 Vlcir で月軌道を周回する現在の月の運動エネルギーを引いたものを、地球−月系の重力結合エネルギー Eel とする。
Eel=(1/2)Ml・Vlesc^2 − (1/2)Ml・Vlcir^2
Vlesc は月の周回速度の√2倍であるから、Vlesc = √2・Vlcir を代入して、
Eel=(1/2)Ml・Vlcir^2
月の軌道を単純に地球中心の円軌道と仮定して、
月の軌道半径≒38.4 万km、月の公転周期(恒星月)≒27.3 日より、月の周回速度 Vlcir は、
Vlcir=38.4x10^4x2x3.14/27.3/86400=1.022 km/秒
Eel=0.5x7.34802x10^22x(1.022x10^3)^2=3.837x10^28 J
これを光速度の2乗で割れば、質量欠損 Md は、
Md = Eel/c^2
≒ 3.837x10^28/(2.998×10^8)^2=4.269x10^11 kg
およそ4億トンもの質量となるが、もともとの月の質量に比べれば2000億分の1強にしかずぎず、
(4.269x10^11/7.34802x10^22=5.809x10^-12)
地球−月系全体に対する割合に至っては、その更に80分の1程の割合(14兆分の1ほど)にしかならない。
(4.269x10^11/(7.34802x10^22+5.974x10^24)=7.059x10^-14)
持って回った計算をしたが、結局質量比の大きな2体系の結合エネルギーは、結合した2体系が円軌道を描くとして、
その小質量体の軌道運動エネルギーに等しくなる。
さらにその結合エネルギーによる質量欠損は、小質量体の質量に対する比として求めるのであれば、小質量体の軌道運動速度の光速に対する比の二乗の半分に等しくなるはずである。
すなわち、質量欠損比、ηdは、その物体の軌道速度をVとしたとき、
ηd = (1/2)・(V/c)^2
もちろん、このような重力結合2体系に於ける質量欠損は、系全体としての結合エネルギーによるものであるから、
仮に質量欠損が観測できるとしても系全体としての話であり、小質量物体だけが軽くなるわけではないことに注意する。
また、この場合の重力結合による質量欠損というのは、構成物質そのものに化学的にも物理的にも変化が起こっているわけではないから、物質そのものが消滅するわけではなく、観測される重力結合系全体の質量が変化するにすぎない。
また上式でV=cとなると、ηd=1となるが、このような軌道速度を与える軌道半径というのはおそらく大質量物体のほうのシュバルツシルド半径か何かに関係がありそうである。
(2)水素原子の陽子-電子系の質量欠損(化学反応の世界)
分離した陽子と電子が結合して放出するエネルギーは、電磁波(真空紫外線)として観測され、いわゆるスペクトルのライマン系列の極限波長 λ0 = 0.09117μm = 911.7Å に相当する。
光子のエネルギーに直すと、水素原子1個の結合エネルギーとして Epe=13.599eV
これに対して陽子と電子の個別の質量は、電子ボルト単位で、Mp=938.2723 MeV, Me=0.51099906 MeV (いずれも理科年表による)
これらの和に対する水素原子結合エネルギーの比を求めれば、水素原子の質量欠損比 ηH は、
ηH=Epe/(Mp+Me)=13.599/(938.2723+0.51099906)x10^-6=1.4485x10^-8
およそ7000万分の1ほどである。
この例は化学結合エネルギーの例としては格段に大きい(単位質量あたりのエネルギー密度が高い、1.3MJ/g)ので質量欠損比も大きくなっており、
通常の化学反応ではせいぜいこの1/20〜1/50(20〜50KJ/g)ほどなので、質量欠損比も10億分の1のオーダである。
それでも重力結合系の質量欠損に比べればだいぶ大きいが、まだまだ検出誤差以下であろう。
(それとも精密な秤なら検出可能かな?誰か知っていたら教えてください)
化学結合による質量欠損の場合には、構成物質そのものに化学的な(原子や電子の量子力学的状態の)変化が起こるものであるが、
物理的には(陽子、中性子から構成される原子核や、電子そのものに)変化が起こっているわけではなく、
化学結合系としての原子や分子の外部から観測される質量が変化するにすぎない。
(3)重水素原子核の質量欠損(核反応の世界)
核反応前後のそれぞれの構成要素の質量を求め、その差から質量欠損を求めてみる。(データはいずれも理科年表による)
核反応前の構成要素の質量は、
電子 :Me=9.10938188x10^-31kg
陽子 :Mp=1.67262158x10^-27kg
中性子:Mn=1.67492716x10^-27kg
反応後は、
重水素原子(含む1電子)の質量は原子質量単位で、2.0141017779
1原子質量単位は、1.6605387x10^-27kgであるから
重水素原子の質量:Mdu=3.34449394x10^-27kg
核反応前後の質量の差、すなわち質量欠損は、
Md =(Mp+Mn+Me)−Mdu
=(1.67262158x10^-27+1.67492716x10^-27+9.10938188x10^-31) − 3.34449394x10^-27
= 3.34845967e-27 − 3.34449394x10^-27
= 3.96573e-30 kg
エネルギー(電子ボルト単位)に換算すると、光速度の2乗を掛けて素電荷で割って、
3.96573e-30x8.988004e16/1.602177e-19 =2.22472e6=2.22472 MeV
陽子の中性子捕獲反応において放出されるγ線のエネルギーが2.223MeV(理科年表)だそうだから、まあいい見積もりである。
質量欠損比は
η=3.96573e-30/3.34845967e-27=1.18434e-3
1000分の1強となり、核反応が重力や、化学反応に比べて、まさに桁違いに高エネルギーな反応であることがわかる。
しかしながらそれでも静止質量の持つ全エネルギーのわずか1000分の1しか取り出せない、とみることもできる。
水素−ヘリウムの核融合反応はもう少し効率的であるが、それでも核子あたり7MeVの程度(η=0.007)にしかならない。
E=MC^2 を知ってしまった以上、究極のエネルギー源は反物質との対消滅による質量の100%エネルギー変換しかない。
それができない限り、人類はエネルギーの海の中でエネルギーに溺れながら、エネルギー不足に悩まなければならない。
思えばアインシュタインも罪な発見をしたものである。
いずれにせよ、核反応の場合には、分子や原子を構成する素粒子そのものに変化が生じるわけであり、
変化のもととなる核力(強い力)は素粒子レベルの近距離でしか働かないが、その分だけ重力や電磁気力(化学反応の原動力)などの遠距離力より格段に大きく、
結合エネルギーの変化も大きいので、観測される質量欠損も桁違いとなっていると解釈される。
まとめるとケースバイケースで1〜2桁の変動はあるが、おおざっぱなオーダとしてみると、
重力結合では、1兆分の1、化学反応では1億分の1、原子核反応では千分の1といったところか
ただし、重力の場合は打ち消すもののない遠距離力であって、天体物理現象に関与するため質量欠損率は大きく変動し、中性子星やブラックホールなどが出てくると、数%〜数十%にもなると思われる。
(追加)
同じ掲示板で、ひっくり返した砂時計は、重くなるか、軽くなるか、というのも出ていた。
上記(1)のバリエーションであり、砂時計(正確には砂時計の砂)と地球の重力結合2体系であって、
砂時計だけに着目するのはナンセンスだと思うが(*1)、ひっくり返した砂時計の砂が全部落ちると、
およそどれ位の質量欠損が発生するのかも計算してみた。
砂時計の砂の重さを10グラム(家の砂時計は全体で40gほどだった、
料理用秤の上で試しにひっくり返してみたが、もちろん秤の針は変化なかったけれど...(^^); )
簡単のためこの砂が10cm落ちたとして、消失するエネルギーは、
mgh=0.01x9.8x0.1≒0.01J(ジュール)となる。
質量欠損に換算して、光速の2乗で割れば、
0.01/8.988e16=1.112e-19 kg (*2)
となる。
これは落ちた砂の重さの1e-17(10京分の1)にしかすぎないが、
仮に砂時計の砂が仮に石英(SiO2)として、その分子の質量はおよそ、
(28+16x2)x1.6605387x10^-27≒1x10^-25 kg
であるから、SiO2分子(?)百万個分に相当する。(案外大きいじゃん、という気もしないか?)
もちろんくどい様だが、砂時計の砂が落ちたからといって、砂を構成する、分子、原子の数に変化があるわけではなく、
地球と組にした系としての外部から観測される(観測できたとしての話しだが)質量の変化が、それだけの数の分子の質量に相当する、
というだけの話しである。
(*1)
一般相対論的に考えれば、現実に砂の重さがそれだけ減るのだという説もあるが、よく分らない??
(*2)
指数の計算を間違えており、当初の版では1億個としていた、ゴメンナサイ