ロケット工学の基礎

始めに

 空気のない宇宙空間において、自前の燃料による反動推進を行うロケットは、宇宙における自立した移動機関としては唯一のものであり、
その性能の理論的限界を理解しておくことは、宇宙関連技術の現状の理解、今後の発展の予測のためにも重要である。
 このページはロケットについて筆者の個人的興味と暇つぶしのため、インターネット上のいろいろなサイトや本などの資料を調べて考えたことをまとめたメモである。
筆者はこの分野の専門家でも何でもないので、基本的な間違いも含まれるかもしれないのでご容赦いただきたい。
 

目次

1.ロケットの運動方程式

1.1 推力一定の場合

1.2 ロケットの運動方程式の一般化

1.3 各種ロケットシステムの比較

1.4 多段式ロケットに関する考察

1.5 簡単な2段ロケットの考察

1.6 2段ロケットのより精密なモデル

1.7 空気力の見積もり

1.8 空力加熱率の見積もり
 

2.低推力、高比推力エンジンの可能性

2.1 イオンエンジンの比推力と推力

2.2 イオンエンジンの性能指数

2.3 電源問題

2.4 空間電荷制限電流密度の問題

備考1 ロケット方程式の単純化した近似

備考2 化学ロケット燃料の性能比較


1.ロケットの運動方程式

1.1 推力一定の場合

 重力や空気抵抗の無い状態で、静止したロケットのエンジンを点火した場合の運動を考える。
ロケットの点火時の初期質量をM0、秒あたりの燃料消費をm(kg/秒)で一定とすれば、推進力F(N:ニュートン)も一定で、
ロケットの速度V(メートル/秒)に関しては、その時間微分が加速度αであるから、ニュートンの運動方程式(F=M・α)より、

  F = (M0−mt)・dV/dt                    ...(1.1a)

  dV/dt = F/(M0−mt)

これを積分すると、積分定数をCとして、1/t の不定積分は log t +C であるから、

 V(t)=−(F/m)log(M0−mt) + C            ...(1.1b)

 ここでF/mは速度の次元(メートル/秒)を持ち、ロケット燃料の噴射ガスの平均排気速度V0に相当する。
この平均排気速度V0は、化学ロケット燃料の場合、主に燃料の化学的成分(化学反応エネルギーと反応性生物の分子量)などによって定まる固有の値であり、
0 を重力加速度G(=9.8m/秒2)で割った値は、 比推力Isp(Specific Impulse、単位は秒)と呼ばれるロケット燃料の重要な性能指数の一つである。

    Isp = V0/G                          ...(1.1c)
 

t=0において速度が0(静止)とすると、積分定数Cが求まり、

 C = V0・logM0
結局、

 V(t)=V0logM0−V0log(M0−mt)=V0log(M0/(M0−mt))   ...(1.1d)

燃料を全て消費したとき(t1)のロケットの質量M0−mt1=M1とすれば、ロケットの最終速度V(t1)=V1 は、

   V1=V0log(M0/M1)                    ...(1.1e)

あるいは、

  M1/M0 = exp(−V1/V0)                 ...(1.1f)
 

つまり、ロケットの最終速度は、燃料の排気速度と、質量比の対数に比例する。
あるいは、ロケットの質量比は、最終速度と排気速度の比の指数関数となる。
(これが、いわゆるロケット方程式と呼ばれるもので、ロシアのツィオルコフスキー(K.E .Tsiolkovsky)が1903年に発表した。
  これは定性的にはより単純化した近似的な考え方でも導出は可能(下記を参照)である)
 

式(1.1d)から、ロケットがある最終速度を達成するためには、燃料の排気速度すなわち比推力と、質量比のどちらか、あるいは両方を増大する必要があることがわかる。
空力的なロスなどを見込んだ第1宇宙速度(ロケットが人工衛星として地球を回るのに必要な最低速度、約8km/秒)として、10.0km/秒を達成するための比推力と質量比の組み合わせを下表に示す
 
比推力 質量比
100 27013.2 
200 164.4 
300 30.0 
400 12.8 
500 7.7 
600 5.5 
700 4.3 
800 3.6 
900 3.1 
1000 2.8 

一般的な固体、液体燃料の比推力は200〜300秒の程度であり、液体酸素と液体水素の組み合わせでも440〜450秒がせいぜいである(備考参照)ので、
化学燃料を使った単段式ロケットによる地球周回軌道到達(SSTO:Single Stage To Orbit)の実現には、質量比で10以上が必要とされ、ペイロード、エンジン、燃料タンクなどの質量と、加速時に要求される機械的強度を考慮すると、実現には工学的な困難が大きい。
(2段式、3段式にして、総合的な質量比を大きくしたり、補助ロケット(ブースタ)を装備するのはこのためである。(多段式ロケットに関する考察参照))
より高エネルギーのエネルギー源ないし燃料(少なくともIspで600秒程度)が実現されれば、打ち上げロケットの工学的な設計自由度は飛躍的に高まることが期待されるが、
化学燃料の範囲内では、コスト、環境的な配慮なども勘案すれば、酸素と水素以上の組み合わせは難しそうである。
(化学反応としてだけならば、水素/酸素以上の反応エネルギーをもつ反応はいくつかある(リチウム/弗素、ベリリウム/酸素、理論的比推力は700秒を越える)が、反応生成物が固体になるため作用流体として水素を添加する必要があり、実質的な比推力は低下してしまい、メリットに乏しいようである。
 TRIPROPELLANTS参照)
 

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1.2 ロケットの運動方程式の一般化

 1.1章では、燃料消費mを一定としたが、燃料消費量を時間に応じて変化させる、あるいはロケットの推力を時間により変えても、上記の結論は変わらない。
(このような推力制御は、例えば有人ロケットにおいて、加速度を宇宙飛行士が耐えられる一定の上限値以下に押さえたりする為に、実際にスペースシャトルなどにおいても行われている)
燃料を含めたロケットの質量を時間の関数として、M(t)とおくと、ニュートンの運動法則 F=mα より、

   α(t) = dV(t)/dt = F(t)/M(t)       ...(1.2a)

ここで、dt秒間にdM(t)kgの燃料が、ロケットに対し相対速度V0で排出されるから、力積が運動量変化に等しいことより、

   F(t)・dt = −dM(t)・V0

即ち、
   F(t) = −V0・dM(t)/dt                ...(1.2b)

これを(2a)に代入すると、

    dV(t)/dt = −V0/M(t)・dM(t)/dt     ...(1.2c)

log(x(t))のtによる微分は、x’(t)/x(t)であるから、上式を積分すると、

  V(t) = −V0・log(M(t)) + C

t=0において速度が0(V(0)=0)、その時の質量が初期質量M0であるので、積分定数Cは1章と同じく、

  C = V0logM0
結局、

  V(t)=V0logM0−V0log(M(t))=V0log(M0/M(t))   ...(1.2d)

これは(1.1d)式において、時刻tにおけるロケットの質量M0−mtをM(t)で置き換えたものに過ぎず、時刻tにおけるロケットの速度V(t)は、時刻t以前の状態には依存しないので、
ロケットの最終速度・排気速度の比と質量比の関係などは、燃料消費速度を変化させて推力制御を行ってもそのまま成立することが判る。
(もちろん実際には、推力制御を行ってロケットの最終速度に達するまでの加速時間などが変われば、重力加速度による損失、空力的な損失は変化するが)
 

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1.3 各種ロケットシステムの比較

 2002年現在、世界各国において、打ち上げロケットとして実用に供されているもののいくつかを対比してみる。

(1)HII−A
 ご存じ、日本の宇宙開発事業団が開発した、液酸・液水の2段式ロケット(第2段は再点火可能)、標準構成では2本の固体補助ロケットを装備して、直径4メートル、高さ53メートルの円柱形、重さは289トン、低軌道(LEO)なら10トン、静止軌道で2トンの打ち上げ能力を持つ。(詳細はこちら

(2)M-V
 宇宙科学研究所が科学観測用に開発した、固体3段式ロケット(ミッションによってはキックモータを第4段として搭載)、全長30.7m,公称外径2.5m,発射時総重量は衛星を含めて約139トン、LEOで1.8トンの打ち上げ能力、糸川のペンシルロケットに始まり、カッパ、ラムダ、ミュー4S,3Sと続く固体ロケットの最終形(詳細はこちら

(3)アリアンロケット
 欧州宇宙機関(ESA)が開発し、アリアンスペース社が南米フランス領ギアナから打ち上げる大型商用ロケット、最新型のAriane 5は、第1段液酸・液水ロケット、2段目は再点火可能なモノメチル・ヒドラジン(MMH)とテトラニトロキシド(TNO)、全長 52 m(最大直径5.4m)、全重量710 トン、固体補助ロケット装備で静止遷移軌道(GTO)に約6トンのペイロードを打ち上げることが出来る。(詳細はこちら

(4)スペース・シャトル
 米国NASAが開発した、有翼有人宇宙帰還機、打ち上げシステムとしては、帰還機(オービター、高さ17m、長さ37m、翼の長さは24m、乾燥重量85トン)と外部燃料タンク(ET)、二つの固体ロケットブースター(SRB、全長45m,直径3.7m、各重量600トン弱で海面上での推力約1500トン)から構成されており、全体では高さ23m、長さ56m、打ち上げ時総重量は2000トンを越える。1972年に開発を始め、1981年4月12日に初飛行。
オービターの中央部分は、ペイロードベイになっており、人工衛星などが打ち上げられる。 2基の固体ロケットブースターは燃料タンクの両脇に取り付けられており、打ち上げ約2分後に45kmの高度でシャトルから切り離され、パラシュートで海面に落下し回収後、再利用される。 燃料タンクは、打ち上げに必要な酸化剤と燃料、液体酸素と液体水素が収納されており、これらはオービターのメインエンジン(SSME、3個あり1個で推力178トン(真空中))で燃焼させる。8分後燃料タンクは切り離され、大気圏で燃え尽きる。その後オービターは、軌道修正用のエンジンを噴射、地球周回軌道に入る。 オービターは地球帰還時には大気との摩擦で減速、最後はグライダーのように着陸する。
(詳細はこちら
 4機(Columbia,Discovery,Atlantis,Endeavour)の機体が就航しており、110回以上の打ち上げを行っていたが、2003年2月のColumbiaの大気圏再突入時の空中分解事故により現在運行を停止中
(シャトルの全損事故はこれで2度目。最初はChallenger、打ち上げ時のSRBの異常により爆発)。

(5)デルタ、アトラス、タイタン
 いずれも米国の民間/軍用ロケット、多数のシリーズ、派生型があり、数百機の単位で打ち上げ実績がある。
・デルタロケットは、ボーイング社が運行する液体ロケット、最新型のデルタ4型は、第1段、第2段とも液酸・液水の液体ロケットで、2002年11月に初飛行に成功した
・アトラスは元々ICBMから転用されたもので、第1段(アトラス)は液酸・ケロシン、第2段(セントール)は液酸・液水の液体ロケットで現在はロッキード・マーチン社が運行、2002年現在アトラス2,3,5の3シリーズが運用中(アトラス2はあと5機で終了、最新型のアトラス5は2002年8月に運用を開始)
・タイタンもアトラスと同様ICBMをルーツにもつ液体ロケットで、アメリカ空軍(USAF)/マーティン社(ロケット・エンジンはエアロジェット社) が運用

(6)プロトンとソユーズ
 プロトンは、旧ソ連の時代(1960年代初め)から続くロシアの大型の打上げロケット、標準タイプは4段式、1〜3段はNTO/UDMH(非対称ジメチルヒドラジン)、4段のブロックDロケットは液体酸素/ケロシンを用いる。
全長65.8m、直径4.15mで、総重量745.5トン、発射時の実効推力は902トンに達し、LEOに20トン、GTO4.4トン、GSO1.9トン(打ち上げ場所の緯度の関係により、他のロケットに比べ少なくなる)の打ち上げ能力がある。
開発、運用は、旧ソ連科学アカデミー、現ロシア宇宙軍のほか、現在は米国ロッキードマーチンとの合弁会社のインターナショナル・ロンチ・サービシズ社(ILS) が行っており、カザフスタンのバイコヌール宇宙センター から打ち上げている。
(詳細はこちら
 ソユーズは、1964年、ガガーリンによる世界初の有人宇宙飛行を実現したボストークの改良型、1967年に初飛行。
ペイロードをのぞく全長34.54m、直径2.95m、発射時の実効推力は411トン、全体の打ち上げ時総重量は297.4トン、LEOに7トンの運搬能力がある。
クラスタ型のブースタ(第0段)を含め、0〜2段すべて、燃料は液体酸素を酸化剤、ケロシンを燃料とする液体ロケット。
 
 

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1.4 多段式ロケットに関する考察

 ロケット方程式を多段式(multi stage)ロケットの場合に拡張することを考えてみる。
n段式ロケットの各段のロケットエンジン、タンクなどの質量(いわゆる構造質量)を無視して、各段の燃焼前後の質量比を、δ1、δ2、・・・δn、多段式ロケット全体としてのトータルの質量比をδ0とおけば、

    δ0 = δ1・δ2・...・δn               ...(1.4a)

両辺のlogをとると、右辺の積は和の形に表せるので、

   log δ0 = logδ1+logδ2+...+logδn          ...(1.4b)

各段の燃焼については、1段式の場合と同じロケット方程式が成り立つので、各段のロケット燃料の比推力すなわち平均排気速度を、V1、V2、...、Vn 、各段の燃焼による速度の増分を、ΔV1、ΔV2、...、ΔVn とおけば、(1.1e)式より、右辺はその比の和になって、

   log δ0 = ΔV1 /V1+ΔV2/V2 + ...+ΔVn/Vn      ...(1.4c)

いま仮に、各段のロケット燃料が全て同じものであるとすれば、V1=V2=...=Vn =V0 とおくことができて、上式の右辺分母を払えば、

   V0・log δ0 = ΔV1 +ΔV2 + ...+ΔVn = V          ...(1.4d)

但し、Vは最終的なロケットの第n段の到達速度である。
結局構造質量を無視し、各段の比推力を同じとした場合、多段式ロケットの最終速度は、多段式ロケット全体としてのトータルの質量比で決まることになる。

 これでは多段式ロケットのメリットがないではないかと思われるかもしれないが、これは重力加速度のある地上からの打ち上げという条件や、ロケットの各段のエンジン、タンクなどの構造質量を無視した結果であって、
現実のロケットでは、垂直打ち上げのためには第1段目のロケットの推力はロケットの初期重量以上である必要があり、第1段目のロケットエンジンの規模が大きくなってしまい、これらの構造質量は無視できないものである。
 仮に単段式で上記の質量比 δ0 を実現したとしても、最終質量に初期質量を推進するために必要な推力の大きなエンジン、大量の燃料を蓄えられるタンクなどの大きな構造質量が含まれてしまうので、有効なペイロードの質量が少なくなってしまうということである。
逆に多段式であれば、最終質量にペイロード以外で含まれるのは最終段の規模の小さな推進系のみであるので、ペイロード質量の割合をを大きくとることが可能になる。
 あるいは、単段式ロケットでは、構造質量比(ロケットの燃料を充填した場合の質量と乾燥質量の比)と、最終質量比(ロケットの打ち上げ時の質量と最終速度到達時の質量の比)は同じであるが、
多段式ロケットでは両者の間に設計の自由度があり、最終質量比は上記の計算で示されるように、要求される最終到達速度で決まるが、構造質量比をそれよりゆるめることが可能となる、とも言える。
(下記式(1.4k)に見るように、実際の構造質量を考慮するとそんなにうまくはいかないが、式(1.4a)から大まかに言えば、2段式であれば各段の質量比は最終質量比の平方根、3段式であれば立方根の程度となる。)
 

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1.5 簡単な2段ロケットの考察

 簡単のため、2段式ロケットの場合について、構造質量も考慮して考察してみる。
第1段の燃料の質量を m1f、比推力を Isp1、エンジン、タンクなどの構造質量をm1s、第2段のそれを同様に、m2f、Isp2、m2s(ペイロード質量はm2sに含まれるとする)とおけば、
打ち上げから第1段燃焼終了時(第1段分離前)までの有効質量比δ1は、

        δ1=(m1s+m1f+m2s+m2f)/(m1s+m2s+m2f)         ...(1.5a)

従って、第1段燃焼終了時までの獲得速度ΔV1は、重力加速度をgとして、

    ΔV1 = Isp1・g・logδ1              ...(1.5b)

同様に第1段分離後、第2段燃焼終了時までの有効質量比δ2は、

        δ2=(m2s+m2f)/m2s           ...(1.5c)

従って、第2段燃焼による獲得速度ΔV2は、

    ΔV2 = Isp2・g・logδ2              ...(1.5d)

重力、空力抵抗などによる獲得速度の損失を無視すれば、最終速度Vは

    V = ΔV1 + ΔV2  = Isp1・g・log δ1+Isp2・g・log δ2         ...(1.5e)

ここで簡単化のため Isp1 = Isp2 = Isp とおけば(現実の打ち上げロケットでは、第1段は大気圧の影響があり、同じ燃料を使っても、第2段よりIspが低くなってしまうようであるが)、

 V = Isp・g・log (δ1・δ2) = Isp・g・log ((m1s+m1f+m2s+m2f)/(m1s+m2s+m2f)・(m2s+m2f)/m2s)         ...(1.5f)

この式に、いくつかの制約条件を与えて、最終獲得速度Vを最大化することを考える。
対数関数logは単調増加であるから、そのためにはlogのかっこ内の値 δ1・δ2 を最大化すればよい。
制約条件としては、ロケットの全質量(m1s+m1f+m2s+m2f=m0とおく)、とペイロード質量に直結するm2sを一定(与えられた値)として固定するものとすると、

        δ1・δ2 = m0/(m1s+m2s+m2f)・(m2s+m2f)/m2s         ...(1.5g)

ここで、m0/m2s が理想的な場合の最終質量比δ0であるが、比(m2s+m2f)/(m1s+m2s+m2f) が2段式にしたことによる質量比の損失分にあたる。

更に簡単化のため、m2s+m2f=m2=α2・m0とおく。
(α2は第2段の質量の、全質量m0にしめる割合となり、Vの最大化のためのパラメータとする。)
また、m1s(第1段の構造質量)の全質量m0に占める割合は、機械的な条件などで制約があるとは思われるが、これを一応β1とおく。
( m1s = β1・m0 )
同様に m2s = β2・m0、 但しβ2は定数、とおくと、 

        δ1・δ2 = m0/(β1・m0+α2・m0)・(α2・m0)/(β2・m0) = (α2/β2)/(α2+β1)       ...(1.5h)

但し、0<β2<α2<1−β1、また、α1+α2=1、β1<α1 の制限がある。
(1.4l)式に基づいて、α2に対するδ1・δ2のグラフ を描いてみると、α2=−β1でマイナス無限大、α2=0で0、α2−>無限大で1/β2(理想的最終質量比)に漸近する双曲線となるので、
α2について単調増加であり、結局α2は可能な限り大きいほど、値δ1・δ2も大きくなることが判る。
つまり、極端なことを言えば、α2=1−β1、つまり第1段に燃料を積まずに、第1段の重たい推進系などは打ち上げ時に地上で直ちに切り離し、第2段に可能な限り大量の燃料を積んで、軽くて効率の良い第2段の推進系で長時間飛行するのが最善ということになる。(これは実質的に単段式ロケット(SSTO)に等しい!!)

 これが何故現実には不可能かと言えば、再三言うように地上からの(垂直)打ち上げロケットでは、ロケットの初期質量に対して、地上における重力加速度以上の推進力を得ることが必要であり、軽くて効率は良いが推力が不足する第2段の推進系ではそれはできないということである。
更に言えば、構造質量β1、β2を一定とおいたことも、このような結論の出た原因である。
(第2段質量α2を大きくするほど、大量の第2段燃料を蓄えるためのタンクなどの質量、即ち第2段構造質量β2も大きくなるはずである。またα2が大きくなれば、第1段の質量は少なくなるので、その構造質量β1も小さく出来るはずであるが、いずれも考慮されていない。)
次の章では、これらを考慮したより精密な2段ロケットのモデルを考察してみる。
 

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1.6 2段ロケットのより精密なモデル

前章と同様な前提をおき、(1.4k)式より出発する。
第1段の構造質量m1sに、次のような仮定を置く。
即ち、第1段の構造質量m1sは、ロケット全体の質量m0に比例する第1段ロケットエンジンの質量m1eと、第1段ロケット燃料の質量に比例する、第1段タンク質量m1tの和であるとする。

   m1s = m1e+m1t          ...(1.6a)

第1段ロケットエンジンの質量m1eのロケット全体の質量m0に対する比例係数をc1e、第1段タンク質量m1tの第1段ロケット燃料質量に対する比例係数をc1tとおけば、
第1段ロケット燃料質量が (1−α2)・m0−m1s (ここで、α2は前章と同じ、第2段の質量の、全質量m0にしめる割合)であるので、次式が成り立つ。

   m1s = c1e・m0 + c1t・{(1−α2)・m0−m1s}          ...(1.6b)

これをm1sについて解けば、 
   m1s = (c1e+c1t)/(1+c1t)・m0 − c1t/(1+c1t)・m0・α2   ...(1.6c)

前章と同様に、β1=m1s/m0 とおけば、

   β1 = (c1e+c1t)/(1+c1t) − c1t/(1+c1t)・α2          ...(1.6d)

第2段について同様に、第2段の構造質量m2sは、第2段ロケット全体の質量m2=α2・m0に比例する第2段ロケットエンジンの質量m2eと、第2段ロケット燃料の質量に比例する、第2段タンク質量m2t、およびペイロード質量mpの和であるとする。

   m2s = m2e+m2t+mp          ...(1.6e)

比例係数を第1段と同様に、c2e、c2tとおくと、第2段ロケット燃料質量が α2・m0−m2s であるから、

   m2s = c2e・α2・m0 + c2t・(α2・m0−m2s) + mp          ...(1.6f)

これをm2sに付いて解き、β2=m2s/m0とおけば、

   m2s = (c2e+c2t)/(1+c2t)・m0・α2 + mp/(1+c2t)      ...(1.6g)

より、

   β2 = (c2e+c2t)/(1+c2t)・α2 + (mp/m0)/(1+c2t)     ...(1.6h)

このβ1、β2を、(1.4l)式に代入すると、

   δ1・δ2 = (α2/β2)/(α2+β1)
        =  α2/{(c2e+c2t)/(1+c2t)・α2 + (mp/m0)/(1+c2t)}/{α2+ (c1e+c1t)/(1+c1t) − c1t/(1+c1t)・α2 }
                                                    ...(1.6 i )

mp/m0=βpとおいて、α2に関して整理すると

    δ1・δ2 =  α2/{(c2e+c2t)/(1+c2t)・α2 + βp/(1+c2t)}/{1/(1+c1t)・α2 + (c1e+c1t)/(1+c1t) }
        =  (1+c1t)・(1+c2t)・α2/{(c2e+c2t)・α2 + βp}/{α2 + (c1e+c1t) }
        =  {(1+c1t)・(1+c2t)/(c2e+c2t)}・α2/{α2 + βp/(c2e+c2t)}/{α2 + (c1e+c1t) }
                                                     ...(1.6 j )
 

α2の関数としてのδ1・δ2のグラフの形を考えてみると、α2=−βp/(c2e+c2t)と、α2=−(c1e+c1t)に極を持ち、α2=0で零点を持つ有理関数であるから、α2≧0の範囲では、0から増加して極値をとり、以後0に漸近する。

微分して極値をとるα2の値を求めてみると、意外と簡単な形(分母の定数の相乗平均)になり、

   α2 =√{βp・(c1e+c1t)/(c2e+c2t) }                    ...(1.6 k )

これは、係数(c1e+c1t)/(c2e+c2t)を無視すれば(或いはこれが1なら)、ペイロード質量比βpの平方根であり、構造質量をまったく考慮しない場合(1.4章)の結論と整合する。
一般的には、第1段の構造質量係数(c1e+c1t)は、より規模の小さい第2段のそれ(c2e+c2t)よりも大きくなる可能性があるので、第二段ロケット全体の質量比α2はペイロード質量比βpの平方根よりもやや大きめになるのではないかと予想される。
(検証に使えるデータをお持ちの方は、確かめてみてほしい)

より精密な議論に基づく最適設計をするのためには、、重力加速度の影響や、空力的損失の影響(これらは、どのような飛行経路をどのような飛行プロファイル(加速度、速度の配分)で飛ぶかに依存する)を考慮する必要があるであろう。
 
 

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1.7 .空気力の見積もり

 打ち上げ時に大気圏内を飛行するロケット、あるいは地球帰還時に大気圏に再突入するスペースシャトルのような帰還機に働く空気力を大雑把に見積もってみる。
大気密度は、大気組成不変、等温静水圧平衡の仮定をおけば、地表からの高度をh、スケールハイト(等圧平板大気の厚み、地球で平均約7.4km)をHとして、地表(h=0)での大気密度をρ0=1.23kg/m3とすれば、

   ρ = ρ0 exp(−h/H)            ...(1.7a)

高度による温度変化なども考慮したより正確な見積もり(大気成分の組成は高度80km位までおよそ地表とと同じである)には、対流圏、成層圏などにおける温度勾配を考慮した標準大気モデル(例えば米国標準大気1976など)もあるが、地域、季節などによる時間的変化もあるのでおよその目安に過ぎない。
大雑把に言って、高度50kmで大気圧は地表の1/1000以下、高度100kmにもなれば100万分の1以下となる。

この大気中を、速度vで飛行するロケットが単位面積あたりに平均的に受ける力(動圧P)は、秒あたり ρv の質量の空気が速度 v で衝突するわけだから、ロケットの形状、気流との迎え角などで決まる空気抵抗係数をCdとおけば、

    P = Cd ρv2                    ...(1.7b)

式(1.7b)を(1.7a)に代入すれば、

    P = Cd ρ0 exp(−h/H)v2          ...(1.7c)

 例えば高度50kmにおいて、3km/秒で飛行するロケット(空気抵抗係数Cd =0.1とする)にかかる動圧Pは、およそ
    P =0.1x1.23xexp(−50/7.4)x30002 = 1287(パスカル)=131kg/m2

 同じロケットが高度60kmにおいて、6km/秒で飛行する場合は、およそ
    P =0.1x1.23xexp(−60/7.4)x60002 = 1333(パスカル)=136kg/m2
 更に高度80kmで速度8km/秒だと16.2kg/m2、同じ速度で高度100kmでは1.08kg/m2
となる。
 

この(1.7c)式は、ロケットの受ける力(動圧P)を、(ロケットの機械的強度で決まる)一定値Pmax以下に押さえるという条件を課せば、ある高度におけるロケットの最大飛行速度を与えるものとなる。
即ち、
   P = Cd ρ0 exp(−h/H)v2 <Pmax
より、
   v < √(Pmax/Cd ρ0)・exp(h/2H)         ...(1.7d)

あるいは、hに関して変形すれば、ある速度の時に安全に飛行可能な最低高度が下式で与えられるとも見なせる。

   h > 2H・log{ v/√(Pmax/Cd ρ0 ) }          ...(1.7e)

速度vを横軸に、高度hを縦軸にとると、上記不等式はv=√(Pmax/Cd ρ0 )でh=0となる対数グラフの上側領域を規定し、安全高度が飛行速度の対数となることを示す。

また(1.7c)式において、単純に高度hに比例して速度vが増す(あるいは減速する)とすれば、動圧Pと高度hは、

   P ∝ h2exp(−h/H)             ...(1.7f)

の関係になり、微分して0となるhを求めると、最大動圧高度 hPmax =2H において最大動圧Pmax となることが判る。
 
 

1.8 .空力加熱率の見積もり

 地球周回軌道からのスペースシャトルの帰還時や、サンプルリターンなどのミッションを行う探査機などの大気圏再突入時には、機械力としての空気抵抗以上に、断熱圧縮された空気が高温となり飛行体を加熱する、空力加熱(AeroDynamic Heating)が問題となる。
空力加熱は、運動学的に見れば飛行体から大気への運動量移送過程におけるエネルギー損失の一部が熱として飛行体自身に伝わる現象と解され、例えとしては全く不適切だが、酷使された車やバイクのブレーキが熱くなるのと同様な、空力制動(Aero-Breaking)過程における摩擦熱の発生のようなものとも類比できる。
空力加熱のメカニズムには、断熱圧縮され高温となった空気が直接飛行体を加熱する対流加熱と、超高温となった空気が発する熱輻射が飛行体を加熱する輻射加熱の2種類がある。
 

1.8.1 対流加熱
 前者の対流加熱による空力加熱の単位面積あたりの仕事率 Wc は、およそ上記(1.7c)式で与えられる再突入飛行体の受ける空気力Pと速度vの積に比例すると想定されるので(あるいは、単位時間、単位面積あたりに流入する空気の質量ρvがv2のオーダの運動エネルギーを持つことから)、速度vの3乗に比例すると想定され、

   Wc = P・v = ε ρv3  = ε ρ0 exp(−h/H)v3         ...(1.7g)

ここで、εは空力加熱効率(飛行体にあたる空気の運動エネルギーが飛行体への熱エネルギーに変わる割合)で、簡単のため空気抵抗係数 Cd を含めて考えるものとする。
空気抵抗係数 Cd もそうであるが、空力加熱の効率εも飛行状態の種々のパラメータ、現象に応じて大きく変化すると考えられる。
(機体の飛行姿勢(迎え角)、気流の状態(層流か乱流か、衝撃波面の形状、位置などレイノルズ数(速度v)に依存)、空気の電離、解離の有無など、更には解離した空気の成分が飛行体の壁面で再結合して反応熱を発生する実在気体効果などにより、加熱のプロセスそのものが大きく変化する。)

 実際の空力加熱のエネルギー密度(例えばスペースシャトルの地球周回軌道からの大気圏再突入の場合、最大約800kw/m2程度、例えば 第 16回数値流体力学シンポジウム C12-3 極超音速プラズマ流での空力加熱の磁気による制御 松下ほかFig.2のcase1参照)から上記εを求めてみると、およそ1〜4%ほどの値となる。
スペースシャトルは相対的に長時間かけてかなり穏やかな空力制動をおこなう宇宙帰還機であり、空力加熱率も低い方であるが、アブレーションによる熱防護を行うカプセル型宇宙船の大気圏再突入のような場合には、その抵抗係数 Cd の大きさからも想像されるように空力加熱効率εも大きく、MW/m2程度の空力加熱率になる。

また1.7章と同様に、高度hに比例して速度vが増す(あるいは減速する)とすれば、空力加熱率と高度hの間には(1.7f)式と類似の関係が成立し、
 
  Wc ∝ h3exp(−h/H)             ...(1.7h)

最大空力加熱率Wcmaxを与える高度hWcmaxは、最大動圧高度 hPmax より高く、  hWcmax =3H となることが判る。

 より精密な議論を行うために、高度hと速度vの関係を一次式で近似して、

        h=αv+β
        (但しαは単位速度変化に対する高度変化率、βは速度ゼロのときの到達高度)

とおいて最大空力加熱率 Wcmax を与える高度を求めてみると、hWcmax=3H+βとなる。
同様な議論で最大動圧高度 hPmax =2H+βとなるので、結論として最大空力加熱高度hWcmaxは最大動圧高度 hPmax よりスケールハイトHだけ高いと言える。
更にこのときの最大空力加熱率 Wcmax は、(1.7g)式に hWcmax=3H+β を代入すれば、

    Wcmax =ε ρ0(3H/αe)3exp(−β/H)      ...(1.7 i )

これから判ることは、最大空力加熱率 Wcmax を押さえるためにはα、βを大きく取ればよい、即ち大気圏再突入の場合であればなるべく高々度の大気密度の低いところで減速すればよいと言うことであろうか?
その場合もちろん作用する空気力は小さいので減速率も小さくならざるを得ず、必然的に減速には長時間を要することになる。
そしてその間、重力に抗して亜軌道速度の機体を高々度に保つためには、空気力の分力である揚力によることになるが、機体の揚力と抗力の比(揚抗比)は有限なので、高々度で長時間に渡る緩減速という要求はその機体の揚抗比で制限されることになろう。
(ちなみに、航空機の揚抗比は高性能のグライダーでさえ数十のオーダ、スペースシャトルではおそらく一桁の値、カプセル型帰還機では1かそれ以下の程度である)

1.8.2 輻射加熱
 輻射加熱の割合は、断熱圧縮された空気の温度Tが速度 v の2乗に比例し、熱輻射が温度Tの4乗に比例することから、都合速度 v の8乗に比例することとなる。
速度 v が増大すれば、v3 << v8 であるから、対流加熱に比べ輻射加熱が卓越することが判る。
(低高度地球周回軌道(LEO)からの再突入では対流加熱が支配的であるが、惑星間軌道からの直接帰還では輻射加熱が無視できない要素となる。
木星大気圏に突入したGalileo探査機のプローブのような場合には、突入時の速度は50km/秒に近く、輻射加熱が支配的となり空力加熱率も数百MW/m2にも達していたものと推定される。)
 
 
 


2.低推力、高比推力エンジンの可能性

 地上から低軌道までのいわゆる打ち上げロケットに使用されるロケットエンジンは、少なくとも自重に相当する程度の絶対推力が必要であり、固体、液体燃料の化学ロケットが現在のところ唯一のものである。
しかし、低軌道にせよ一旦宇宙空間に到達した後であれば、自重を支える必要はなく、イオンエンジン、ホールスラスタなどの電気推進による低推力、高比推力エンジンの実用可能性が出てくる。
(実際に、静止軌道での位置制御、惑星探査機の主推進エンジンや軌道制御などの場面において、一部で実用化されつつある)

 電気推進には、大きく分けてその作動原理により、静電型(イオンエンジン)、電磁型(ホールスラスタ)、電熱型(アークジェット)の3種類がある。
INTRODUCTION TO ELECTRIC PROPULSION
 イオンエンジンはプラズマ化された推進剤中のイオンを、電位差のある2枚のグリッド間の電位勾配で加速噴射するもので、空間電荷制限により電流密度に制約があり、コンパクトなエンジンの実現は難しく、また加速されたイオンの衝突によるグリッドの劣化も問題になるが、実験的な宇宙機での動作例もあり、日本の惑星探査機への搭載も予定されている。。
 ホールスラスタは旧ソビエトの時代からロシアにおいて開発されている、軸方向の電界と放射方向の磁場による発生するホール電流によりイオン化されたイオンを軸方向の電界で加速∝して噴射するもので、空間電荷制限がないためイオンエンジンに比べて相対的に高推力でコンパクトなエンジンが可能であるが、エネルギー効率はやや落ちるようである。
 アークジェットは、アーク放電により作用流体を加熱し噴出するもので、構造的にも簡単でコンパクトに出来るが、比推力では1000秒程度の値のようである。

 これらのエンジンはいずれも化学ロケットに比べれば高比推力ではあるものの、推力が小さいため、宇宙機が所定の速度変化(デルタV)を得るために必要となる加速時間は、化学エンジンによる場合に比べ長くかかることになり、ミッションにおける軌道制御の期間が長期化するほか、インパルス的な推力による瞬時の速度変化を前提とした軌道計算では、軌道設計を近似できない場合がでてくるものと予想されるが、それは二次的な問題である。
(単純化したホーマン軌道遷移の計算の例については、人工衛星の軌道設計を参照)

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2.1 イオンエンジンの比推力と推力

 最初に、原理的な解析が容易なイオンエンジンについて、比推力、推力を見積もってみる。
噴射されるイオンの電荷をe(クーロン)、質量をm(kg)、加速グリッド間の電位差をV(ボルト)、イオンの噴射速度をv(m/秒)とすると、
電位差のポテンシャルエネルギーがイオンの運動エネルギーに対応するので、

  eV = 1/2・mv^2   より

  v = √(2eV/m)        ...(2.1a) 

となる。 比推力Ispは、噴射速度vを重力加速度gで割ったもので与えられるので、

  Isp = √(2eV/m)/g    ...(2.1b) 
 

噴射イオンの電流を I アンペアとしたときの推力F(ニュートン)は、秒あたりの噴射質量が (I/e)・m(kg/秒)であるので、

   F = (I/e)・m・v = (I/e)・m・√(2eV/m) = I・√(2mV/e)  ...(2.1c)
 
 比推力、絶対推力ともに加速電圧の平方根に比例し、比推力はイオン質量の平方根に反比例、絶対推力はイオン質量の平方根に比例することが判る。

 例えば、噴射されるイオンはキセノンガスが通常用いられており、その1価のイオンの電荷をe=1.602x10^-19(クーロン)、質量はキセノンの原子量が131.3であるのでm=1.6605x10^-27x131.3=2.180x10^-25(kg)、加速グリッド間の電位差をV=1000(ボルト)とすると、比推力は3912秒、1アンペアのイオン電流とすると推力は52mN(ミリニュートン)ほどになる。
1Nは約100g重であるので、1mNは0.1g重、50mNでは5g重(10円玉1個分強)ほどになる。
同様な条件で、水素原子イオンを仮定すると、比推力は44825秒にも達するが、推力の絶対値はわずか4.55mN(0.46g重、一円玉の半分弱)にしかならない。

 仮に、50kgの衛星を50mNのイオンスラスタで駆動したとすると、加速度は50mN/50kg=1mm/秒2となり、1000秒間(16分強)推進して漸く1m/秒の速度増加(デルタV)となる。
この加速度で1km/秒のデルタVを得るには11日半かかることになり、低軌道から静止軌道への遷移、地球重力圏からの脱出などのミッションには数km/秒の増速が必要なので、月単位の期間がかかることになる。
 下記参考リンクにもあるDEEPSPACE1は、惑星間ミッションに於いて電気推進を本格的に使用した初めての探査機(推進薬を含めた質量490kg)であるが、高性能太陽電池パネルから供給される2.5kwの電力(最大ビーム電圧1280V,電流0.5〜1.8A、エンジン開口直径30cm,加速グリッドにはモリブデンを使用)で平均90mNの推進力を数千時間にわたって発生することに成功した。

なお、イオンエンジンに於いては、アンペアあたりの推進剤消費率は推進剤の種別にのみよって定まる定数(m/e:比電荷の逆数)で、上記キセノンで1.36ミリグラム/秒/アンペア、水素原子なら0.01ミリグラム/秒/アンペアの程度である。(1アンペアのイオン電流のキセノンスラスタを1時間駆動して5グラム弱、1ヶ月連続駆動しても、3.5キログラムほどの推進剤の消費量である)

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2.2 イオンエンジンの性能指数

 イオンエンジンの性能指数(メリットファクタ)として、比推力Ispと絶対推力Fの積が何により決まるかを考えてみる。
式(2.1b)と(2.1c)の積を取れば、比電荷e/mは打ち消しあい電圧Vの平方根は2乗されるので、

   Isp・F = 2IV/g     ...(2.2d)

結局、IVはイオンエンジンの消費電力であるから、イオンエンジンのメリットファクタは消費電力のみで決まると結論できる。
(イオンエンジンの性能は結局電源次第という、やや身も蓋もない結論であるが、上式のgを払えば判るように、上式は排気質量の運動エネルギーの仕事率が、電気エネルギーの仕事率に等しいという、エネルギー保存則の変形に過ぎないことからも判るように、これは原理的な制約条件である)

消費電力をキロワット単位で表すと、P=IV/1000、絶対推力をmN(ミリニュートン)を単位として、f=1000・Fとすれば、メリットファクタを消費電力で正規化したものは定数となり、

   Isp・f
  −−−− = 2000000/g ≒200000  ...(2.2e)
     P

つまり、電気推進においては、比推力と、入力パワーあたりの絶対推力は反比例する。
(上記(2.2e)式は、消費電力をワット単位、絶対推力をμN(マイクロニュートン)を単位としても同様に成立する)

例えば、比推力10000秒とすると、キロワットあたりの絶対推力は20mNほどになり、先ほどのキセノンガスの例では比推力が約4000秒で、1kwあたり約50mN、更に比推力を1000秒に落としても良いなら、200mN/kw程度の推力が得られることが判る。
(但し、比推力1000秒で200mNを実現するには、推進剤をキセノンとしても、加速電圧100V以下で、イオン電流10A以上が必要と見込まれ、空間電荷制限を考慮すると、かなり大口径のエンジンが必要である)

以上の議論はもちろん、推進系の効率を100%として、イオン生成や電荷中和のための電力消費なども無視した、理想的な場合であることに注意する。
下記の参考リンクにある実際のイオンエンジンの実現例では、総合効率で80%弱が達成されている。(ホールスラスタでは50%強というところのようである)
 

参考リンク

 イオンエンジンの原理

 小惑星探査衛星MUSES-C用イオンエンジン

 軌道間輸送基礎技術の研究(大型イオンエンジンの一例)

 ホールスラスタとは

 小型アークジェット推進機実験

 First application of an arcjet thruster for the orbit control of a non-geostationary satellite.

 SFU電気推進実験(EPEX)

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2.3 電源問題

 上記の結論をもとに、電気推進の鍵となる電源(エネルギー源)について考察してみる。
(1)化学エネルギー
 1回限りのミッションで済む探査機などでは、いわゆる一次電池が積み込まれることもある。
一次電池のエネルギー密度は、結局電池素材の化学結合エネルギーに他ならないから、ロケットのエネルギー源としては、化学ロケットとして直接利用する方が効率的なはずである。
アポロやスペースシャトルなどでは、いわゆる燃料電池が用いられているが、これも同様である。
 再充電可能な二次電池については、充電するための電源の問題に帰着するので、単独では考慮する意味がない。
(供給電力の需給調整(平滑化)のためのバッファとしての意味はある)

(2)原子力エネルギー(核エネルギー)
 燃料のエネルギー密度としては、核分裂反応炉のような非効率的(E=MC2 で計算される静止質量エネルギーに対する、取り出される全出力エネルギーの割合にして0.1%以下)な原子力機関であっても、他の化学エネルギーなどに比較すれば圧倒的に高密度(化学エネルギーの10MJ/kgに対し核分裂の場合108MJ/kgの程度でおよそ1000万倍、核融合なら1億倍近くなる)であるが、放射線遮蔽(無人ミッションであれば遮蔽レベルは緩くて済むかもしれないが)や、電気エネルギーとして取り出すための変換器(熱として直接利用する熱核ロケットなら不要であるが)などを含めるとシステム全体の質量が相当大きくなるものと予想される。
(過去、アメリカや旧ソ連では宇宙推進用原子炉(主に、核分裂反応炉の熱エネルギーで直接推進剤(水素)を加熱し、噴射するタイプ、NERVAなど、Isp=900秒程度を達成可能)の研究も行われたこともあり、地上モデルでの実証まで行われているが、資金や環境の問題もあり実機に搭載されたことはなく、開発も現在は中断しているようである)

 プルトニウムなどの放射性同位元素の崩壊熱を、熱電素子により電気エネルギーに変換する、いわゆる原子力電池(RTG:RadioIsotope Thermoelectronic Generator)は、初期の地球近傍ミッションや太陽電池を用いることの困難な深宇宙ミッション(Viking, Pioneer, Voyager, Ulysses, Galileo, and Cassini)を含む25のミッションにおいて、既に44個の使用実績がある。
 質量あたりの熱エネルギー発生率は大きくない(酸化物の形態で使用されるプルトニウム238のアルファ線による発熱量は1グラム当たり0.56ワット)うえに、熱電素子の変換効率は余り高くない(10%以下)ものの、極めて長寿命(プルトニウム238の半減期は87年、Voyagerに積まれたRTGは既に20年以上稼働しており、発生電力は低減するものの今後20年は必要な電力を供給可能と見られる)であり、今後も開発が続けられる予定である。
(例えば木星探査機Galilleoに搭載された原子力電池は、システム全体で55kgで11kgの二酸化プルトニウムを用いており、熱出力4410wで、電気出力285wであった。寿命の取り方にもよるが106MJ/kgの程度のエネルギー密度で核分裂の1/100であるが、それでも化学エネルギーの10万倍程度にはなる)

(3)太陽エネルギー
 自立したエネルギー源ではないが、地球軌道近傍であれば、いわゆる太陽電池が宇宙ミッションにおける最も一般的な電源、エネルギー源である。
大気圏外の地球軌道上における太陽放射エネルギーの面積密度は1.37kw/m^2であり、宇宙環境における太陽電池素子の劣化による経年変化はあるものの、太陽電池セルのエネルギー変換効率は10%以上は期待できるので、150w/m^2くらいは実現されている。
 例えば、ISS(国際宇宙ステーション)に装備されている主太陽電池パネルは、宇宙で展開された構造物としては2002年現在最大のものであるが、1枚で長さ約33m、幅約11m(有効セル面積210m2)、重量は約1.1トンで32kwの発電能力を持つ。(152w/m2、30w/kg、5.2kg/m2
 上記DEEP SPACE 1に搭載された高性能太陽電池パネル(Scarlet)は、フレネルレンズによる集光システムと、ガリウム/インジウム/燐−ガリウム/砒素−ゲルマニウムの二重接合型太陽電池を組み合わせて、5.2x1.6mのウイング(28kg)2枚から2500Wの電気出力を発生し、45w/kgを達成しており、より大型化を図れば70w/kgは達成可能と見られている。
 但し、深宇宙ミッション(火星以遠)になると太陽エネルギーの密度が低下し、実用的ではない。
(火星軌道に於いては楕円形の火星の公転軌道のどこにいるかにもよるが平均して地球近傍におけるエネルギー密度の半分以下(4割程度、場合によって1/3ぐらい)
 
 
 

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2.4 空間電荷制限電流密度の問題

 静電型のイオンエンジンには、2.1、2.2でも触れたように、噴射されるイオンビーム内のイオンが、お互いに同種の電荷を有するため互いに反発しあうことにより、加速グリッドを通り抜ける際に一定の空間密度以上になることができない、空間電荷制限電流密度の問題がある。
この電流密度Jは、加速グリッド間の間隔と加速電位差により定まり、下式で与えられる。(Child-Langmuir Law)

   J = 4/9・ε0・√(2e/m)・V3/2/d2       ...(2.4a)

但し、ε0は真空の誘電率、(8.85x10-12ファラッド/m) 、e は 素電荷(1.60x10-19クーロン)、  J は電流密度(A/m^2)、  d は電極間隔(メートル)、m はイオンの質量(キログラム)、   V は電極間電位差(ボルト)
 J は V3/2/d2 に比例するので、加速電極の間隔を狭く加速電圧を高くするほど電流密度は上げられる(従って、スラスタの開口面積あたりの推力も大きくできる)が、電極の短絡、放電などの可能性が増すと考えられる。
また、Jはイオンの質量mの平方根に反比例するので、軽いイオンほど電流密度は高くできるが、推力自身はmの平方根に比例するので、結局イオンの質量はスラスタの開口面積あたりの推力には影響しないと思われる。

イオン電流密度が空間電荷制限まで飽和していると仮定すれば、スラスタの開口面積をSとして I =J・S であるから、(2.4a)式を(2.1c)に代入すれば、

   F = J・S・√(2mV/e) = 4/9・ε0・√(2e/m)・V3/2/d2・S・√(2mV/e)
より

  F/S = 8/9・ε0・(V/d)2 = 8/9・ε0・E2   ...(2.4b)

ここで、E=V/d(電界強度)であるので、結局イオンスラスタの開口面積あたり絶対推力は、加速グリッドの電界強度の2乗に比例すると結論できる。

 いくつかの数値例について計算してみると、
d=0.001メートル(1mm)、V=1000ボルトのキセノンスラスタで、空間電荷制限電流密度Jは150.8アンペア/m2であり、
2.1章におけるキセノンスラスタの同条件での絶対推力Fが52.2ミリニュートン/アンペアであるから、この場合の開口面積あたり推力F/Sは、7.87ニュートン/m2、所要電力は150.8KWとなる。
この条件で、1KWの電力消費に押さえるなら、スラスタの開口面積は(加速グリッド格子部分のロスを無視するとして)、66cm2 となり、直径10cmほどの噴射口サイズとなる。
 同様な条件で、水素原子イオンスラスタを仮定すると、J=1728アンペア/m2 で、F=4.55mN/アンペア、開口面積あたり推力は、上で述べたようにキセノンスラスタと同じ7.87ニュートン/m2、所要電力は1728KWとなる(比推力は44825秒ある)。
 
 

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備考1

ロケット方程式の単純化した近似)
 ロケット方程式の示す速度比と質量比の指数的関係は、上記のように微分方程式を用いずとも、以下のような単純化した近似的考察で導くことが出来る。

 静止した最初のロケットの全質量を1として、そのうちの半分を相対速度Vでまとめて一気に(塊として)噴出すると仮定する。
運動量保存則によって、最初の静止系からみたロケットの速度はV/2、噴射された排気ガス(の塊)の速度は−V/2となる。(これが排気速度に相当する)
 1/2の質量で速度V/2となったロケットが、同様にしてその更に半分(1/4)を相対速度Vで噴射すると、1/4の質量となったロケットは更にV/2加速され、静止系からみると速度Vとなる。
(2回目の噴射ガスの塊(質量1/4)は、V/2の速度からV/2減速され、静止系から見た速度は0となる)
 以下同様にして、N回の噴射を繰り返すと、ロケットの最終質量は(1/2)N となり、最終速度は N・V/2 となる。
排気速度と最終速度の比は、−Nで、その2のべきをとれば2-N となり、これはロケットの質量比に等しい。
つまり(1.1f)式で、指数の底を2とおいたものにあたる。
(べきの底が自然対数の底でなく、2になったのは半分ずつまとめて噴射するという近似の結果であるが、いずれにせよ、質量比が速度比の指数関数(べき乗関数)になるということは導出できた。
 1/2でなく1/Nづつ噴射するとしてNを無限大にする極限をとれば、べきの底が自然対数の底e=2.71728...に収束する、つまり指数関数となることが証明できるはずである。)
 

                                  (目次へ戻る

備考2

化学ロケット燃料の性能比較

 比推力は厳密には、化学成分の組み合わせだけでなく、その混合比、外気圧とエンジンの設計(燃焼室の圧力と拡張比)などにより変わる。
(燃料の混合比は化学反応で定まる割合よりも一方の成分を増やせば、その成分は作用流体として化学反応エネルギーにより加熱され、(分子量は反応生成物よりも小さいので)熱運動速度を平均的に上げることになり、平均排気速度即ち比推力も上昇することによる。もちろん増やしすぎれば燃焼温度が低下してしまい、平均の熱運動速度も下がるので、最適な比率が存在する)

 また、そのほかの性能指標として、燃料の平均質量密度は燃料タンクの大きさに関係するので質量比(構造比)に影響する。
更に保存に積極的な冷却が必要か、常温保存が可能かなどの貯蔵性は取り扱いの容易性に関係し、人体に対する毒性なども重要である。
(水素は燃料としては優秀であるが、液化しても密度が低く(0.08g/cm3)、タンクのサイズが大きくなりがちなのと、保存に極低温を要するのが難点)     
 
成分 比推力(秒) 混合比  密度(g/cm3)  貯蔵性
液体酸素/液体水素
(O2/H2
430〜450 6 0.32〜0.36 要極低温冷却(於地上、宇宙)
四二酸化窒素/モノメチルヒドラジン
(NTO/MMH)
320 1.65 1.15 常温保存可(於地上、宇宙、但し有毒)
液体酸素/メタン
(O2/CH4
330 4 0.83〜0.86 要低温冷却(於地上)
液体酸素/ケロシン
(灯油、RP−1)
300〜330 2.2〜2.5 1.0 液体酸素のみ要低温冷却(於地上)
14%HTPB/18%Al/68%AP 273 (H-II SRB)

(注)

HTPB:末端水酸基ポリブタジエン、Al:アルミ粉末、AP:過塩素酸アンモニウム

出典:ADVANCED CHEMICAL PROPELLANT COMBINATIONS
    
 

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