CAMERA!
CAMERA!
CAMERA!(guiter pop)
月はどこから見ても月だな、と、その時思った。 |
カメラというものを初めて手にしたのは、いつ頃だったのか。良く覚えてない。その時以来、手にしたまま現在に至るわけだが、どうして手放さなかったのか、その理由はもっと良く覚えていない。 主役になれる柄でもないし、かと言って脇役というのも、ぴんと来ない。 結局、観察者になるしかない。舞台の外からこの世界を見続ける観察者。 だから、カメラを持ち続ける。 そんな理由をでっち上げてみた。 自分でも嫌になるほど適当な理屈だ。しかも嘘。 結局、昔も今も、俺は判っちゃいないんだ。 セカンドインパクト以前に、ここがどんな気候の土地だったかは知らない。 が、夜はきっちり冷える。 それでもさほど寒気を感じないのは、俺が高揚してるせいだろう。 カスピ海沿岸。イランとトルクメニスタンとの国境近くの湿地帯。 俺はカメラを抱えてこんなところまで来ていた。 中学生の頃から、写真は良く撮ってた。と、言っても被写体は女の娘か兵器の類いか。 我ながら何て趣味だと笑ってしまうが、今だってそんなに変わっちゃいな い。昔の自分を笑うつもりで、今の自分を笑ってるわけだ。 サードインパクト後、世界の混乱は比較的穏便に収拾されたが、この世から戦争が消えたはずもない。 長々と(本当に長々と!)続いたイラン・イラク間の緊張は、国連が躍起になって何とか調整したものの、その影で放っとかれた感のあるトルクメニスタンとの問題が加速度的にこじれてきた。 アフガニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン等の周辺各国が個別介入したのが、事態の混乱に拍車をかける。 結果として、この界隈は、火薬の匂いが絶えない日々を送っている。 だから、俺は、来た。 女の娘の写真は、確かにいろいろ撮っていたが、本人に了承を取った上でのものはほとんどなかった。いっそ皆無と言った方が早い。 もともと女子に人気があるわけでもなし(アッラーよ!確かに貴方の前では万民が平等です。ただし背の低い盗撮好きなミリタリーマニア以外は!)、声を掛けられても、気の利いた返事ひとつできるものでもない。 それで身に付けたのが「気のない素振り」ってやつだ。興味のないものには全く注意を払わない。関わりたくないものには関わらない。もともとそういう人間だったんだろうけど、このライフスタイルはなかなか良く馴染んだ。 そうすることによって、何を手に入れたか?気楽さって言うか、安心って言うか、まぁそんな感じの何かだ。 嘘。訂正。 恥をかかずに済んだだけだ。誰に対しても一定の距離を置いていれば、「自分の領域」は守られる。が、得られるものはその中にあるものだけ。 誰もがやってる我慢の一形態。 でも、あいつらは、そうじゃなかったな。 こんな時に自分以外の誰かのことを思い出すってのも、妙な気分だ。 定番だと、故郷に残してきた恋人だとか、その類いなんだろうけども、悲しいかな、そうじゃない。 もし、俺にそんなひとがいたなら、俺はこんなところにまで来ただろうか? 愚問だ。来る来ない以前に、それは俺じゃなくなってるだろう。 当然、俺はこの戦場に、写真を撮りに来たわけだ。 二流半のフリーカメラマン。フットワークが軽く、飛び込みの仕事への反応が早い。急場に重宝する補欠要員。 そんな感じの評判を国内の業界で得ている俺が、そこそこ順調な仕事を放り出して中東くんだりまでやって来たのは、簡単な理由。 ひとつ。国内では見る機会も減ってきた兵器を撮りたくなったため。 ふたつ。せめて一流半のカメラマンまでいくためには、ここらでひとつ大きな仕事をこなす必要があると判断したため。 で、 みっつ。確認するため。 俺は本当に写真を撮ることが好きなのか? 実は、俺には、カメラマンとして致命的な欠陥がある。 ひとの顔を、正面から、撮れない。 卒業シーズンともなると、こんな俺にもお声がかかる。 曰く「記念写真を撮ってくれ」というやつだ。何人かに(女生徒にも!)頼まれて、結構意気込んだ。 何せ、ほとんど隠し撮り専門だったから。 浮かれてカメラを構え、ファインダーを覗いた瞬間。 指が、動かなくなった。 俺の見ているこいつらは、俺の方を「向いて」いるが、俺を「見て」はいない。 ただ、それだけのことが、どうしてそんなに気になったのだろう? カメラの調子が悪いとか何とか言って、謝った後味の悪さが、今も頭を離れない。 たんっ。たたたんっ。 遠くで音がした。たぶん銃声。散発的だから、偵察隊同士の小競り合いだろう。 移動したほうが良いかな。寝るときは主戦場から離れるようにしていたけど、甘かったようだ。 俺は腰を上げた。 あれ?何を思い出してたんだっけ? あぁ、あいつらだ。あのふたりのことだ。 碇シンジという男に初めて逢った日のことは、実は良く覚えていない。 いや、調べれば中学校に転校してきた日付くらいは判るのだけど、その日の状況が思い出せない。どんな顔をして、どんな挨拶をしたのかも。 わざとやってるんじゃないか?ってほどに影が薄かった。 ただ、物騒を避けて出て行くクラスメートが多かった中、あの街に転校してきたというのが、ひっかかってた。それは良く覚えている。 惣流・アスカ・ラングレーという女に初めて逢った日のことは、良く覚えている。 何せ太平洋艦隊の空母の上だったんだ。忘れろったって忘れられるもんじゃない。 そこには俺の好む世界の半分があった。おぉ、無骨な機能美溢れる兵器たちよ!我は汝と共に生き、汝の系譜の行く末を永久に見守る者也!とか歌い上げそうなほどに浮かれてた。 そして、そこに、彼女は、いたんだ。 周囲の兵器たちが、瞬間俺の意識から消し飛んだ。 甲板上にずらりと並んだスホーイやら何やら、そんな戦闘機の群れを、まるで儀仗兵みたいにして仁王立ちしてた。それが惣流だった。 ふたりとも、エヴァンゲリオンのパイロットという、かなり羨ましい副業をやっていた。 惣流は、それを自慢にしていた(というか、あの女は、昔から自分の全てを自慢していた)が、シンジは明らかに嫌々やっていた。一度は逃げ出したくらいだ。 そんなに嫌なら替わってくれ。そう言いたかったが、シンジにも事情があったのだろう。口にするのを躊躇うくらいの分別は俺にもあった。 使徒とか言う得体の知れない怪物と戦う度に、不景気な表情になっていくふたりを見ていると、こっちまで重い気分にさせられたものだが、いつしか学校にも来なくなって、街は壊滅。俺は第二東京に疎開した。 その後、サードインパクトがあったらしいが、俺は(と言うよりほとんどの人間が)良く覚えてない。知ってるのは、いくらかゴタゴタしたものの、世界は概ね平和ってこと。 あのふたりは何があったか、しばらく入院してたらしい。惣流はすぐに退院したが、シンジはかなり酷かったようで、再開したのはだいぶ後のことだった。 それからもいろいろあって、いつの間にかシンジと惣流が付き合ってたり、ふたりともネルフに復帰して何とかいうプロジェクトに関わったり(アムンゼン海の洋上プラットホームの件では、シンジが危うく死ぬところだったらしい)、それも今じゃあ昔の話。一昨年結婚して、結構順調にやってるようだ。 たまに家に行ったりすると、何と惣流がエプロン着けて料理なんかしてるから驚きだ。 聞いてはいけないと知りつつも聞いてみた。 「何でシンジがやんないんだ?シンジの方が上手いだろうに」って。 そしたら、 「この世でシンジの作った料理を食べるのは、あたしだけ!判った?」 なんて言うもんだから、たまったもんじゃない。おまけに、自分の腹を押さえて、 「あ、訂正。この子もね」 一生やってろ。と、負け惜しみじみた返事しか返せなかった。 どうも向こうの方が足が速いらしい。 それなりに双方損害も出ているらしく、銃声はしだいに大きく聞こえてくる。 こうなるとさすがに不安だ。 気付くともなしに、胸ポケットに手をやっていた。 武器じゃない。お守りでもない。 そこには、一枚の写真が入っている。 シンジと惣流、トウジと委員長が一緒に写ってる写真が。 この写真を撮ったのは、シンジと惣流の結婚式でのこと。 「ほら、相田!なにモタモタしてんのよ!」 「無茶言うなよ。そんなにパッパとできるもんじゃないぜ」 「そうだよ、アスカ。ケンスケはプロなんだから」 「もぉっ!シンジは黙ってて!」 「・・・・・第一回夫婦喧嘩開催?」 「ヒカリィ・・・」 「冗談よ。これから何回やらかすか判ったもんじゃないしね。数えてられないわよね。奥さま?」 「シンジィ・・・ヒカリがいじめるぅ」 「いきなり甘えるネタにするとは、相変わらず狡猾やのぅ」 「ヒカリ、あんたの彼氏シメて良い?」 「駄目。それ、あたしだけの特権だから」 「よし。調整終わり!撮るぞー」 「あら、やっと?だいたい何でそんな旧式使うのよ!手ぇ抜いてない?」 「馬鹿言え。こういう記念ものは、デジタルじゃ出せない味ってもんが生きてくるんだよ」 そんなこんなで撮った一枚が、これだ。 出席者の集合写真は、業者に任せたらしいが、ふたりきりの写真だけは、「ケンスケに撮って欲しいんだ」 とか何とかシンジが言うもんだから、引き受けてみた。 自信は全くなかったが、不思議なほどに平静な気分でシャッターが切れた。 何だ、できんじゃん。とか思ったのも束の間、その後は相変わらずの有様。 だから、これは、俺が『真っ正面から撮った』唯一の写真だ。 困った。こっちは走ってるのに向こうはもっと速い。すぐそこまで来てるようだ。 もしかして、俺を追ってるんじゃないか? んな訳ないか。気付いてるはずないな。 と、思ったとき、 脇腹を何かに押された。 追いかけるように続く激痛。半端じゃなく痛い。 撃たれた?流れ弾かよ!痛ぇ!抜けてないのか!痛ぇよ!こっ声はっ、出しちゃあっ!痛っ!ま、ずい、んだっ!気付かれる。痛い。こんなに痛い。 もう気付かれたか?離れなきゃ。痛い。気付かれないように痛いのに痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・・・。 いつだったか、みんなで花見に出かけたことがある。 昔はそういう風習があったそうだが、俺たちにすれば、桜の花なんて生で見るのは初めてだった。 弁当を食って(作った面子が面子なだけに、かなり美味かった)、ぼんやり桜の花を見てた。 シンジと惣流は少し離れたところに並んで座って、何か話している。 何を話してるのかは聞こえなかったけども、二言三言ぽつぽつと。 次の瞬間、惣流が少し動いて、シンジの左頬にキスをした。 何度もしていることだろうに、シンジは仰天したような顔をしていた。 そして、 俺はシャッターを切っていた。 いつものように現像してみたら、我ながら良く撮れてたんで、ちょうど募集していたコンクールに出した。 そうしたら、佳作入選したって通知が来た。 結構大きなコンクールだったし、入選なんてしたことなかったから、かなり驚いたものだ。 しばらくして、入選作を集めて、展覧会をやるというので、行くことにした。 無断で撮ったとは言え、一応被写体だったんで、ふたりには招待状を送った。 普段はそんなことはしないのだが、今回は、話が大きくなりすぎたんで、後でバレたりしたら、ややこしいことになるだろうと思ってのことだ。 来ないかな?とも思ったけども、しっかりふたりして来たのは、きっと昔の俺の『仕事』ぶりから連想して、どんな代物が展示されているか気になったのだろう。 会場のあまり目立たない壁に掛けられた1枚の写真。 その下には、「佳作『勝利宣言』:相田ケンスケ」と書かれたプレート。 シンジの頬に顔を寄せる惣流の写真だ。 何てことのない構図だが、シンジの狼狽寸前の微妙な表情や、眼を閉じてはいるが、はっきりそれと判る惣流の得意げな表情。そのふたりを際立たせるような木漏れ日の差し加減が、この写真を一味違ったものにしている。と、思う。 「すごいね」俺の横に立つシンジが、ぽつっと呟いた。 「それにしても、いつ撮ったのよ?」さらに横にいる惣流が俺に言う。 「たまたま狙っててね。素人じゃないんだぜ」 「玄人でもないけどね」 おぉ、言うね惣流。だけど、その表情には不機嫌さは見当たらない。 その後、シンジがトイレだかで外してしまい、俺は惣流とふたりで写真の前に立っていた。 何となく座りの悪さを覚えた頃、唐突に惣流の声がした。 「ねぇ」 どうやら俺に話し掛けてるらしい。写真の方を向いたままだ。 「ん?」返事とも言えない返事をしながら、惣流とふたりだけで話すのは初めてじゃないかな?なんてことを考えてた。 「この写真さぁ、何で『勝利宣言』ってタイトルなの?」 そう。俺はこの写真にそういう題名を付けた。 「あぁ、シンジが不意を衝かれてて、で、惣流が『してやったり』って表情してるだろ?だからさ」 「それだけ?」平気な顔して見破ってくれるもんだ。俺は巷で言われてるところの『女の勘』って神秘に驚きながら、大人しく白状した。 「シンジには言うなよ」ただし条件付きで。でも何でこんな条件を出したのか、自分でも不思議だ。 「内容次第ね」駆け引き上手め。判ったよ。 「この写真見ててさ。あぁこのふたりは勝ったんだなって、そう思ったんだよ」 「勝った?何に?」 「たぶん、世界とか、そういう、周り全部に」 「?」 「今しあわせだぞ。しあわせになれたぞ。どうだ!って、そんな感じだよ。おまえたち見てて」 それは、俺の正直な印象だった。 肩を並べて帰るふたりの背中を見ながら、俺はもう一度小さく言った。 「やっぱり、勝ったんだよ。おまえたちは」 その声に、羨ましさが混じってないと言ったら、嘘になる。 銃声は、もう随分小さくなっていた。 俺が離れたのか、向こうが遠ざかったのか、とにかく気付かれずに済んだらしい。 とりあえず、とどめを刺されるようなことは避けられた。 生きてる。 横っ腹から血と体温が失われていく、気持ち悪い感触の中、唐突に気付い た。 俺の人生に決定的に欠けていたのは、これだったと。 湿地帯特有の中途半端な泥濘の中をずるずる歩きながら、へらへら笑う男。悲しいまでに絵にならない。 絵にならないのは判っていたけど、それでも可笑しかった。 だってそうじゃないか。こんなになって、初めて手にした感覚は、もう何にもならない。せいぜいあの世に持っていくくらいだろうけど、俺はそんなものの存在は信じちゃいない。 もう俺は死ぬ。決定的に死ぬ。この有様で生きていられると思うほどに素人じゃないつもりだ。 日本を離れるときに、シンジとトウジには、メールで知らせた。 出発直前に、シンジから返事が来た。 まぁ、身体に気を付けてとか、そういう感じの個性はないが真情のある、シンジらしい内容だった。 最後のところに、 『p.s戦場なんかにノコノコ出かけて、流れ弾に当たって勝手に死ぬんじゃないわよ!あんたにはあたしたちの金婚式の写真を撮るって大事な仕事があるんだからね! by惣流・アスカ・ラングレー・碇』 と、書いてあったのには、さすがに笑った。 実際、その通りになっちゃあ、笑うに笑えないけど。 俺はポケットから、もう一度あの写真を取り出した。 いまわの際になってさえ、これを持って来た理由だけは判らない。 判らなくて当然だな、と思う。あいつらは俺とは違う人生を生きてる。昔から、俺には判らない苦しみや痛みを感じて、その上で幸せでいようと生き続けているふたりだ。 しかし、それに対する自分の感情が未分化なのが、どうにも癪な話だ。 せめて穏やかに死にたかったから、視線を写真から、まだ空にある月に移した。その方がまだ絵になる。 と、 そこに、誰かが、いた。 「・・・・・・・だ、れ・・・・・・だ・・・・・・・・・・?」もう声を出すのも一苦労だ。 あとどのくらいこうしていられるか。興味は尽きないが、それ以上に今は目の前の誰かが気になる。 もしこいつが兵士だったら、極めて散文的に俺の余韻を断ち切ってくれるだろうし、天使なり死神なりだったとしたら、それこそその実在を誰にも話せないままに死ぬのが癪になる。 そして、 そいつはそのどちらでもなかった。 霞む目を必死に凝らして、その姿を見たとき、俺の思考は停止した。危うくそのまま停止しっぱなしになるところだった。 俺は、こいつを、知っている。 記憶にも、残っている。 しかし、何故、何故その姿なんだ? それが聞きたくて、俺はそいつの名前を呼んだ。 「・・・・・・・・・・・あ、やな、み・・・・・・・・・・・」 無理に出した声だから、歯切れが悪いだろうが、聞こえてるはずだ。 どうしても聞きたかった。自分の死を忘れるほどに、目の前の綾波に心が動いた。 何故、こいつは10年前の姿をしている?しかも着ているのは中学の制服だ。 しかし、俺のそんな疑問をよそに、綾波は俺の顔をまじまじと見詰めるばかり。 ひとことも口にしない。 本格的にヤバい。とうとう眼が霞んできやがった。身体が一段と重く感じられる。 「なにを、願うの?」 やっと言った言葉がそれかよ。 呆れながらも考える。『生きたい』という単純な答え。当然だ。まだ死にたくない。 だが、その先があるような気がした。もっとはっきりした答えがあるように思えた。 手に持った一枚の写真。 そうか。そういうことか。 もう一度逢いたかった。あいつらに。 そして伝えたかったんだ。『やっと判ったよ』って。 そう。判ったんだ。俺が誰とも距離を置いてしまう理由が。 こんなキナくさい場所まで来てしまった理由が。 俺はカメラを愛していて、同時にそんな俺を嫌悪していた。 傍観してる自分のポジションに安心しながら、どこかで「主役になりたい」と思っていた。 だから、俺はあのふたりが羨ましかったんだ。 エヴァのパイロットだったからじゃない。結婚して、しあわせになったからでもない。 傷ついて、悩んで、自分で答えを見つけて、その上で生きようとしてるからだ。 今まで俺がやってこなかったことを、やってきたからだ。 けど、もう判ってる。 俺は、とっくに「主役」だったってことが。 きっと他人に言われても、肯けなかっただろう。納得できなかったから、こんな俺になったんだ。 自分で、ここに来て、こんな目に遭って、それで判ったんだ。 もう一度逢いたい。あのふたりに。 俺が俺の人生の主役だなんて、そんな当たり前のことを今更口にするのもどうかと思う。 でも俺は今になってやっと気付いたこと。 きっとシンジは「そうだね」って柔らかく笑って言うだろう。 その横で惣流は「だから、あんたはバカだってのよ」って、それでもやっぱり笑って言うのだろう。 手に取るように見えるその有様に、俺も小さく笑った。 気がつくと、目の前にいたはずの綾波が消えていた。 どこにいったのか、もう詮索する気力もない。 視界にあるのは、ただ空の月。 そして俺は目を閉じた。 |
ぽちゃん。どこかで水の跳ねる音。 < END >
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