「ミレニアム−文明の興亡この1000年の世界−」


 昨年も書いたことであるが、毎年正月には、本を読んでいることが多い。単に暇なこともあるが、テレビの特別番組を見てもしょうがないし、どっかに遊びに行くのも何だし、くらいで保たれている習慣ではある。


 さて、今年は、ミレニアム騒ぎのせい(?)で元旦は遊んでいたので、読むのに時間がかかったものであります。尤も、この本を最初に読んだのは3年前だから、今回は早く読み通せましたけどね。



 この本が日本で出版されたのは1996年の夏、書かれたのは1990年代初頭、1993年頃に上梓されたらしい。このことが何を指すのかはのちに取り上げることにしますが、よく覚えておいて下さい。


 この本の中身、上下巻1000ページにも達するハードカバーで描写されていることは、1000年代の世界史です。ちょっと考えてみてください、このスパンの世界史を描写できますか?かなり難しいですよね。でも、この1千年を複雑に多くの事象があって歴史事項は...と思うのは、我々がそもそも西暦1000年代の同時代人であるからで、遥か未来の遠い場所、「銀河博物館員である歴史研究者」という立場に立ち、「銀河の辺境の地球という惑星の中で連綿と続いた歴史のとある(比較的ダイナミックではあるが)1千年を切り取った」という目でならいかがですか?その詳細すぎる歴史書がこれであります。


 では、一緒に西暦1千年の世界に行きましょう。先ず、東アジアから筆を起こします。ここは日本...平安時代です。藤原道長が我が世を謳歌し、紫式部らの才が競い、羅生門や菅原道真の祟りに代表される物の怪が幅をきかせた時代。隣には、中原国家である「宋」が契丹が建国した「遼」と角逐を繰り返していて、後に女真族の「金」そして、モンゴルの「元」と続く北方騎馬民族による圧迫の時代の始まりを見せていた。
 イスラムは、最初期の征服拡大一辺倒から、巨大組織につきものの分裂と内部抗争を示し始めて来るが、まだまだスペインをも統治下におき、イスラム圏全体としては、地中海からインド洋に至る覇権を握っていて、後に西ヨーロッパにルネッサンスの興隆をもたらすその知識を育んでいた。
 南北両アメリカ大陸は、まだ、世界史の舞台には登場しておらず、マヤやインカの文明が支配。そして、西ヨーロッパは中世のキリスト教会支配という眠りの中にいた。


 そこから始まって、13世紀のアフリカ大陸におけるマリやジンバブエの文明群、中国における文明の変遷、東南アジアの王朝国家群の他民族文明、イスラム文明圏の変容、中南米での各文明の隆盛と衰退、西ヨーロッパ文明の登場、それによる世界各地の文明の征服と植民地化...と筆は進みます。


 つまり、この本で言えることは、西ヨーロッパが1000年代全般に渡って支配的な立場にあったわけではなく、この1000年間の中でも後半になって中心的な地位に踊り出てきたものであること。その他の地域(アジア、イスラム圏、アフリカ、南北アメリカ)は、先進的なヨーロッパによって「文明化への道筋を与えられた」のではなくて、それまでに立派な文明を持ちそれなりの文明秩序の元にあったのが、たまたま、それぞれの地域の衰亡期に「攻撃的な」西ヨーロッパと出会ったことによって、「西ヨーロッパ(後にはアメリカ合衆国も含む)による世界秩序」に組み込まれたに過ぎないと説く。



 では、この1000年間の歴史はどう閉じられるのか、西ヨーロッパの疲弊、イスラムの復活と続き、「太平洋の挑戦」と題された章を読むと、この本における(つまり1990年代始めにおける)結論が見えてくる。日本を始めとする東&東南アジア諸国の勃興と、新しい文明圏への胎動が感じられる...つまり1000年初頭の先進文明圏の一つ(勿論、世界に独立して存在する小さな)であった日本は、1000年経ってまた、再び世界に文明圏を引っさげて現れつつある、と。




 また10年弱が経った。
 日本は、本当に新しい文明を作り、世界を変える力を持っているのだろうか?


 その答えは、銀河博物館の館員にお願いいたしましょうか。



   「ミレニアム−文明の興亡この1000年の世界−」(上・下)
     フェリペ・フェルナンデス=アルメスト 著   別宮 貞徳 監訳

     NHK出版  各¥2,700

 

トップページに戻る