怒ったふり

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 あなたの会社や学校に外国人がやってきて話しているときに、急に立ち上がって大声で怒鳴り始めたらびっくりするでしょう。でも実はこれ、作戦だったりする。

 英国で楽しく生きていこうと思ったら、日本人特有の几帳面さを、ある程度あきらめないといけない。全部が全部というわけではないが、かなりの事柄が思い通り進まない。自分一人がそうだったら落ち込もするだろうが、世間一般が同じように遅れているのを知ると、妙な安心感がある。

 アクシデントで、自分の仕事が遅れたとする。でもどうせ次の人の仕事も予定通りなんか進んでないから、ちょっとぐらいで慌てることはない、と考えがちだ。

 それでも何とか遅れを取り戻さなければいけないときだってある。そんな時はいろいろと作戦を考えるわけだ。その一つが、突然大声を出して相手をびっくりさせるという手。

 英国では物静かであることが尊いとされ、その逆は敬遠される。したがって、仕事の打ち合わせなどで急に大声をだして怒鳴るなどというのは、明らかなルール違反だ。だが、プロレスでも反則技が有効なように、ごくたまに大声で怒鳴ると「これは普通の状況ではない」というメッセージを強烈に伝えることができる。

 英国人のPさんと、日本人のOさんが、納期トラブルを出した会社に出張した時のこと。会議が始まる前、Pさんが日本人のOさんに言った。「私があなたのひざをたたいたら、立ち上がって怒鳴って欲しい。内容は何でも良い。あ〜、日本語のほうが良いなあ。相手は意味がわかんないし。」

 いよいよ会議が始まる。案の定、相手の会社は、のらりくらりと英国風「俺が悪いんじゃない」系のいい訳をはじめた。「で、納期はいつになるんだ」と英国人のP。相手は答える「いつって、そりゃできたときだよ。」

 そのときだ。Pがポンとひざを叩いたのは。これを合図に立ち上がり、大声で怒鳴りだす日本人のOさん。かっと見開いた目、大きく息をする両肩。思わず息をのむ相手。すかさず、英国人のPさんが「Oさん、落ち着いて。そんなに怒鳴ってはいけないよ。」となだめる(ふりをする)。振りかえってPが続ける「いや、失礼した。しかしだ、あなた方の対応を見ていると、はるばる日本から来たOさんが、怒りたくなる気持ちもわかる。」

 こうして後の交渉は完全にこちらのペースで進んだ。

 いつもこう上手くいくとは限らないが、シェークスピアの国、英国で生きていくには、時としてこれ位の演技力は必要だろう。


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