イギリス企業の定着率

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 ある調査ではイギリスの離職率は16%。つまり、一年経つと10人に1.6人が会社をやめる。日本は約2%だ。日本企業がイギリスに進出する際、この定着率をいかに高くできるかが成功のカギだと言っていいだろう。企業に残ってもらうには、やっぱりお金。定着率を上げるためには、昇進の機会を増やしたり、優秀な社員には研修制度を用意するなど、いろんな工夫が必要だ。

 さて、定着率を上げるだけなら、意外に簡単な方法がある。まず、優秀ではない人を採用する。「いてほしい人からいなくなる」からだ。いてほしくない人ほど、いつまででも職場に残る。次に、分不相応に高い給料を渡し、他社よりも福祉の充実をはかる。たとえば、半年会社に来なくても給料は全額支給するなど。さらには責任の無い、楽な仕事を与える。つまり、これ以上居心地のいいところは無いという環境におけば、誰だって離職したいとは思わない。しかし、こんなことしたら、定着率は上がるかもしれないが、会社はすぐにつぶれてしまう。

 イギリスの企業も日本の企業のように、定着率向上に躍起になっているかというと、それほどでもない。

 私はイギリスの職場に来た時、「前田君の代わりができるイギリス人社員を作ったら、日本に帰ってもいいよ」といわれた。自分のノウハウを、他人に、しかも外国人に伝えるのは、なかなか難しい。「自分でやったほうが早い」という気持ちをぐっとこらえて、文書化してわかりやすく整理したり、適時トレーニングをしたりと、あの手この手だ。もちろん、そうして育て上げても、例の定着率の問題で、みんなが残るとは限らない。砂場に水を撒くような日々だ。

 しかし、そうやっていくうちに、私も人に教えるコツがわかってきて、どんな文書を作れば引き継ぎやすいかが、だんだんわかってきた。コツさえつかめば、新しい人が来ても、それほど困らない。よく仕事ができる人ほどいなくなるのは仕方ないが、一人いなくなった分、欠員補充で、もっと条件の良い人を採用することだって可能だ。他社で経験を積んだ人を採用するのは、有名フランス料理店を渡り歩き、厳しい修行してきた料理人を雇うのにも似ている。会社が順調であればあるほど、よい人が集まってくる。

 つまり、イギリスの会社は、会社が儲かる→良い人が集まってくる→業務手順、ノウハウの文書化が進む→会社が儲かる・・・で循環するようになっている。

 日本の企業が定着率を気にするのはなぜだろうか?定着率が高いほど、会社が繁栄して、儲かるからだ。それはなぜか。長年同じ職場にいる人は、なんといっても経験が豊かで、会社に対する忠誠心がある。その職場にはいなくてはいけないキーパーソンになってくれることだろう。

 ところが、このような日本企業の強みは、実は危険な一面をもっている。長年いる人だけがノウハウや、情報を持っていて、一切開示しない。若手社員、中途採用された人には、なかなかチャンスが回ってこない。その上経験豊富な人から、「おまえは何もわかっとらん」と一喝される。やる気が無くなるのも当然だ。終身雇用の時代はまだよかった。先輩社員はいずれ自分より先にいなくなる。そうなれば今度は自分が職場で威張る番だ。

 しかし、重要なノウハウは先輩社員とともに職場から消え、後にはたいした経験も無いのに威張ってばかりいる社員が増える。何代か世代交代するうちに、過去の繁栄はすっかり影をひそめ、ついには競争力が無くなって消えていく。

 もし職場に「この人がいなくなったら困る」という人がいたら、その職場の寿命は、実はあまり長くないのかもしれない。そういった意味では、定着率を上げることだけが良いこととは限らないのだ。


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