芙蓉鎮
                 1963年                 

某某 : たのむよ。カラシをたっぷりいれて。いれた。おへそが涙をだすくらいにね。
某某 : へそをいい子いい子して。
璃桂桂: 一杯くれ。おつゆをたっぷり。
胡玉音: おつゆ、たっぷり。
某某 : きみの手、米豆腐より白いね!
胡玉音: やらしいわ!奥さんに殴られるわよ。
某某 : きみになぐられたいな。 さあぶって!
胡玉音: ほんとに、この、ヘンタイ!
胡玉音: いらしゃい!座って!
某某 : 景気はどうだい!
胡玉音: おまけしといたわ!
胡玉音: 毎度、どうも。
某某 : 璃さん、今日は。
胡玉音: たべる。
璃満康: 玉音:かせいでる。
某某 : 母ちゃん。
五爪辣: おいで。
谷燕山: 王秋赦:寝てるのか。
王秋赦: いま行く。
谷燕山: 夜の会議 通知した?
王秋赦: これからだ。
某某 : なんだ?
王秋赦: 李さんは?
某某 : 鍋にはいないよ。
王秋赦: 重要な知らせだ、ふざけてる場合か。
某某 : そんなに威張るなよ。あっちだよ。
王秋赦: さすが国営食堂お高くとまっている。茶もださないのか。
某某 : やめろ!
☆☆
服務員: どういうことかしら。米豆腐の店ばかり繁盛して?
李国香: わかるでしょ、あれをみれば。男たちは魚に群がる猫と同じよ。
服務員: 支配人、うちも露店を出せば儲かりますよ。
李国香: 馬鹿ね、こっちはれっきとした国営の店だわ。なによ、あんな。
王秋赦: 李さん、今夜 幹部会ですよ。
李国香: 分かったわ。”四大自由”で大きな顔して!谷さん!お忙しい!
谷燕山: べつに。
李国香: お話があるの。
谷燕山: 米をだせだろ?いい米を回しているのに、料理がまずい。
李国香: 米の配給主任は厳しいのね。貴方にいいお酒を2びんとっといたわ。
    何か召し上がらない?
谷燕山: 料理にネズミの糞が入っているだろ?
李国香: いやだわ、意地悪ね。その服の襟、汚れているじゃない?
    谷さん、もっとかっこうのいい流行のにかえたら?
谷燕山: じゃあね。
李国香: 夜の幹部会に遅れないでよ。
胡玉音: あなた、谷さんよ。
谷燕山: 秋赦:またただ喰いか?秦は金を払って手伝いまでしてるぞ。少しは見習え
王秋赦: この土地はおれのものだ、もし売るとしたら、少なくても米豆腐3000杯に
     なる。
谷燕山: よくいうよ。
李国香: 許可証はある?
胡玉音: 国営店の方ね、召し上がる?
李国香: 許可証よ。
胡玉音: うちは税金は納めているけれど!
李国香: 営業許可証は?
胡玉音: ほんの内職です。
李国香: 無許可なのね。それじゃ、営業差し止めだわ。
某某 : お代わりだ。くれよ。
顧客 : なあ、追っ払ってやれ。
谷燕山: もういいだろ?いつも顔を合わせている仲だぜ。役人みたいに堅いことをいわ     ないでさ!
五保戸: ここの米豆腐はうまいからね。
璃満康: 李さん、夜の幹部会の通知いった?
李国香: 分かっているわよ、よそものでも。
☆☆
李国香: おじさん。

王秋赦: ウスノロ、反動の”五悪分子”の連中を広場に集めろ。
秦書田: はい、すぐに。
王秋赦: この煙はなんだ。
秦書田: 食事の支度でして。
王秋赦: タバコくれ。
秦書田: よろしければ、これを。
王秋赦: はやくしらせろ。
秦書田: はい。
王秋赦: ”生産大隊幹部会”
☆☆
揚民高: ここは3つの省の境界にあって事情は複雑だ。勝手に商売をして市場を混乱      さ混乱させ,人民公社の集団経済を破壊している。ここにいる幹部の諸君は、 こうした状況をどうとらえている。しかもこの芙蓉町は政治運動の死角にな   っている。そこで、県委員会も改革に本腰をいれたい。
☆☆
揚民高: 国香:よ、ここへきて、長くなるが、結婚はまだか。
李国香: ダメな男ばかりだわ、このまちは。
☆☆
王秋赦: 璃書記、集合しました。
璃満康: ウスノロ!
秦書田: みんな 立て!
秦書田: 芙蓉町の五悪分子全員集合しました。
璃満康: そろった。
秦書田: 点呼だ。右派の秦、、、はい。地主の張統得、地主の張曜忠、五悪分子の田
    富農の劉徳啓、反革命の黄金唱、富農の璃富貴。
璃満康: 本人は!
秦書田: じつは、今日の午後3時20分に吐血し出席できません。指示された事項は孫 がつたえます。
五爪辣: あきれたね。階級闘争とやらを、孫にまで押しつけてさ。
璃満康: かえってよし、今後とも行動を慎むように。解散。早く帰れ。
璃満康: ウスノロ秦!ペンキはまだ残っているか?。
秦書田: 残っています。
璃満康: 向こうの壁に書いてくれ。スローガンは、後で決めるから、写しにこい。
秦書田: はい、行きます。それから、文字は宋朝体、それとも、ゴジックにしますか。
璃満康: この前と同じでいい。
秦書田: かしこまりました。
☆☆
胡玉音: あら、谷さん。王さんが、この土地を売ってくれたの。家を新築するつもりよ李国香: おじさん。私の転勤なぜ許可されないの。県の書記の権限でなんとかして。
揚民高: もうすぐだよ。おまえは県商業局の課長だ。
☆☆
郷親甲: 新しいうちは、気持ちいいな。
胡玉音: 養子をとるつもりよ。だから保証人になって。
璃満康: いいとも。
胡玉音: 谷さん。養子の父親役をおねがいよ。
谷燕山: 父親やくかい。くず米回してるうえに、ウワサになるぜ。冗談だよ。
    家と子どもめでたい話だ。
☆☆
王秋赦: 李支配人、いや、課長さん。一年ぶりですね、今支部書記を呼びますよ。
李国香: あなた、王さんね。土地改革の。
王秋赦: どうも。
李国香: お宅へ行くわ。
王秋赦: でも、家は、うす汚いですよ。
某某 : 少しも恥じゃない。
秦書田: みなさんどうも、おつかれさまです。
☆☆
李国香: 同志のみなさん、解放後15年というのに、土地改革した王が、こんな暮らし   ぶりです。問題は何でしょう、階級闘争や、政治闘争が不足している。そうで   しょ。町で、行事でも?
王秋赦: 胡玉音:が新築して、料理も食べ放題なんです。
李国香: 胡玉音:?米豆腐の!
王秋赦: そうです、私も早く行きたいと。。。。
☆☆
璃満康: 代わりに飲むよ。
某某 : 飲ませろ。
谷燕山: 何か一言。
胡玉音: 何もできませんから、お辞儀します。
某某 : こっちで
胡玉音: 璃さん、助けて!
璃満康: もういい、後は、谷主任の挨拶だ。
☆☆
       *** 絶対に階級闘争を忘れるな。***
李国香: 差はひろがるばかり、貧富の差が激しくなるわ。同志の皆さん私たちの責任は
重大よ。
胡玉音: 王さん、昨日、なぜこなかったの。
王秋赦: 金持ちはますます、金持ち、矛盾しとる。
王秋赦: 李班長、土地改革と同じですね。
李国香: いわば第二の土地改革ね。。
王秋赦: 階級を区分する。
李国香: そう、階級を整理しなおすのよ。左派、右派、中間、とはっきり区別して。
     王さん、あなたも考えているのね。
李国香: いいわ、すてきね。
王秋赦: 私有財産を没収して分配する。
李国香: まあ、そうね。
王秋赦: そりゃいい、諸手を挙げて賛成だ。
李国香: 王さん、ここに住んでいるから、わかるでしょ。人民公社の不正だとか、
    個人の大金持ちだとか。
☆☆
李国香: 胡玉音さん?
胡玉音: 李班長、町においでとは、聞いていました。どうぞ、おはいりになって。
   あなた。政治工作班の李班長さんよ、お茶を。
     お茶をわかして!かぼちゃの種を!
     気が利かなくて!
李国香: 今日お宅へうかがったのは、政治工作班として新居を拝見しながら、新居を拝     見しながらお話したいことがあって、座って、お暇ね、県の工作班がきている ことはご存知ね。
李国香: 運動開始の前に、かく家庭の経済の実状をつかんでおきたいの。正直に話すこ とが、党への忠誠の、あかしよ。この意味分かるわね。
李国香: どうぞ。
李国香: まちがってたら言ってて。市の立つ日に500杯の米豆腐をうる、1日ほぼ5    0元の売上、1月には、6日だから、月収は300元。材料費などが100元     として、利益は200元ね、胡玉音、あなたの収入は、省の最高幹部と同じだ     わ。
胡玉音: ほんの小さな、商売です。日銭を数えるだけで、ほそぼそやっています。
    李班長、営業許可もとりました。
李国香: べつに、詐欺でもうけてると、言ってないわ。
     いいわ、その詮索は、やめましょう。
李国香: この土地は、もとは、王が土地改革で入手したわ。
     戸口の張り紙も、反動右派の秦が書いたものでしょ。
     材料の米も谷主任が市の日には、30キロもあなたに回したわ。
胡玉音: 米じゃありません。ただのくず米です。他人は豚の餌にしています。
李国香: だけど、育てた豚は、国に売っているのよ。でも、あなたは、屑米を商品かし     て儲けているわ。谷主任があなたに売った、屑米は合計で、5940キロにな     るわ。
胡玉音: いいえ、李班長、、
李国香: そうでしょ。
李国香: 心配しないで、今日は、実態の調査だけよ。私も忙しいから失礼するわ。
☆☆
幹事 : ただ今読み上げたのが、省や、県の、委員会による、点検運動で分かった。
     3件の現状報告であります。続いて第二の議題に移りります。
幹事 : 資産階級で右派の秦書田はいるか。  
幹事 : 来い! そこに立て。
李国香: この男が、芙蓉町でそのなも高い秦書田であります。ウスノロ秦です。
秦書田: そうです。
某某 : 前をむいてろ!
李国香: この階級の敵に憎しみを持たないのですか。ここで伺いたい、一体幹部の方々     はこの男に好感を持つのか、それとも、罪悪感をもつか、この男は、1957     年民謡収拾という口実や、反封建の歌曲や、舞曲をつくると称して、党や社会 主義をひどく攻撃しました。たいへん罪の重い右派分子です。そこで労働改造     という処分になった。ところが奇妙なことに、こんな男が政治宣伝を一手に牛 耳っています。街路にも、堀の上にも、革命スローガンが書かれていますが。
    すべて、この右派の筆によるものです。秦書田!答えなさい。
     この光栄ある任務は誰の指示ですか?
秦書田: 光栄ある任務!
王秋赦: ウスノロ白状しろ!
秦書田: それは、指導部です!。
李国香: のらりくらりと、言い逃ればかり!。。。さがって!
李国香: 幹部は、敵味方の区別をつけずに、過ちを犯しています。そういう幹部に聞き たい、自分の立場はどっちです?。。。同志よ、貧しい農民の皆さん、まだ奇 妙なことがあります。つい先頃この町のある露店商が自宅を新築したのですが 、その家たるや解放前の金持ちの家よりもすごいと評判です。なにしろ、この     露店商はこの李国香:年9カ月間に、なんと66元の利益をあげました。660     0元ですよ。。。。ところが一部の幹部はこの商人を支援しています。
某某 : 静かに! 静かに!
谷燕山: 便所だよ!
☆☆
璃桂桂: やはり新築の家は手放した方がいいよ。売れば300元ほど損するが、所詮、     ぼろ家にしかすめないのさ.
胡玉音: バカね、そんな、弱音を吐くなんて! ひき臼の柄がすり減るほど、鍋底に
穴があくほど働いたのよ。私たち、人を詐欺した。なぜ家を売ろうと言うのよ ?
璃桂桂: 玉音 ちょっと言ってみただけだ。家はおまえの考えどうりにしてくれ。いい  ね。
胡玉音: 大変ね!だめじゃないの、痛いのを我慢しちゃ!
璃桂桂: 玉音、おまえさえそばにいたらこわくない、宿無しになっても平気だよ。おれ を気弱な夫だと思わないでくれ、新築の家を守るためなら、人殺しでもするよ 。
胡玉音: やめて、そんなこといわないで!
璃桂桂: 実際にはやらないけどそのくらいの覚悟だ。
胡玉音: ねえ、桂桂、家を売るとか、人殺しをするとか、あんな大会ぐらいでビクつか   ないでよ。これから何があるかわからないのよ。
璃桂桂: 最悪でも死ぬだけさ。
☆☆
五爪辣: おまえさん、女班長は暗に書記を非難したんだよ。お利口な書記のあんたのこ  とをね。あの米豆腐の屋の妹ぶんだなんて、ヤニさがって。あの女班長名前だ    けはどうにか伏せたけど、いやな女だよ。身持ちの悪い、生意気な。
璃満康: よさないか、不愉快になるだけだ。
五爪辣: 威張るのはやめなよ。この甲斐性無しが!
璃桂桂: おまえなぐられたいのか。
五爪辣: 殴りな。
璃桂桂: クソババ!
五爪辣: いいきみだよ。
璃桂桂: どうする。じぶんの立場を考えてみな。
☆☆
胡玉音: ね、みつかった。
胡玉音: この貯金した、1500元は璃さんに預けましょ。家においておくと危険よ。
璃桂桂: 璃満康:に。
璃桂桂: 大会であの女班長に批判されてた。男に。
胡玉音: 大丈夫。彼は党員だし、復員軍人だわ。だから、安全よ。
それに私の、兄貴分だし。
璃桂桂: 良かろう、玉音!おまえは身を隠せ。広西の遠い親戚の家に。
胡玉音: 声が大きいわ。
☆☆
胡玉音: 璃さんこれを見つからない場所に隠してね。
胡玉音: おばさん!
王秋赦: お前たちは、みんな、五悪分子なんだぞ。だから行動をつつしめ!
家出この1週間反省をして、後で、報告をしろ。よそ見をするな。
五爪辣: そこでなにしてるの!胡玉音とは関わらない方がいいよ。後で泣きを みるだけだからね。
璃満康: うるさい。
五爪辣: 食べて、寝て、それだけでも、大変だというのに。毎日政治運動に明け暮れてさ。
璃満康: 黙ってろ。
五爪辣: 寝たら、タバコなんか、やめて。タバコの煙で蚊も落ちるよ。どうしたのよ。
気がかりでもあるのなら、言って。
璃満康: 妹ぶんの胡玉音のことだ。あの夫婦は、正直なのに、李班長の口ぶりじゃ、つ   るし上げの標的だ。胡玉音は1500元もっているし。
五爪辣: そんなお金のことなぜ知っているの。
璃満康: 没収を恐れている。
五爪辣: 関係ないわ。
璃満康: 聞けよ。大会の後で、玉音がその1500元をね、預けにきた。
五爪辣: 受け取ったの。 それどこにあるの。
璃満康: 例の場所さ。
五爪辣: わざわざ災難を招いているのね。私がこんなに尽くしているのに。まだあの女    狐にだまされて。
璃満康: なに、わめいている。
五爪辣: はっきり言って!あの女狐とはどんな関係?どっちが女房なの。
璃満康: いい加減にしないか。
五爪辣: 殴って、3人も子供を生ませておいて、もうあたしをすてるつもりね?
若い人がいいのね。この人でなし。あたしがじゃまなら殺したら? 女班長に  れだけ非難された女よ。それをかばうとは、いい度胸だわ。この家などどう   なってもいいというのね。情婦の金を隠す方が大事? あたしも監獄いきにな  るわ。 いやよ。
璃満康: なにするのよ。
五爪辣: ほっといてよ。こないで。
五爪辣: あたしが、工作班に届けてやるわ。
璃満康: やれよ。こうなったら、ぶっころしてやるぞ。おれもおしまいさ。
五爪辣: ねえ、あんた。おながいよ。ねえ、満康よく考えて。あたしなんか、どうでも  いいわ。3人の子供のことを考えて。お願いだから、お金を工作班に届けて頂  戴。一生のお願いだから。
璃満康: なんてことだ。弱いものは、ただ踏みつけれれて、惨めに、いきる、しかない   のか。
☆☆
     挿入歌
     白銀の色の、かがやく肌に
     売り座ね顔が男を誘う
     愛くるしいその魅力
     町を歩けば人目をひいて
     自宅にいれば、客絶えず
☆☆
揚民高: よく考えるんだな、ここで党籍を残すか、恋にいきて、かわいいあの娘と結婚  するか。 どっちかだ。
☆☆
李国香: 谷さん。考えてみた。?停職と自己批判の提出、これが党の県委員会と食料局 の決定よ。立派な、同志と思って尊敬してきたのに、こんな大問題を起こすと  はね、学習の典型的な教材にぴったりよ。問題は、党に対してきちんと自己批  判すれば、解決できるはずよ。わたしとしては、あなたや、芙蓉町に対し、先  入観はないのよ、
今日は、個人として、お話、したかったので、だれも、つれてこなかったの。
李国香: 谷さん、この数字は、覚えている。実は調査したら、1961年の下半期から   、2年9カ月のあいだに、新しい、ブルジュア分子胡玉音にたいして、594 0キロの米を売り渡した。事実ですね?
谷燕山: そんなに?
李国香: 大量だわ?
谷燕山: 屑米は、国の保管米と違う。
李国香: 屑米も、保管米もでも、主任の判断でそんなに回せるの?自分で畑を育てた?
国でなければどこのもの?食料局に報告した?いつから権限を?
谷燕山: 彼女だけに売ってない!帳簿をみろ、私服を肥やしてはいない。
李国香: どうかしらね。お金を横領していないことは、信用しましょう。だけどあなた   は独身の、男性だわ。その役得がありそうね。
谷燕山: 役得ってなんだ!
李国香: とぼけないでよ。魚の嫌いなねこがいる?米豆腐の、彼女、芙蓉町では有名な  、美人よ。
谷燕山: あの女と関係したとでも?
李国香: 彼女はそういう素質もあるわ。母親もだらしが、なかったし。
谷燕山: 李班長!俺が、彼女に手をだした。よくも。そんな。おれは。李国香!ヤクザ  の言いがかりだよ。工作班全員の前で、ズボンを脱いで見せてやる。
李国香: 谷燕山!まるでごろつきね!!いい年をしたおとこが、ズボンを脱ぐって!
いいわ! 全町大会を開いてやるわ!! みんなの前で脱ぎなさい。
谷燕山: この、わからずや!俺は戦争で負傷した。そのため不能になったのだ。
李国香: 谷さん、すわって!座るのよ!あなたが、胡玉音と関係ないとしても、璃さん は、負傷していないし、彼女を妹分だとして、親密にしてたでしょう。あなた と胡玉音と璃満康とウスノロ秦とこの4人は堕落しているわ。経済的に、思想 的にね。あなた方は党の外でお互いに結託して、芙蓉町の政治、経済を、左右 した。分派活動ですよ。
谷燕山: なんだって。
李国香: 実質的に形成した、小集団をね。
谷燕山: 小集団!
☆☆
某某 : どうした。
秦書田: 咳がでて。班長を消すつもりだったな。
☆☆
某某 : 彼女はどこからきたのかな?
某某 : うちの親戚で遊びにきています。
某某 : 階級はどの辺かな?
某某 : ずーとしたの方です。
某某 : 住民登録は?
某某 : 遊びに来ただけで証明はいらないと。
某某 : 証明なしでは長居できないよ。
☆☆
------ 芙蓉町階級教育展示場 --------
------ 1964年5月 工作班封印 ---
☆☆
胡玉音: おじさん!
某某 : おや、 また谷さんにようかい。あんたの件で捕まったよ。
胡玉音: すみません、どうも。璃さんは?
五爪辣: おながい、夫にはもうちかずかないで!おかげで、うちは、めちゃくちゃよ。
     夫は、県へ自己批判の学習にいったわ。かなりながくなりそうよ。
胡玉音: わたしの夫は?
五爪辣: ご主人? 向こうみずだよ、李班長の命をねらって、1カ月前に、消されてし     まったよ。
☆☆
胡玉音: あなた! あなた!どこにいるの? 答えて頂戴。あなたの女房が訪ねて来た  のよ。あなた。
秦書田: 胡玉さん、胡玉さん!泣かないで!ないてもあの男はもどらないよ!
胡玉音: だれ?
秦書田: おれだよ。
胡玉音: 幽霊。
秦書田: どうかな。幽霊のようで、人間のようで。
胡玉音: あなたは。
秦書田: 秦書田だよ、ウスノロの秦。
胡玉音: 近づかないで!  この右派の五悪分子!
秦書田: 胡玉音、きみも新富農と認定されたんだ。
胡玉音: 米豆腐売りが富農だって?  秦書田あなたのせいよ。あたしの婚礼で、祝い 歌などを披露したのが、つまずきの始まりよ。
☆☆
挿入歌
     あの夜灯したローソクは
     ゆらゆら明かりが揺らめいて
     あの娘をおもって歌いたい
     思いは募る夜の空
     苦い思いを歌に託せば
ひしひし心にしみいるよう
     まぶたにいつかあふれるよ
     尽きせぬ涙止めどなく
☆☆
1966年

     新富農の胡玉音を断固打倒せよ
     札付き右派秦の反撃を粉砕せよ
     芙蓉町の黒幕谷の仮面をはげ
     右派の璃満康に白状させろ
     ニセ物の左派李国香をあばけ
    王秋赦不羽化大革命の忠実な戦士
☆☆
某某 : 李国香だよ。
王秋赦: 雨宿りできる身分か
李国香: 紅衛兵さん、紅衛兵さん。聞いてください、これは何かの誤解ですから。
紅衛兵: 黙れ、破れ靴をかけろ。
紅衛兵: かけろ。
王秋赦: 皆さん、雨宿りを! こっちへ。その二人でろ。秦、でてこい。富農もでろ、
     雨宿りできる身分か。
秦書田: ここは!雨が強くて!
王秋赦: でてこい、悪党はいっしょに並べ。
李国香: 私を反動の五悪分子と一緒に並べないで。
紅衛兵: うるさいぞ。
李国香: 紅衛兵の皆さん、聞いて、私は県の常任委員で!
紅衛兵: なんだ、こっちへよこせ。
李国香: 苦労して、この町に定住したのよ。政治運動で成果をあげたわ。
某某 : 男に抱かれたのもその成果か。
李国香: 私は、左派よ左派なの。
某某 : さあ! 入って。休憩だ。
李国香: 私は左派なのよ。
紅衛兵: 王支部書記、革命に火をつけたのはわれわれだが、あとは、貧農が主役だ。
王秋赦: 富農だよ。ずっと資本主義の搾取を受けてきた。
紅衛兵: 資本主義の?
紅衛兵: 解放前に資本主義があった。?
王秋赦: とにかく、反動派に、抑圧されていた。
紅衛兵: 雨がやんだわ。
王秋赦: おい、李国香!胡、と一緒の組だ。反省し、勝手なまねはするな。
     秦、五悪分子を集合させろ。さあ!いこう。
紅衛兵: 謹慎しろ。
紅衛兵: バイタ!
秦書田: これを使うといい。いずれ新しいのをつくるよ。掃除を。
李国香: 右派、反動のくせに。
秦書田: あんたも、人間だろ。行こう。
☆☆
璃満康: 王支部書記。
王秋赦: 入れ。
璃満康: お呼びだそうで。
王秋赦: 北京の紅衛兵たちが持ってきた、政治運動の現状だ。
璃満康: 劉少奇批判ですね。
王秋赦: スローガンをだせ。”打倒 李国香”だ。彼女県委員会のおじの後押しで
出世したが、おわりだ。今度はおれに、ポストが回ってくるさ。
璃満康: どうですか。
璃満康: おまえさん。胡玉音の1500元を提出し党籍を守った。あの谷なんか、今じ ゃ酒浸りさ。おまえさんは、もう2年になるか、おれの秘書として、政治運動     をはじめて、政治運動はいいね。将来おれが県で出世したら、おまえを町の書 記にする、おれが視察に来たときには、歓待しろ。芙蓉町の珍味や名産はよく     わかってるぞ。こりゃ楽しみだ。
☆☆
秦書田: もう起きなさい。
     <<< 新富農 胡玉音を打倒せよ >>>
秦書田: あとは、おれがやる。
谷燕山: 璃さん、何かご指示でも?
璃満康: 王書記のご帰還だ。
谷燕山: ご苦労さまで。酒の禁止かと思った。え? 酒の禁止?
某某 : バカげてる。
☆☆
某某 : 王書記のご帰還 熱烈歓迎。おかえり。 王書記さん。収穫ありましたか。
お疲れでしょう,お留守中のこと報告します。
王秋赦: あわてるな。まず大会だよ。よその革命事情を話してやる。革命のやり方は
もう限りなくある。
某某 : そんなに?
王秋赦: 夢にも思わなかった方法もある。国中で踊りが流行だ。
某某 : 踊りが?
某某 : お疲れでしょ、まず一杯。
王秋赦: 疲れてないさ。我々見学団は大歓迎で車で送り迎えだ。専用車知ってる。みた     ことあるかい?
某某 : それ どんなの? 踊り専用の車かな?
王秋赦: もういい いま踊りを教えてやる。
某某 : また 学習?
王秋赦: 忠誠心は行動で示せ。
某某 : 踊りを見せてください!
王秋赦: 笑うな。けしからん。
王秋赦: どういうことなんだ?
璃満康: だから報告を。。。
王秋赦: どうなっているんだ、あの李国香は?
璃満康: 事情が変わって、上層部が李を復権させました。県の指導部に入り、革命常任     委員です。
某某 : お待ちしていました。
璃満康: それに。
王秋赦: 何だ?
璃満康: 公社の主任もかねて、いままでどうり、芙蓉町に定住して、革命の指導に当た     ります。
王秋赦: バカたれ。なんてこったい。
李国香: 家は前と同じよ。当分は余り人ともあわず、勉強するわ。芙蓉町の運動は私も     真剣にやりたいの。
  <<<< 新富農の胡玉を打倒せよ >>>
☆☆
挿入歌
     人むつまじく歌うたう
     心なごむ調べかな
     けれどあの娘と歌うのは
     いつも悲しいわかれ歌
     この日あなたを見送って
     別離のうたうたう
明日はむなしいひとり歌
     声を合わせる人いずこ

☆☆
秦書田: もう起きたら?。。。今朝は早いね。
胡玉音: 秦さん、毎朝予備に来ないで、私の一生はね、あなたの作った、あの歌で、
破滅したのよ。なぜ、私たちの結婚式で歌わせたの?あんな反社会的な歌を
悪党ね。ひどい人よ。そんな悪党とは知らず、字まで書かせた、するとあんな
    反社会的な言葉を書いて、夫を死なせて、私までこんなめに、あわせて。
秦書田: 闇夜が明ければ、悪党も出没できなくなるよ。
☆☆
王秋赦: 李主任は?
某某 : いないよ。
王秋赦: それじゃ、どこに?
某某 : 主任は革命で忙しい。
王秋赦: その、革命について報告が。。。。
某某 : 李主任に聞かれても、私が通したと言うなよ。
某某 : それで、次は? 今はダメよ
王秋赦: 王です。李主任。
李国香: 会えないわ。
王秋赦: 町のことで、ご報告を、王ですよ。
李国香: ヒマがないの?
某某 : 会えた。
王秋赦: 会えたよ。でも、忙しいようだ。
某某 : もっと身なりを整えたら?主任のお気に召すように。
☆☆
五爪辣: あんた、したの子を寝かしつけてよ。どうしたの。耳が聞こえなくなったの。
あたしには、知らん顔で外ではペコペコしてさ。
璃満康: 静かにしろ仕事で疲れているんだ。
五爪辣: 谷さんはいいけど。王や李主任は気にいらないね。谷さん、今晩は。
谷燕山: 璃書記よ、昼間の元気はどうした?酒はどこへ隠した。出せよ。
五爪辣: 飲んべーね。
谷燕山: 個人で物を隠すのは罪だ。私心を捨てて修正主義を批判せよだとさ。
璃満康: 谷さん!あんたが羨ましい。
谷燕山: おれのようにいきる?ムリだね。良心がないと。
☆☆
秦書田: 玉音 どうしたって言うんだ?
☆☆
谷燕山: 芙蓉町でいまいちばんみじめなのはあの若い後家だ。わかるか。
璃満康: 昔、 別れたんだ。バカだった。おれが子供だった。
谷燕山: バカだったと。
璃満康: 党が許さなかった。
谷燕山: バカじゃない!ずるい男だよ。おまえさん。玉音の金を工作班に届けただろ。
ひどい仕打ちだ。良心がないのか。
璃満康: もう言わないでくれ。
谷燕山: 言うぞ そんなに手前がかわいいか?
璃満康: 仕方がなかったんだ。2日2晩脅かされたんだ。なく子も黙る党組織からな
     おれは党籍を失いたくなかったんだ。女房や、子供たちもいるし。生きるか
    死ぬかだった。ほかに道はなかった。
ほんとは玉音のことを思うと気がとがめて、苦しかった。彼女は富農と言われ
非難にさらされた。
谷さん、頼むから、胡玉音:の名前は、もう言うな。言うなよ。さあ、飲もう。☆☆
秦書田: 熱いうちに。
胡玉音: 要らないわ。
秦書田: さめるよ。
胡玉音: 欲しくないの。死んだほうがいいのよ。
秦書田: よせよ。もっと自分を大事にしないと。
☆☆
谷燕山: おまえさん、救いはあるよ。まだ良心が残っている。飲もう。おやからっぽか 。おしまいだ。
     おしまいだよ。おしまいだ。終わってない。おしまいさ。終わってない。
     おしまいさ。いや。まだだ。おわってない。終わってない。まだだ。
おしまいか。まだだ。終わってない。
秦書田: 心配するな。谷さんだ。谷さんだ。まだ根性があるな。
谷燕山: 度胸のある奴、でてこい。でてこい。出てこい。相手になってやる。おしまい だ。終わった。
☆☆
秦書田: 玉音、もうかえるよ。横になって。眠って。明日の掃除はいいよ。おれひとり     でやる。食事も運んでくるよ。おやすみ。それじゃ。
☆☆
李国香: だれ? あんた?こんなに遅く?
王秋赦: ちょっと報告に。ご苦労さまでした。雪になって、県からのお帰りは、たいへ    んでしたね。運動の状況についてですが。
李国香: なんのご用?
王秋赦: 芙蓉町の階級闘争のご報告と。それに私の思想状況も少し。
李国香: 王さん、ずいぶん謙遜なさるのね。私はそんなに偉くはないわ。一度打倒され た身です。
王秋赦: 李主任、私は無学で思想もない。口まねで、スローガンを唱えるだけです。
李国香: それでいいのよ。
王秋赦: 恥ずかしいよ。
李国香: 卑下しないで。
王秋赦: しかも恩知らずです。あなたのおかげで入党し支部書記にもなれたし、革命の 思想も戴いた。その恩もわすれ。大きな顔をした。毎日後悔の年で一杯です。
李国香: 私はそんな昔のこと覚えていないわ。昔のことはいいの。後悔する必要なんか     ないわ。
王秋赦: 李さん、きっと許してくださると思いました。
李国香: いつもと違うわね。こざっぱりして。
王秋赦: 何とか見苦しくない格好で。ご報告をと。じつは新しい動きが出ました。昨夜
    谷燕山町の通りで大声でわめいて、主任の悪口を叫んでね。運動への当てこす     りです。
李国香: 王さん。そういう動きは防がないと、谷さんのような人物に町を牛耳られたく ないわ。分かるわね。いい。さー座って。
李国香: 王さん。今度の運動で実力を見せてくれたら、あなたを専従幹部に抜擢するつ もりなの。
王秋赦: 李主任、ほんとにお詫びします。李主任、なんと言えばいいか。これからは、
     ただひたすら、あなたに、あなただけに、お仕えますから。
李国香: 襟首が汚れてるわ。
☆☆
胡玉音: だれ?
秦書田: 王秋赦!
☆☆
秦書田: 米豆腐!
胡玉音: たべて!
秦書田: 体はもういいの?
秦書田: すぐ失礼するよ。
胡玉音: ダメ。熱いうちに食べて。。。。。。
胡玉音: 食べてから。
胡玉音: お墓参りがすんでからね。
秦書田: わかった。
☆☆
秦書田: じつはね、こんな掃除だって、恥ずかしくないよ。気持ちの持ち方ひとつだ。
     123、223。
    おいで!
胡玉音: なに
秦書田: 来いよ。
秦書田: 王さん、ご苦労さまで。
秦書田: これは4才のときだ。12才だ。19才。祝いの歌の大会で授賞したときだ。
    これ以後、写真はとってない。これがお袋だよ。きみのしゅうとめだ。
     これが、おやじ。君のしゅうとだ。
秦書田: どうした。どうしたの?
胡玉音: あかちゃんよ。
秦書田: ほんとうか。
胡玉音: やめて!
秦書田: 玉音!
胡玉音: 離れてて。
秦書田: 結婚しよう。玉音!
胡玉音: こんな身分で、あの連中が許すと思う?。
秦書田: 結婚できないほどの罪を犯したわけじゃない。五悪分子だろうと結婚は許され    るよ。
胡玉音: ねえ! 書田! だれかくるわ。早く。
     <<< 結婚嘆願書 このたび、秦書田と胡玉音は >>>
     <<< 結婚いたしたくお届申し上げる次第です。 >>>
秦書田: 疲れただろう、さあ!横になって。そっと。
     <<< 両名とも心をいれかえ改造につとめますの >>>
     <<< お許し下さるよう伏してお願い申しあげます>>>
☆☆
王秋赦: なんだ。富農の胡玉音と結婚して婚姻届を?
秦書田: はい! ぜひお認め下さい。
王秋赦: 自分をなんだと思ってる?
秦書田: 王さん、ですから、何とか、粋なあなたのお計らいで。
王秋赦: バカな!
秦書田: はい、さようで!
王秋赦: いつごろから?
秦書田: はっきりしませんが。正直にもうします。ご命令で掃除をしているうち、私た     ちはお互い独身でもあり、年月とともに自然に求め会うようになって、
王秋赦: 何回やった?
秦書田: 滅相もない、許可もなくそんなこと。正しい恋愛です。
王秋赦: 正しい恋愛?おまえたちそんな身分か?五悪分子に結婚は許されん。
秦書田: 支部書記さん、私たちは、反動で悪らつです。でも、たとえメンドリとオンド     リだろうと、メス犬とオス犬だろうと、ともに暮らすのが自然です。
王秋赦: ウスノロよ、そこまで自分を卑しめるなって。今回は大目にみるとして、検討     しておく。人民公社で審査されていずれ結論が出るさ。
秦書田: 王さん。ほんとうにご迷惑とは思いますが、あなただけが頼りなのです。
     じつは、子供ができてまして。
王秋赦: 子供!
秦書田: いえ、何と申しますか。
王秋赦: 陰でこそこそやったのか。? 消え失せろ!
王秋赦: 白い対聯を用意しとく。あす、門に張り付けろ。
☆☆
某某 : なんだい。白とは不吉だね。犬畜生の男女。
     <<< 反革命の 夫婦   >>>
秦書田: どうした!泣くなよ。めでたいのに。時には党の上層部もなかなか気のきいた     ことをするよ。反革命の夫婦革命的だろうと、党のくれた対聯で宣言したのも     同じだ。公式に夫婦だと。
秦書田: だれかな、みてくる。 。。どなた?
谷燕山: 開けろよ。結婚には媒酌人が要るだろ?だから来たんだ。酒や魚をこそこそ買     っていただろう。それを見てピンときたんだ。お祝いにつきあったら、飲ませ     てもらえるしな.おれ以外にくる客もいないだろうし、だが、この媒酌人も形式  だけだ。員数合わせだよ。あの石畳と竹ぼうきこそが、ほんとうの、仲人だ。
     それ、赤ワインだろ、君らにはぴったりだが、おれは白酒だ。祝いの品を持っ てきた、いやかもしれんが、ここ数年、この町で、結婚した連中には、いつも
贈っている。早く、子供ができるようにね。どんな、夫婦にも跡継ぎが必要だ     よ。反動でも、疫病神でも、夫婦なら子供がほしい。
胡玉音: 谷さん。心からお詫びします。私のために、あの屑米で濡れ衣を着せられて
古参党員のあなたが、こんなめにあうなんて、申し訳なくて、この世では、ご 恩に報いられません、生まれ変わったら必ず恩返ししますから。
谷燕山: さあ!立って。もういい。さあ!これから楽しく飲もうじゃないか。
秦書田: 玉音!飲むんだ。
谷燕山: 結婚には祝い歌つきものだ。しきたりさ。さあ!歌え。
秦書田: 玉音!歌え!
☆☆
     <<< 結婚嘆願書 >>>
李国香: いいきなものね。革命をなめてるわ。
王秋赦: 逮捕して連行しろ。
     <<< 文化大革命の勝利の成果を守れ >>>
紅衛兵: 公安検察裁判所の軍事委員会の判決は次の通り。右派分子反革命現行犯の秦 書田は、懲役10年の計に処す。反動的な富農分子の胡玉音は、懲役3年の計 に処す。ただし、妊娠中なので執行を猶予し芙蓉町で、大衆監視下の、労働処     分とし,厚生を期待する。文化大革命は、ここに偉大な勝利をおさめた。
敵どもは枕を高くして眠れないぞ。やつらは必ず糾弾されるのだ。
秦書田: 生きぬけ。豚のように生き抜け。生き抜け。牛馬となっても生き抜け。
☆☆
谷燕山: 玉音!
胡玉音: 谷さん!
谷燕山: もう生まれるのか。
胡玉音: 私、もう30才だから、初産は大変なの。そばにいて、どうせ、私は死ぬのよ
     親も子も助からないわ。
谷燕山: すぐ戻る。とまれ。おい。とまれ。
看護婦: 30過ぎの初産は難産ですからね。帝王切開します。家族のサインを!
某某 :: 新中国のため、前進!新中国のため、前進。岸辺にたち、はるか海を見れば。     波間に見えかくれする、希望の帆柱。それは四方に光を放ち昇ろうと朝日のよ うに母の胎内を跳ねまわり、育ちゆく胎児のように、もろ手をあげて歓迎した いもの。
胡玉音: かわいいわ。
看護婦: お子さんのお名前は?
胡玉音: 谷軍!
看護婦: 軍!
胡玉音: 解放軍の軍です。
看護婦: 谷軍ね。
☆☆
                 1979年
某某 : 胡玉音同志、座って。党中央の通達に基づいて、地区委員会の検討を、へまし     て。県委員会の許可により、あの新築の家を返します。1500元も還付しま    す。ほかに何かご希望でも?
胡玉音: 返してくれるの?家と、お金だけ?夫を返して頂戴!夫を返してよ!
     夫を返してよ。夫を返してよ。。。。
☆☆
李国香: ねえ!高さん!この芙蓉町では長く働いたわ。聞いています。かなり前の
ことですね。
秦書田: エリート幹部はお忙しいようで。
李国香: そう、秦書田ですよ。
秦書田: あだ名はウスノロ職業は道路掃除、腕前は一流。文化大革命中に結婚し妻の名 前は、胡玉音。
李国香: 秦書田同志。いままでずいぶんご苦労なさったわね。
秦書田: 秦書田同志、そう呼ばれちゃ、面喰うな。
李国香: あなたの名誉回復私がサインしたわ。
秦書田: そう、それが正式な手続きでしょう。
某某 : 李主任乗って下さい。
李国香: 後の祭だけれど。何かお役に立てればと思うわ。
秦書田: まだ、結婚されていませんね。
李国香: 省都で結婚するの。
秦書田: よかった。せいぜい、庶民的な家庭を築いてください。庶民をバカにせずにね     庶民の暮らしも気楽に見えて、結構大変なんです。
某某 : だれなの。知らないよ。
某某 : 軍ちゃん、早くお行き。お父さんが帰ったのよ。
谷軍 : かあちゃん。
胡玉音: なに。
谷軍 : 帰ってきた。
李国香: 誰が帰ってきた。?
某某 : やっと帰った。ねえ、軍ちゃん。早く家へお入りよ!
谷軍 : かあちゃん。
李国香: これが、お父さんよ。
谷軍 : なぜ、いなかった?
☆☆
     <<< 胡屋 米豆腐店 >>>
某某 : おい! 米豆腐一杯。
秦書田: 玉音!
胡玉音: いま行くわ。ようこそ。
秦書田: 谷さんがきてるよ。
胡玉音: 谷さん、少し足すわ。
某某 : うまいね、追加はいくら!
胡玉音: サービスよ。
谷燕山: 15年前と同じだよ。人気が出るわけだ。
某某 : 近ごろ味がまた良くなった。
秦書田: 嫁さんの腕ですよ。
璃満康: おい同志!営業許可証は?許可証だ。
胡玉音: 満康さん!召し上がってね。
璃満康: 玉音!旦那を大事にしろよ。
胡玉音: 大丈夫よ
秦書田: どうした。
胡玉音: 夫を大事にしろって。
璃満康: じつは、県の指導部から、あんたに、復職しろと言ってきた。文化会館の
     館長だ。
某某 : ウスノロ、いや、秦さん、おめでとう。
某某 : 座ってろ。
秦書田: 20年前のポストだよ。忘れたな。やる気はない。
某某 : 書田、名誉回復されたんだ。もう立派に一人前の人間なんだから。
秦書田: おれは、玉音がそばにいれば満足さ。悪党でも恋はできる。
秦書田: 玉音!。。。。。なあ、満康:この道は近ごろ汚くなったな。
     昔はきれいに掃除したよ。どうだろう、また、おれが掃除する。
     離れないよ。
王秋赦: 政治運動だぞ。革命だ。革命だ。
秦書田: 怖がるな。王がああなるとは!
谷燕山: 世の中、皮肉なもんだ。一番熱心にお先棒かついだ奴が変になった。
     政治運動のおかげでね。
某某 : 行け。消え失せろ。
秦書田: 玉音!あいつにも米豆腐を一杯やろう。
谷燕山: 政治運動だぞ。
王秋赦: そうだとも!政治運動が始まるぞ。
秦書田: 奴の言う通り、世の中いつ変わるやら。
王秋赦: 夕食後に集合、政治運動だ。革命だ。政治運動の始まりだ。
     政治運動が始まるぞ。革命だ。革命が始まるぞ。
                  終

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